大和俗訓 / 巻之七・躬行下
一古人は、人の朝早く起くると、おそく起くるとを以て、家の興廢を知るといへり。朝早く起くるは、家の榮ゆるしるしなり。遲く起くるは、家の衰ふる基なり。朝つとにおきて事を勉むるを以て、身の習はしとし、家のつとめの則とし、見習はしむべし。凡の人を見るに、朝居しては學ぶことならず。家業怠りて、富めるもの稀なり。朝居するは怠のはじめ、貧窮のもとゐなり。よく事をつとむる者は、一日を以て十日とす。つとめて怠なく、銳なれば捗ゆく故なり。おこたる者は、十日を以て一日とす。日數多く經るといへど捗ゆかず。凡善をつとめて怠らざるを良士とす。必家をおこす。家業をつとめて怠らざるを良民とす。必富む。
新字:一古人は、人の朝早く起くると、おそく起くるとを以て、家の興廃を知るといへり。朝早く起くるは、家の栄ゆるしるしなり。遅く起くるは、家の衰ふる基なり。朝つとにおきて事を勉むるを以て、身の習はしとし、家のつとめの則とし、見習はしむべし。凡の人を見るに、朝居しては学ぶことならず。家業怠りて、富めるもの稀なり。朝居するは怠のはじめ、貧窮のもとゐなり。よく事をつとむる者は、一日を以て十日とす。つとめて怠なく、鋭なれば捗ゆく故なり。おこたる者は、十日を以て一日とす。日数多く経るといへど捗ゆかず。凡善をつとめて怠らざるを良士とす。必家をおこす。家業をつとめて怠らざるを良民とす。必富む。
書き下し
一古人は、人の朝早く起くると、おそく起くるとを以て、家の興廃を知るといへり。朝早く起くるは、家の栄ゆるしるしなり。遅く起くるは、家の衰ふる基なり。朝つとにおきて事を勉むるを以て、身の習はしとし、家のつとめの則とし、見習はしむべし。凡の人を見るに、朝居しては学ぶことならず。家業怠りて、富めるもの稀なり。朝居するは怠のはじめ、貧窮のもとゐなり。よく事をつとむる者は、一日を以て十日とす。つとめて怠なく、鋭なれば捗ゆく故なり。おこたる者は、十日を以て一日とす。日数多く経るといへど捗ゆかず。凡善をつとめて怠らざるを良士とす。必家をおこす。家業をつとめて怠らざるを良民とす。必富む。
現代語訳
古人は、人が朝早く起きるか遅く起きるかによって、家の興廃を知ると言いました。朝早く起きるのは家の栄えるしるしです。遅く起きるのは家の衰えるもとです。朝早く起きて事に励むことを、自分の身の習慣とし、家の務めの規則とし、家の者に見習わせなさい。およそ人を見ると、朝寝坊をしては学ぶことができません。家業を怠って、富む者はまれです。朝寝坊は怠りの始め、貧窮のもとです。よく事を努める者は、一日を十日分とします。努めて怠りがなく、鋭く取り組むのではかどるからです。怠る者は十日を一日分とします。日数を多く経てもはかどりません。およそ善を努めて怠らない者を良士とします。必ず家を興します。家業を努めて怠らない者を良民とします。必ず富みます。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『五常訓』巻之四・礼一朝は早くおきて、事をつとむべし。古語に、一日の計は朝にありといへり。朝よりおこたれば、一日のつとめ捗ゆかず。故に朝おくる事の遅速を見て、其人の家の、興ると衰ふるとを知るべしと、古人もいへり。夜も学問家業をつとむべし。夜気は静なる故、事功尤はかゆくものなり。つとめて止まず、君子の人にまさるゆゑんなり。おこたりて務めず、衆人の君子に及ばざるゆゑんなり。士のみならず、農工商も同じ。よくつとめて、怠らざるは、必家をおこす。或人うたがふ、君子如此に、つとに起き、夜半にいねて、おこたらずんば、おそらくは精力つかれて、養生の道にあらじと云ふ。答へて曰、しからず。礼記曰く、君子荘敬なれば日につよく、安肆なれば日におこたる。いふ意は、行正しく、つつしみありて勤むれば、精力日々につよくなる。是血気めぐりて、陽気発生する故、病生ぜず。身を安く、わがままにして、つとめざれば、日々に怠りて、弱くなる。是血気ふさがりて滞り、元気めぐらずして、養生の道にたがへばなり。
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『家道訓』巻之一・総論上一毎日つとに起きて、手と面をあらひ、まづ父母の気色をうかがひ、飲食のこのみを問ひてととのへすすめ、其もとめあるを聞きて、つとめ行ひて、父母の心にかなふべし。子弟に、其の日の務むべき課程をさづけをしへ、奴婢に、其の日の所作を云ひつけ、おこたりなからしめ、外事あらば使を命じ、人の附託あらば滞なく整ふべし。朝は早くおき、門戸を早く開かせ、家内の塵をはらひ、門の内外庭中を掃除して、皆いさぎよくすべし。朝おそく起くるは家のおとろへとなる。いましむべし。古人、家の盛衰は、朝おくることの遅速を以て試むべしと云ひし、むべなるかな。
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『大和俗訓』巻之一・為学上古人も、常にしておかず、つねに行ひてやまざる者には及びがたしといへり。又いたづらに為すことなく、常に隙多き人は、人にすぐるる事はなきものなりといへり。たとへば農人商人の、つとめていとまををしみ、朝夕田を作り、あきなふ者は、必人にすぐれて、其家富みて、衣食ともしからず。古人も人生はつとめにあり。つとむれば則まどしからずといへり。国家の政をくはしくつとむれば、其国家必治まる。学問をくはしくつとむれば、必諸人にすぐれて、其才すすむ。万の事皆しかり。隙ををしみて久しくつとむれば、成就せざることなし。それ人の宝は、いとまに過ぎたるはなし。いかんとなれば、君子の学問をつとめ、国家の政を行ひ、父母主君に仕へ、諸芸をまなび、農の田を作り、商人のひさぎ、百工の器物を作り、婦女の布帛をおりぬふも、皆いとまを用ひてなし出すわざなれば、人の尤おもんじをしむべき事、いとまに過ぎたるはなし。
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『大和俗訓』巻之七・躬行下一世に住むこと一日なれば、一日の善人となるべし。一日も善を行はずして、日を送るべからず。公儀の官職にあづかりて、官に居ること一日ならば、一日の善事をなすべし。一日も善を行はずして、官をむなしくすべからず。世に久しく住みて、善行なきは、一生を空しくするなり。官職に居て善行なきは、官職を空しくするなり。此二は、大なる恥なり。
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