言志四録 / 言志耋録 第二百六十二条 非常の士は攬りて用ふ
有非常之士於此。宜能攬而用之。我攬之則彼爲吾用。雖不能大用。而亦爲世觀望。若使渠不得親昵。則必爲他人有。不翅不爲吾用。郤有害。
新字:有非常之士於此。宜能攬而用之。我攬之則彼為吾用。雖不能大用。而亦為世観望。若使渠不得親昵。則必為他人有。不翅不為吾用。郤有害。
書き下し
此に非常の士有らば、宜しく能く攬りて之を用ふべし。我之を攬れば、則ち彼吾が用と為る。大いに用ふる能はずと雖も、而も亦世の観望と為る。若し渠をして親昵するを得ざらしめば、則ち必ず他人の有と為る。翅に吾が用と為らざるのみならず、却って害有り。
現代語訳
ここに並外れた人物がいるなら、よく手元に引き寄せて用いるのがよい。こちらが引き寄せれば、彼はこちらの役に立つ。たとえ大いに用いることができなくても、世間の人々の注目と信頼を集めるものとなる。もし彼を親しく近づけずにおけば、必ず他人の側のものとなる。そうなれば、こちらの役に立たないだけでなく、かえって害となる。
解説
並外れた才をもつ人物は、扱いにくくても手元に引き寄せて用いよ、と一斎は説きます。十分に使いこなせなくても、そういう人物を抱えていること自体が、世間に対して「人を容れる器がある」ことを示す効果を持ちます。逆に遠ざければ、その才は他人のものとなり、自分に向けられる力にさえなりかねません。戦国の世に劉邦や曹操が異才を競って迎えた故事を思わせる、現実的な人材論です。尖った人材は既存の枠に収まらず、摩擦を生むこともあります。それでも手放すことの損失はどれほどか——採用や登用で「扱いやすさ」を優先しがちなとき、その判断を見直すきっかけになる一条です。
この章句が説くこと
非常の士人材登用用人器量人望
関連する章句
-
『春秋左氏伝』哀公十七年 何の賤しきことか之れ有らん夏六月、趙鞅、衛を圍む。齊の國觀・陳瓘、衛を救ふ。晉人の師を致す者を得たり。子玉、服せしめて之を見て曰く、「國子、實に齊の柄を執りて、瓘に命じて曰く、『晉師を辟くること無かれ』と。豈に敢へて命を廢せんや。子又何ぞ辱くせん」と。簡子曰く、「我、衛を伐つことを卜せしも、未だ齊と戰ふことを卜せず」と。乃ち還る。楚の白公の亂に、陳人、其の聚を恃みて楚を侵す。楚既に寧し。將に陳の麥を取らんとす。楚子、帥を大師子穀と葉公諸梁とに問ふ。子穀曰く、「右領差車と左史老とは、皆令尹・司馬を相けて以て陳を伐てり。其れ使ふ可きなり」と。子高曰く、「率賤しければ、民之を慢る。命を用ゐざらんことを懼る」と。子穀曰く、「觀丁父は鄀の俘なり。武王以て軍率と為す。是を以て州・蓼に克ち、隨・唐を服し、大いに群蠻を啟く。彭仲爽は申の俘なり。文王以て令尹と為す。實に申・息を縣とし、陳・蔡を朝せしめ、畛を汝に封ず。唯だ其れ任ずるのみ。何の賤しきことか之れ有らん」と。子高曰く、「天命は諂はず。令尹、陳に憾み有り。天若し之を亡ぼさば、其れ必ず令尹の子に是れ與へん。君盍ぞ焉を舍かざる。臣懼る、右領と左史とは、二俘の賤しき有りて、其の令德無きことを」と。王、之を卜す。武城尹吉なり。師を帥ゐて陳の麥を取らしむ。陳人之を御ぎて敗れ、遂に陳を圍む。
-
説苑・臣術楚の令尹死す。景公成公幹に遇いて曰く、「令尹将た焉くにか帰せん」と。成公幹曰く、「殆ど屈春に於いてか」と。景公怒りて曰く、「国人以て我に帰すと為す」と。成公幹曰く、「子の資少なく、屈春の資多し。子義天下の至憂を獲て、而れども以て友と為す。鳴鶴と芻狗と、其の知甚だ少なきも、而れども子之を玩ぶ。鴟夷子皮日に屈春に侍し、損頗友と為る。二人の智、以て令尹と為るに足るも、敢えて其の智を専らにせずして之を屈春に委ぬ。故に曰く、政其れ屈春に帰せんかと」と。
-
史記 管晏列伝管仲夷吾は、潁上の人なり。少き時常に鮑叔牙と游び、鮑叔、其の賢なるを知れり。管仲貧困にして、常に鮑叔を欺くも、鮑叔、終に善く之を遇し、以て言を為さず。已にして鮑叔、斉の公子小白に事へ、管仲は公子糾に事ふ。小白立ちて桓公と為り、公子糾死するに及び、管仲囚はる。鮑叔遂に管仲を進む。管仲既に用ひられ、政に斉に任ず。斉の桓公以て覇たり、諸侯を九合し、天下を一匡したるは、管仲の謀なり。
-
史記 李斯列伝臣聞く、地広き者は粟多く、国大なる者は人衆く、兵彊ければ則ち士勇なりと。是を以て太山は土壌を譲らず、故に能く其の大を成す。河海は細流を択ばず、故に能く其の深きを就す。王者は衆庶を卻けず、故に能く其の徳を明らかにす。是を以て地に四方無く、民に異国無く、四時充美にして、鬼神福を降す。此れ五帝・三王の敵無き所以なり。今乃ち黔首を棄てて以て敵国に資し、賓客を卻けて以て諸侯に業し、天下の士をして退きて敢て西に向かはず、足を裹みて秦に入らざらしむ。此れ所謂「寇に兵を藉して盗に糧を齎す」者なり。夫れ物の秦に産せずして、宝とすべき者多し。士の秦に産せずして、忠を願ふ者衆し。今客を逐ひて以て敵国に資し、民を損じて以て讎を益し、内自ら虚しくして外怨みを諸侯に樹つ。国の危ふき無きを求むるも、得べからざるなり、と。秦王乃ち逐客の令を除き、李斯の官を復し、卒に其の計謀を用ふ。
-
『韓非子』亡徵第十五境内の傑、事とされずして、封外の士を求め、功伐を以て課試せずして、好んで名問を以て舉錯し、羈旅起り貴くして以て故常を陵ぐ者は、亡ぶ可きなり。
-
史記 孫子呉起列伝呉起是に於いて魏の文侯の賢なるを聞き、之に事へんと欲す。文侯、李克に問ひて曰く、「呉起は何如なる人ぞ」と。李克曰く、「起は貪にして色を好む。然れども兵を用ゐるは、司馬穰苴も過ぐる能はざるなり」と。是に於いて魏の文侯以て将と為し、秦を撃ち、五城を抜く。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る