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五常訓 / 巻之三・仁之下

一人は貴き賤しき、唯つねに仁心を存して、日々に、人に利益あることを行ふべし。忿をこらへ、慾をおさへて、日々善行をなすべし。いかりと慾をこらへざれば、善を行ひがたし。唯いかりをおさへ、慾をこらゆる人、善をよく行ふ。わが身を利して、人に損ある事を行ふべからず。我が力にしたがひて、人を救ふべし。仁心をだにたもちなば、日々に善行多かるべし。少しは財をつひやし、少しは心をつかひ、少しは隙をつひやしても、人の利益になる事を行ふべし。人のために益ある事をせずして、我が身に利ある事のみするは、小人の心なり。日々善にならへば、善心日々にさかんになる。日々惡にならへば、惡心日々にさかんになる。善にならへば、日々に樂み、惡にならへば日々に苦む。善惡共にならひによれり。されども惡にはおもむき易し。故におそるべし。善には進みがたし。故につとむべし。

新字:一人は貴き賤しき、唯つねに仁心を存して、日々に、人に利益あることを行ふべし。忿をこらへ、慾をおさへて、日々善行をなすべし。いかりと慾をこらへざれば、善を行ひがたし。唯いかりをおさへ、慾をこらゆる人、善をよく行ふ。わが身を利して、人に損ある事を行ふべからず。我が力にしたがひて、人を救ふべし。仁心をだにたもちなば、日々に善行多かるべし。少しは財をつひやし、少しは心をつかひ、少しは隙をつひやしても、人の利益になる事を行ふべし。人のために益ある事をせずして、我が身に利ある事のみするは、小人の心なり。日々善にならへば、善心日々にさかんになる。日々悪にならへば、悪心日々にさかんになる。善にならへば、日々に楽み、悪にならへば日々に苦む。善悪共にならひによれり。されども悪にはおもむき易し。故におそるべし。善には進みがたし。故につとむべし。

書き下し

一人は貴き賤しき、唯つねに仁心を存して、日々に、人に利益あることを行ふべし。忿をこらへ、慾をおさへて、日々善行をなすべし。いかりと慾をこらへざれば、善を行ひがたし。唯いかりをおさへ、慾をこらゆる人、善をよく行ふ。わが身を利して、人に損ある事を行ふべからず。我が力にしたがひて、人を救ふべし。仁心をだにたもちなば、日々に善行多かるべし。少しは財をつひやし、少しは心をつかひ、少しは隙をつひやしても、人の利益になる事を行ふべし。人のために益ある事をせずして、我が身に利ある事のみするは、小人の心なり。日々善にならへば、善心日々にさかんになる。日々悪にならへば、悪心日々にさかんになる。善にならへば、日々に楽み、悪にならへば日々に苦む。善悪共にならひによれり。されども悪にはおもむき易し。故におそるべし。善には進みがたし。故につとむべし。

現代語訳

人は身分の高い者も低い者も、ただ常に仁の心を保って、日々人に利益のあることを行うべきです。怒りをこらえ、欲を抑えて、日々善い行いをすべきです。怒りと欲をこらえなければ、善を行うことは難しいのです。ただ怒りを抑え、欲をこらえる人が、善をよく行います。自分の身を利して、人に損のあることを行ってはなりません。自分の力に応じて人を救うべきです。仁の心さえ保っていれば、日々善い行いが多いでしょう。少しは財を費やし、少しは心を使い、少しは暇を費やしても、人の利益になることを行うべきです。人のために益のあることをせずに、自分の身に利のあることばかりするのは、小人の心です。日々善に慣れれば、善い心は日々に盛んになります。日々悪に慣れれば、悪い心は日々に盛んになります。善に慣れれば日々に楽しく、悪に慣れれば日々に苦しみます。善も悪もともに習慣によります。けれども悪には向かいやすいものです。ゆえに恐れるべきです。善には進みにくいものです。ゆえに努めるべきです。

解説

善を行う妨げは怒りと欲であり、それをこらえる人が善をよく行うと説いています。少しの財、少しの心、少しの暇を人のために使えという具体的な勧めは、誰にでもできる実践です。善も悪も「ならひ」、つまり習慣によって日々強まっていくという指摘は、『論語』陽貨篇の「性相近く、習ひ相遠し」に通じます。悪には流れやすく善には進みにくいからこそ努めよという言葉は、よい習慣づくりを目指す人にとって心強い励ましになります。

この章句が説くこと

善習慣怒り欲仁

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