言志四録 / 言志耋録 第百五十四条 禍無きを以て福と為す
不必干福。以無禍爲福。不必希榮。以無辱爲榮。不必祈壽。以不夭爲壽。不必求富。以不餒爲富。
新字:不必干福。以無禍為福。不必希栄。以無辱為栄。不必祈寿。以不夭為寿。不必求富。以不餒為富。
書き下し
必ずしも福を干めず、禍無きを以て福と為す。必ずしも栄を希はず、辱無きを以て栄と為す。必ずしも寿を祈らず、夭せざるを以て寿と為す。必ずしも富を求めず、餒ゑざるを以て富と為す。
現代語訳
ことさらに幸福を求めず、災いのないことを幸福とする。ことさらに栄誉を願わず、恥辱のないことを栄誉とする。ことさらに長寿を祈らず、若死にしないことを長寿とする。ことさらに富を求めず、飢えないことを富とする。
解説
福・栄・寿・富という人の願いの代表を並べ、それを積極的に求めるのではなく、禍・辱・夭・餒がないことをもって満足とする、という一条です。四つの対句を重ねるリズムが、老境の一斎の穏やかな心境を伝えています。これは向上心を捨てよということではなく、欠けていないことのありがたさに気づけば、それ以上を求めて心をすり減らさずに済むという、知足の考えの具体的な形でしょう。前条までに説かれた「富貴は心に在り」「達人の栄辱」ともつながります。大きな成功ばかりを目標にしていると、事故なく一日を終えたことの価値が見えなくなります。何も起きなかったことをどう評価するかを考える手がかりになる一条です。
この章句が説くこと
知足幸福富寿命老い
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