言志四録 / 言志耋録 第六十二条 忿は火、慾は水
情之發有緩急。忿慾尤爲急。忿。猶火。不懲將自焚。慾。猶水。不窒將自溺。損卦工夫。緊要在此。
新字:情之発有緩急。忿慾尤為急。忿。猶火。不懲将自焚。慾。猶水。不窒将自溺。損卦工夫。緊要在此。
書き下し
情の発するに緩急有り。忿慾は尤も急なりと為す。忿は猶ほ火のごとし、懲めざれば将に自ら焚かんとす。慾は猶ほ水のごとし、窒がざれば将に自ら溺れんとす。損卦の工夫、緊要此に在り。
現代語訳
感情の起こり方には緩やかなものと急なものとがある。怒りと欲はとりわけ急である。怒りは火のようなもので、抑えなければ自分を焼いてしまう。欲は水のようなもので、せき止めなければ自分が溺れてしまう。『易経』損の卦が説く修養(「忿りを懲らし慾を窒ぐ」)の肝要な点は、ここにある。
解説
『易経』損卦の象伝に「君子以て忿を懲らし慾を窒ぐ」とあります。一斎はこれを踏まえ、感情の中でも怒りと欲はとりわけ急に燃え広がると言い、怒りを火に、欲を水にたとえました。火は抑えなければ自分を焼き、水はせき止めなければ自分を溺れさせる。どちらも他人より先に、まず自分自身を損なうという点に注意が向けられています。損卦は減らすことを説く卦で、自分の中の余分なものを減らすことが修養になるという考えです。怒りにまかせた決断や、欲に引きずられた判断は、結局は自分の足元を崩します。感情が急に高まったときこそ、一呼吸置く意味を思い出させる一条です。
この章句が説くこと
忿慾怒り欲望損卦自制
関連する章句
-
言志四録・言志後録 第九十七条 懲忿窒慾は養生忿熾んなれば則ち気暴れ、慾多ければ則ち気耗す。忿を懲らし慾を窒ぐは、養生に於ても亦得たり。
-
言志四録・言志耋録 第六十三条 忍の字と敏の字忿を懲らし慾を窒ぐは、一の忍の字を重んず。善に遷り過を改むるは、一の敏の字を重んず。
-
易経・象伝山の下に澤有るは、損なり。君子以て忿(いかり)を懲(こ)らし、欲を窒(ふさ)ぐ。
-
『格言聯璧』存養類・怒は是れ猛虎、欲は是れ深淵怒は是れ猛虎、欲は是れ深淵。 忿は火の如し、遏めざれば則ち原を燎く。 欲は水の如し、遏めざれば則ち天に滔る。 忿を懲らすは山を摧くが如く、欲を窒ぐは壑を填むるが如し。 忿を懲らすは火を救ふが如く、欲を窒ぐは水を防ぐが如し。 心一たび松散すれば、萬事收拾すべからず。 心一たび疏忽なれば、萬事耳目に入らず。 心一たび執著すれば、萬事自然なるを得ず。
-
『忍経』憤爭損身,憤亦損財應令君曰く「人心に憤る所有る者は、必ず爭ふ所有り。爭ふ所有る者は、必ず損する所有り。憤りて爭鬥すれば其の身を損し、憤りて爭訟すれば其の財を損す。此れ君子の鑒みる所以にして、易の損にして憤を懲らすなり」と。
-
言志四録・言志後録 第百三十三条 水火は中に適ふべし人物は水火を凝聚して、此の体軀を成す。故に水火に非ざれば生活せず。好む所も亦水火に在り。但だ宜しく中に適ひて偏勝せざらしむべし。水勝てば則ち火滅し、火勝てば則ち水涸る。体軀も亦保つ能はず。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る