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五常訓 / 巻之四・礼

一禮の初は、聖人の、心になき事を作り出して、をしへ給ふにあらず。生れつきたる人情に本づきて、過不及なきよき程なる理ををしへ給ふなり。人の身に、飢渴内に生じ、寒暑外にふるゝ故、飮食衣服せざる事あたはず。飮食をよき程にし、衣服を正しくするは禮なり。うゑかつえするとて、みだりに多く飮みくひ、人に讓なく、爭ひ食ふは、禽獸の行なり。わが身に應ぜざる衣服を著るは、上ををかし、下にせまり、或はみだりなる服食を用ふれば、身に相應せず。又男女の色も、心に任せぬれば、淫亂にいたるゆゑに、夫婦の別、男女の間を正しくす、君臣、父子、凡人倫の交も、其理にかなひて、よき程に愛しうやまふ法あり。これ皆禮なり。禮なければ、君臣、上下尊卑、貴賤、長幼、男女のわかちなく、師弟子、朋友、賓客のまじはり薄し。

新字:一礼の初は、聖人の、心になき事を作り出して、をしへ給ふにあらず。生れつきたる人情に本づきて、過不及なきよき程なる理ををしへ給ふなり。人の身に、飢渇内に生じ、寒暑外にふるゝ故、飲食衣服せざる事あたはず。飲食をよき程にし、衣服を正しくするは礼なり。うゑかつえするとて、みだりに多く飲みくひ、人に譲なく、争ひ食ふは、禽獣の行なり。わが身に応ぜざる衣服を著るは、上ををかし、下にせまり、或はみだりなる服食を用ふれば、身に相応せず。又男女の色も、心に任せぬれば、淫乱にいたるゆゑに、夫婦の別、男女の間を正しくす、君臣、父子、凡人倫の交も、其理にかなひて、よき程に愛しうやまふ法あり。これ皆礼なり。礼なければ、君臣、上下尊卑、貴賤、長幼、男女のわかちなく、師弟子、朋友、賓客のまじはり薄し。

書き下し

一礼の初は、聖人の、心になき事を作り出して、をしへ給ふにあらず。生れつきたる人情に本づきて、過不及なきよき程なる理ををしへ給ふなり。人の身に、飢渇内に生じ、寒暑外にふるる故、飲食衣服せざる事あたはず。飲食をよき程にし、衣服を正しくするは礼なり。うゑかつえするとて、みだりに多く飲みくひ、人に譲なく、争ひ食ふは、禽獣の行なり。わが身に応ぜざる衣服を著るは、上ををかし、下にせまり、或はみだりなる服食を用ふれば、身に相応せず。又男女の色も、心に任せぬれば、淫乱にいたるゆゑに、夫婦の別、男女の間を正しくす、君臣、父子、凡人倫の交も、其理にかなひて、よき程に愛しうやまふ法あり。これ皆礼なり。礼なければ、君臣、上下尊卑、貴賤、長幼、男女のわかちなく、師弟子、朋友、賓客のまじはり薄し。

現代語訳

礼の初めは、聖人が心にないことを作り出して教えられたのではありません。生まれつきの人情にもとづいて、過不及のないちょうどよい程の理を教えられたのです。人の身には、飢えや渇きが内に生じ、寒さ暑さが外にふれるので、飲食や衣服をしないわけにはいきません。飲食をちょうどよい程にし、衣服を正しくするのが礼です。飢え渇くからといって、みだりに多く飲み食いし、人に譲ることなく争って食べるのは、禽獣の行いです。自分の身に応じない衣服を着るのは、上の者を侵し、下の者に迫り、あるいはみだらな服や食べ物を用いれば、身に相応しません。また男女の色も、心に任せれば淫乱に至るので、夫婦の別や男女の間を正しくします。君臣・父子など、およそ人倫の交わりも、その理にかなって、ちょうどよい程に愛し敬う法があります。これらはみな礼です。礼がなければ、君臣・上下尊卑・貴賤・長幼・男女の区別がなく、師弟・朋友・賓客の交わりも薄くなります。

解説

礼は聖人が勝手に作ったものではなく、飢えや寒さ、男女の情といった人間の自然な欲求を、ちょうどよい程に整えるために教えられたものだと説いています。飲食・衣服・男女・人間関係のそれぞれに程よさの基準があり、それがなければ争いや乱れが生じるという考えは、朱子学の礼論の基本です。身分に合わない服装を戒める点には江戸時代の身分秩序が表れていますが、欲望を否定せず上手に整えるという考え方自体は、今の暮らしにも生かせる知恵です。

この章句が説くこと

礼人情飲食衣服人倫

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