五常訓 / 巻之一・総論
一五常の性は、唯人のみこれあるにあらず。禽獸にも、亦其一性はこれあり。虎狼にも父子の道あり。慈鳥の巢立して、母に餌をふくめかへす、猫の他の子に乳をのませてそだつる、是皆仁の一端を得たり。犬の主人をしたひ、蜂蟻に君臣の法あるは義なり。豺獺の祭をして本にむくい、鴻雁の兄弟の行列をみだらざるは禮なり。鴛鴦の雌雄相愛すると、雎鳩の雌雄別あるは智なり。鴻雁の去來するに、春秋の期をたがへず、雞の鳴く時節をたがへざるは信なり。是皆むまれつきたる一偏の性のよき所なり。もし人として此性を失はゞ、禽獸にしかずと云ひつべし。
新字:一五常の性は、唯人のみこれあるにあらず。禽獣にも、亦其一性はこれあり。虎狼にも父子の道あり。慈鳥の巣立して、母に餌をふくめかへす、猫の他の子に乳をのませてそだつる、是皆仁の一端を得たり。犬の主人をしたひ、蜂蟻に君臣の法あるは義なり。豺獺の祭をして本にむくい、鴻雁の兄弟の行列をみだらざるは礼なり。鴛鴦の雌雄相愛すると、雎鳩の雌雄別あるは智なり。鴻雁の去来するに、春秋の期をたがへず、鶏の鳴く時節をたがへざるは信なり。是皆むまれつきたる一偏の性のよき所なり。もし人として此性を失はゞ、禽獣にしかずと云ひつべし。
書き下し
一五常の性は、唯人のみこれあるにあらず。禽獣にも、亦其一性はこれあり。虎狼にも父子の道あり。慈鳥の巣立して、母に餌をふくめかへす、猫の他の子に乳をのませてそだつる、是皆仁の一端を得たり。犬の主人をしたひ、蜂蟻に君臣の法あるは義なり。豺獺の祭をして本にむくい、鴻雁の兄弟の行列をみだらざるは礼なり。鴛鴦の雌雄相愛すると、雎鳩の雌雄別あるは智なり。鴻雁の去来するに、春秋の期をたがへず、鶏の鳴く時節をたがへざるは信なり。是皆むまれつきたる一偏の性のよき所なり。もし人として此性を失はば、禽獣にしかずと云ひつべし。
現代語訳
五常の性は、ただ人だけにあるのではありません。禽獣にもまたその一つの性はあります。虎や狼にも父子の道があります。慈烏(からす)が巣立ちして母に餌を口移しで返し、猫が他の猫の子に乳を飲ませて育てるのは、みな仁の一端を得たものです。犬が主人を慕い、蜂や蟻に君臣の決まりがあるのは義です。豺や獺が獲物を並べて祭りをして本に報い、鴻雁が兄弟の行列を乱さないのは礼です。鴛鴦の雌雄が愛し合い、雎鳩(みさご)の雌雄に別があるのは智です。鴻雁が去来するのに春秋の時期をたがえず、鶏が鳴く時節をたがえないのは信です。これらはみな生まれつきの偏った性の良いところです。もし人として、この性を失えば、禽獣にも及ばないといってよいでしょう。
解説
この章句が説くこと
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『五常訓』巻之一・総論五常の性は体なり。其理説きがたし。用にあらはれて、見えやすきを以て、其字義をいはば、愛を仁と云ふ。愛はあはれみなり。宜を義と云ふ。宜とは事物に相応するを云ふ。各其事につきて理に当るなり。理を礼と云ふ。理とは人をうやまひ、事に則ありて、正しくすぢめ有るを云ふ。通ずるを智と云ふ。道理に通じ、是非を知るを云ふ。守るを信と云ふ。偽なくして、道をかたく守りて、変ぜざるを云ふ。此字義は、周子の説なり。韓子曰く、人の性とする所の者は五、曰く仁義礼智信。是人の性に、此五の者そなはれる事をいへり。故に又五性とも云ふ。此五性をすべていへば仁なり。故に孔子は、唯仁の一字を以て教とし給ふ。是易に天地の大徳を生と曰ふといへる意に本づけり。
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『大和俗訓』巻之一・為学上性とは人の心に生れつきたる理をいふ、此五性は、いにしへ今天下の人、高き賤しきも、さかし愚なるも、おしなべて天地より生れつきて、万世迄も相かはることなき故に、五常といふ。常とは変らざるなり。中につきて、仁はあはれみの心なり。是を以て四徳をかねたり。義は宜しきなり。行ふ所各其物に相応するを云ふ。礼はうやまふ心、つつしみて侮らざるを云ふ。智は明かにさとる心、道理に通ずるなり。仁義礼も智なければ行ふすべを知らず。義礼智は皆仁より出で、仁をたすくる理なり。信はまことなり。仁義礼智の心信にして偽なきを云ふ。まことなければ仁義礼智にあらず。凡此五常の性にしたがひて、人倫に対してなさけふかく、あつく行ふを人の道とす。
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