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五常訓 / 巻之一・総論

一人の心にそなはれる仁義禮智の四德、其根本いづくにあり、いづくより享けたるや。曰く是其根本天にあり。天より出て人の心にむまれつきたり。其根本天にあり。天より出でたるとは如何ぞや。曰く易に天地の大德曰生。大德とは大なるめぐみなり。生とは萬物をうみ生かすを云ふ。天地別に心なし。人と萬物をうみ生かす事を以て、心とし給ひ、これを以て、いにしへ今、かぎりなき人物を生じ給ふ。此心を生と云ふ。卽生理なり。又元と云ふ。是天地のめぐみ、物をあはれみ給ふ大德なり。其生理、一年の内、春夏秋冬にめぐり行はれて、元亨利貞の四德となる。天に此四德ありて、天道常に行はるゝが如く、人に仁義禮智ありて、人道行はる。人は天地の子にて、天地の、物をあはれみ給へる御心をうけて、心とす。

新字:一人の心にそなはれる仁義礼智の四徳、其根本いづくにあり、いづくより享けたるや。曰く是其根本天にあり。天より出て人の心にむまれつきたり。其根本天にあり。天より出でたるとは如何ぞや。曰く易に天地の大徳曰生。大徳とは大なるめぐみなり。生とは万物をうみ生かすを云ふ。天地別に心なし。人と万物をうみ生かす事を以て、心とし給ひ、これを以て、いにしへ今、かぎりなき人物を生じ給ふ。此心を生と云ふ。即生理なり。又元と云ふ。是天地のめぐみ、物をあはれみ給ふ大徳なり。其生理、一年の内、春夏秋冬にめぐり行はれて、元亨利貞の四徳となる。天に此四徳ありて、天道常に行はるゝが如く、人に仁義礼智ありて、人道行はる。人は天地の子にて、天地の、物をあはれみ給へる御心をうけて、心とす。

書き下し

一人の心にそなはれる仁義礼智の四徳、其根本いづくにあり、いづくより享けたるや。曰く是其根本天にあり。天より出て人の心にむまれつきたり。其根本天にあり。天より出でたるとは如何ぞや。曰く易に天地の大徳を生と曰ふ。大徳とは大なるめぐみなり。生とは万物をうみ生かすを云ふ。天地別に心なし。人と万物をうみ生かす事を以て、心とし給ひ、これを以て、いにしへ今、かぎりなき人物を生じ給ふ。此心を生と云ふ。即生理なり。又元と云ふ。是天地のめぐみ、物をあはれみ給ふ大徳なり。其生理、一年の内、春夏秋冬にめぐり行はれて、元亨利貞の四徳となる。天に此四徳ありて、天道常に行はるるが如く、人に仁義礼智ありて、人道行はる。人は天地の子にて、天地の、物をあはれみ給へる御心をうけて、心とす。

現代語訳

人の心に備わる仁義礼智の四徳は、その根本はどこにあり、どこから受けたのでしょうか。答えていうと、その根本は天にあります。天から出て人の心に生まれつき備わったのです。その根本は天にあります。天から出たとはどういうことでしょうか。答えていうと、『易』に「天地の大いなる徳を生という」とあります。大徳とは大いなる恵みです。生とは万物を生み出し生かすことをいいます。天地には特別な心はありません。人と万物を生み出し生かすことを心とされ、これによって昔から今まで、限りない人と物を生じてこられました。この心を生といいます。すなわち生きる理です。また元ともいいます。これは天地の恵み、物をあわれまれる大いなる徳です。その生きる理が、一年のうち春夏秋冬にめぐり行われて、元亨利貞の四徳となります。天にこの四徳があって天の道が常に行われるように、人に仁義礼智があって人の道が行われます。人は天地の子であって、天地が物をあわれまれる御心を受けて、それを自分の心とします。

解説

人の四徳がどこから来たかという問いに、益軒は問答の形で「天から」と答えます。根拠は『易』繋辞伝の「天地の大徳を生と曰ふ」で、万物を生み育てる天地の働きそのものを天地の心とみなします。天の四徳である元亨利貞と人の仁義礼智を対応させるのは朱子学の定番の説明です。自分の優しさの源が自分を生かしている大きな働きにあると考えると、命をいただいていることへの感謝や、他の生き物を大切にする気持ちが自然と生まれてきます。

この章句が説くこと

天地生元亨利貞仁四徳

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