五常訓 / 巻之一・総論
おろかなる人は、學問は人のつとめの外の事のやうに思ひ、學ばずしても苦しからざる事とのみ思へり。人となりて、人の道をまなばずして知らざるは、農人の田つくることを知らざるが如し。古より、もろこしにて、さばかり明かにさとれる賢人君子、世に多かりしかど、我意をたてず、わが才智にほこらず、皆聖人の敎を尊びしたがひ、幼きより、老にいたりて、道をまなびて止めず。是其智明かにして、聖人の敎を學ばずんばあるべからざる事を、よく知れる故なり。いはんや今の時、末世の凡人、いかに其才力人にすぐれたりとて、古の賢者には及ぶべからず。然れば聖人を師として學ぶべきこと、言ふに及ばず。
新字:おろかなる人は、学問は人のつとめの外の事のやうに思ひ、学ばずしても苦しからざる事とのみ思へり。人となりて、人の道をまなばずして知らざるは、農人の田つくることを知らざるが如し。古より、もろこしにて、さばかり明かにさとれる賢人君子、世に多かりしかど、我意をたてず、わが才智にほこらず、皆聖人の教を尊びしたがひ、幼きより、老にいたりて、道をまなびて止めず。是其智明かにして、聖人の教を学ばずんばあるべからざる事を、よく知れる故なり。いはんや今の時、末世の凡人、いかに其才力人にすぐれたりとて、古の賢者には及ぶべからず。然れば聖人を師として学ぶべきこと、言ふに及ばず。
書き下し
おろかなる人は、学問は人のつとめの外の事のやうに思ひ、学ばずしても苦しからざる事とのみ思へり。人となりて、人の道をまなばずして知らざるは、農人の田つくることを知らざるが如し。古より、もろこしにて、さばかり明かにさとれる賢人君子、世に多かりしかど、我意をたてず、わが才智にほこらず、皆聖人の教を尊びしたがひ、幼きより、老にいたりて、道をまなびて止めず。是其智明かにして、聖人の教を学ばずんばあるべからざる事を、よく知れる故なり。いはんや今の時、末世の凡人、いかに其才力人にすぐれたりとて、古の賢者には及ぶべからず。然れば聖人を師として学ぶべきこと、言ふに及ばず。
現代語訳
愚かな人は、学問は人の務めの外のことのように思い、学ばなくても差し支えないことだとばかり思っています。人となって、人の道を学ばずに知らないのは、農民が田を作ることを知らないようなものです。昔から中国には、あれほど明らかに悟った賢人君子が世に多かったけれども、我意を立てず、自分の才智を誇らず、みな聖人の教えを尊んでしたがい、幼いときから老いに至るまで、道を学んでやめませんでした。これはその智が明らかであって、聖人の教えを学ばなければならないことをよく知っていたからです。まして今の時代、末世の凡人が、どれほどその才能が人にすぐれているといっても、昔の賢者には及ぶはずがありません。それゆえ聖人を師として学ぶべきことは、言うまでもありません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『慎思録』巻之六博聞広覧にして見識有り、且つ久しく世変を経歴する者は、以て古今を是非すべく、過ち寡きに庶からん。苟も見聞寡陋にして、世を渉ることも亦浅くして見識無き者は、未だ以て天下古今の善悪を議すべからざるなり。仲虺の誥に曰く、問ふことを好めば則ち裕かに、自ら用ゐれば則ち小なりと。蓋し器小なれば則ち自足と為して、人に資ることを好まず。大凡古人の説は、固より資るべし。今人の言と雖も、其の善き者は廃すべからず。須らく択びて之を取るべし。舜の大聖すら、猶ほ善を人に資る。況んや今の衆人、豈に専ら自ら用ゐて、人に資らざるべけんや。蓋し博学の方は、古人の言に資るに止まらず、今人の言と雖も亦取るべし。是れ古今に通ずる所以なり。
-
『幽夢影』巻上・下の下なり人は聖賢に非ず、安んぞ能く知らざる所無からん。祇だ其の一を知り、惟だ其の一に止まらざるを恐れ、復た其の二を知らんことを求むる者は、上なり。止だ其の一を知り、人の言ふに因りて、始めて其の二有るを知る者は、次なり。止だ其の一を知り、人其の二有りと言ふも之を信ずる莫き者は、又其の次なり。止だ其の一を知り、人の其の二有りと言ふを惡む者は、斯れ下の下なり。
-
『幽夢影』巻上・紙上に兵を談ず文人の武事を講ずるは、大都紙上に兵を談ずるなり。武將の文章を論ずるは、半ば道聽途説に屬す。
-
『囲炉夜話』第二百一則・渾金璞玉の如し才有らば必ず韜藏す、渾金璞玉の如く、闇然として日に章かなり。 學を為すに間斷無し、流水行雲の如く、日に進みて已まざるなり。
-
孟子・盡心章句上公都子曰く、「滕更の門に在るや、礼する所に在るが若くして、答へざるは、何ぞや。」孟子曰く、「貴を挟みて問ひ、賢を挟みて問ひ、長を挟みて問ひ、勲労有るを挟みて問ひ、故を挟みて問ふは、皆答へざる所なり。滕更は二有り。」
-
『養生訓』巻第七・用薬一右薬一服の分量の大小、用水の多少を定むる事、予医生に非ずして、好事の誚、僭率の罪のがれ難しといへども、今時、本邦の人の禀賦をはかるに、恐らくはかくの如くにして宜しかるべし。願くは、有識の人、博く古今を考へ、日本の人の生れつきに応じ、時宜にかなひて、過不及の差なく、軽重大小を定め給ふべし。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る