言志四録 / 言志耋録 第百五十条 安と懼に公私有り
安字。有公私。公則思慮出。私則怠惰生。懼字。亦有公私。公則戰兢自戒。私則惴慄喪己。
新字:安字。有公私。公則思慮出。私則怠惰生。懼字。亦有公私。公則戦兢自戒。私則惴慄喪己。
書き下し
安の字に公私有り。公なれば則ち思慮出で、私なれば則ち怠惰生ず。懼の字にも亦公私有り。公なれば則ち戦兢して自ら戒め、私なれば則ち惴慄して己を喪ふ。
現代語訳
「安」という字には公と私がある。公の安らぎからは思慮が生まれ、私の安らぎからは怠惰が生じる。「懼」という字にもまた公と私がある。公の懼れであれば、戦々兢々として自らを戒めるが、私の懼れであれば、おびえおののいて自分を見失う。
解説
安らぎと懼れという二つの心の状態を、公私で分けて論じた一条です。道理にかなった公の安らぎは、心を落ち着かせて深い思慮を生むが、自分の都合からくる私の安らぎは、気のゆるみとなって怠惰を生む。懼れも同じで、責任を思う公の懼れは、『詩経』の「戦戦兢兢」のように身を慎ませるが、自分の身の損得を案じる私の懼れは、ただおびえて判断を失わせる。同じ感情でも、その根が公か私かで働きがまったく逆になるという指摘です。一斎は次条でも欲の公私を論じています。重い決断を前にして感じる不安が、責任感から来るのか保身から来るのかを見分ける手がかりになるでしょう。
この章句が説くこと
公私安懼戒慎心術
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