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五常訓 / 巻之一・総論

一およそ人となるものは、萬物にすぐれ、五常の性を生れつき、道あるものなれども、食を飽くまでくらひ、衣を暖かに著、家をかまへて、身を安くしたるまでにて、道の敎なければ、形は人なりといへども、其心、其行は、禽獸に近きこそうらめしけれ。古の聖人、是をうれひ給ひて、學校をたて、師をたてゝ、人たるの道を敎へ學ばしめ給ふ。されば事の急ならざるやうにて、いたりて大切なる事は、學問よりおもきは無し。如何となれば、道はしばらくも離るべからず。人學問なく、道を知らざれば、人の道たゝず。人と斯く生れつきたるかひなし。人生ふたゝび得がたし。道を學ばずして、空しく過すべからず。こゝを以て、朝に道を聞きては、夕に死すとも可なりと聖人ものたまへり。

新字:一およそ人となるものは、万物にすぐれ、五常の性を生れつき、道あるものなれども、食を飽くまでくらひ、衣を暖かに著、家をかまへて、身を安くしたるまでにて、道の教なければ、形は人なりといへども、其心、其行は、禽獣に近きこそうらめしけれ。古の聖人、是をうれひ給ひて、学校をたて、師をたてゝ、人たるの道を教へ学ばしめ給ふ。されば事の急ならざるやうにて、いたりて大切なる事は、学問よりおもきは無し。如何となれば、道はしばらくも離るべからず。人学問なく、道を知らざれば、人の道たゝず。人と斯く生れつきたるかひなし。人生ふたゝび得がたし。道を学ばずして、空しく過すべからず。こゝを以て、朝に道を聞きては、夕に死すとも可なりと聖人ものたまへり。

書き下し

一およそ人となるものは、万物にすぐれ、五常の性を生れつき、道あるものなれども、食を飽くまでくらひ、衣を暖かに著、家をかまへて、身を安くしたるまでにて、道の教なければ、形は人なりといへども、其心、其行は、禽獣に近きこそうらめしけれ。古の聖人、是をうれひ給ひて、学校をたて、師をたてて、人たるの道を教へ学ばしめ給ふ。されば事の急ならざるやうにて、いたりて大切なる事は、学問よりおもきは無し。如何となれば、道はしばらくも離るべからず。人学問なく、道を知らざれば、人の道たたず。人と斯く生れつきたるかひなし。人生ふたたび得がたし。道を学ばずして、空しく過すべからず。ここを以て、朝に道を聞きては、夕に死すとも可なりと聖人ものたまへり。

現代語訳

およそ人と生まれた者は、万物にすぐれ、五常の性を生まれつき持ち、道のあるものですが、食べ物を飽きるまで食べ、着物を暖かく着て、家を構えて身を安らかにしただけで、道の教えがなければ、形は人であっても、その心、その行いは禽獣に近いのが恨めしいことです。昔の聖人はこれを憂えられて、学校を建て、師を立てて、人たる道を教え学ばせられました。だから、急を要しないようでいて、じつにいちばん大切なことは、学問より重いものはありません。なぜなら、道はしばらくも離れてはならないからです。人に学問がなく、道を知らなければ、人の道は立ちません。人とこうして生まれたかいがありません。人生は二度と得られません。道を学ばずに、むなしく過ごしてはなりません。それゆえ「朝に道を聞けば、夕べに死んでもよい」と聖人もおっしゃったのです。

解説

衣食住が満ちても教えがなければ人は禽獣に近いという『孟子』滕文公上の考えを受けて、学問こそ最も大切だと説いています。「道は須臾も離るべからず」は『中庸』、「朝に道を聞かば夕に死すとも可なり」は『論語』里仁篇の言葉です。「人生ふたたび得がたし」という一句には、80歳を超えてなお学び続けた益軒の実感がこもっています。暮らしが豊かになっても学ぶことをやめない姿勢は、生涯学習の時代にあらためて大切にしたい心がけです。

この章句が説くこと

学問道教育論語人生

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