五常訓 / 巻之一・総論
一許愼が說文に、四夷を說きて曰く、南方は蠻と云ふ、蟲に从ふ。北方を狄と云ふ、犬にしたがふ。西方を羌と云ふ、羊に从ふ。たゞ東夷は大にしたがふ。大は人也。東夷の風俗は仁也。仁者は壽し。君子不死の國あり。孔子曰、道不行欲之九夷乘桴浮於海。有以也といへり。是南蠻、西戎、北狄は、皆文字も蟲と獸に从ふ。唯東夷のみ人にしたがへり。日本は東夷なり。九夷の内也。孔子も中國にて道行はれざる故、九夷に居らんとのたまふ。是我が國の、他國にまさりて、人の道ある國なれば也。又日本を不死の國と云ふも故あり。日本の人は、もろこし又其餘の國より長命なればなり。一五常の和訓、仁はいつくしみ、義はよろし、禮はうやまふ、智はさとる、信はまこととよむ。
新字:一許慎が説文に、四夷を説きて曰く、南方は蠻と云ふ、虫に从ふ。北方を狄と云ふ、犬にしたがふ。西方を羌と云ふ、羊に从ふ。たゞ東夷は大にしたがふ。大は人也。東夷の風俗は仁也。仁者は寿し。君子不死の国あり。孔子曰、道不行欲之九夷乗桴浮於海。有以也といへり。是南蠻、西戎、北狄は、皆文字も虫と獣に从ふ。唯東夷のみ人にしたがへり。日本は東夷なり。九夷の内也。孔子も中国にて道行はれざる故、九夷に居らんとのたまふ。是我が国の、他国にまさりて、人の道ある国なれば也。又日本を不死の国と云ふも故あり。日本の人は、もろこし又其余の国より長命なればなり。一五常の和訓、仁はいつくしみ、義はよろし、礼はうやまふ、智はさとる、信はまこととよむ。
書き下し
一許慎が説文に、四夷を説きて曰く、南方は蠻と云ふ、虫に从ふ。北方を狄と云ふ、犬にしたがふ。西方を羌と云ふ、羊に从ふ。ただ東夷は大にしたがふ。大は人也。東夷の風俗は仁也。仁者は寿し。君子不死の国あり。孔子曰く、道行はれず、九夷に之かんと欲し、桴に乗りて海に浮ばんと。以有るなりといへり。是南蠻、西戎、北狄は、皆文字も虫と獣に从ふ。唯東夷のみ人にしたがへり。日本は東夷なり。九夷の内也。孔子も中国にて道行はれざる故、九夷に居らんとのたまふ。是我が国の、他国にまさりて、人の道ある国なれば也。又日本を不死の国と云ふも故あり。日本の人は、もろこし又其余の国より長命なればなり。一五常の和訓、仁はいつくしみ、義はよろし、礼はうやまふ、智はさとる、信はまこととよむ。
現代語訳
許慎の『説文解字』に、四方の異民族を説いて、「南方を蛮という、虫にしたがう。北方を狄という、犬にしたがう。西方を羌という、羊にしたがう。ただ東夷は大にしたがう。大は人である。東夷の風俗は仁である。仁者は長寿である。君子不死の国がある。孔子が『道が行われないので九夷に行こうと思い、いかだに乗って海に浮かぼう』といったのは理由のあることである」とあります。南蛮・西戎・北狄はみな文字も虫と獣にしたがっています。ただ東夷だけが人にしたがっています。日本は東夷です。九夷の内です。孔子も中国で道が行われないので、九夷に住もうとおっしゃいました。これはわが国が他国にまさって、人の道のある国だからです。また日本を不死の国というのも理由があります。日本の人は、中国やそのほかの国より長命だからです。五常の和訓は、仁は「いつくしみ」、義は「よろし」、礼は「うやまう」、智は「さとる」、信は「まこと」と読みます。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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