文武訓 / 武訓上
一勇にはやまる人は、死すべからずして死す。是仁にそむきて生をかろんず、孝にあらず。勇なき人は死すべくして死なず。是義にそむきて生ををしみ恥を知らず、忠にあらず。一もろこしの風俗、昔より、君をいさめて殺さるゝことを知れども、いさむる人多きはなんぞや。其國の人、うまれつき忠義ありて、風俗も亦氣節をたつとぶ。其上文字ありて、諫の道を知ればなり。是もろこしの長ずる所なるべし。日本の武士は古より、戰場にて、君のためたゝかひ、死して命ををしまざる人多きはなんぞや。此國の人は、天性武勇つよく、其上、昔より國の風俗にて、名をおもんずればなり。是和漢の人の各長ずる所なり。士氣ありて死をおそれざる事は、和漢同じけれども、其志す所かはれるは、國のならはしにて、文を好み武を尙ぶの道異るなるべし。
新字:一勇にはやまる人は、死すべからずして死す。是仁にそむきて生をかろんず、孝にあらず。勇なき人は死すべくして死なず。是義にそむきて生ををしみ恥を知らず、忠にあらず。一もろこしの風俗、昔より、君をいさめて殺さるゝことを知れども、いさむる人多きはなんぞや。其国の人、うまれつき忠義ありて、風俗も亦気節をたつとぶ。其上文字ありて、諫の道を知ればなり。是もろこしの長ずる所なるべし。日本の武士は古より、戦場にて、君のためたゝかひ、死して命ををしまざる人多きはなんぞや。此国の人は、天性武勇つよく、其上、昔より国の風俗にて、名をおもんずればなり。是和漢の人の各長ずる所なり。士気ありて死をおそれざる事は、和漢同じけれども、其志す所かはれるは、国のならはしにて、文を好み武を尚ぶの道異るなるべし。
書き下し
一勇にはやまる人は、死すべからずして死す。是仁にそむきて生をかろんず、孝にあらず。勇なき人は死すべくして死なず。是義にそむきて生ををしみ恥を知らず、忠にあらず。一もろこしの風俗、昔より、君をいさめて殺さるることを知れども、いさむる人多きはなんぞや。其国の人、うまれつき忠義ありて、風俗も亦気節をたつとぶ。其上文字ありて、諫の道を知ればなり。是もろこしの長ずる所なるべし。日本の武士は古より、戦場にて、君のためたたかひ、死して命ををしまざる人多きはなんぞや。此国の人は、天性武勇つよく、其上、昔より国の風俗にて、名をおもんずればなり。是和漢の人の各長ずる所なり。士気ありて死をおそれざる事は、和漢同じけれども、其志す所かはれるは、国のならはしにて、文を好み武を尚ぶの道異るなるべし。
現代語訳
勇にはやる人は、死ぬべきでないのに死にます。これは仁にそむいて生を軽んじるのであり、孝ではありません。勇のない人は、死ぬべきときに死にません。これは義にそむいて生を惜しみ、恥を知らないのであり、忠ではありません。中国の風俗では、昔から、主君を諫めて殺されることを知っていても、諫める人が多いのはなぜでしょうか。その国の人は、生まれつき忠義があって、風俗もまた気節を尊びます。そのうえ文字があって、諫めの道を知っているからです。これは中国の長所でしょう。日本の武士は古くから、戦場で主君のために戦い、死んで命を惜しまない人が多いのはなぜでしょうか。この国の人は、生まれつき武勇が強く、そのうえ昔から国の風俗として名を重んじるからです。これが和漢の人のそれぞれの長所です。士気があって死を恐れないことは和漢同じですが、その志すところが異なるのは、国の習わしで、文を好むか武を尊ぶかの道が異なるからでしょう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『文武訓』武訓上一勇士は命を捨つることかたからず。捨てて道にあたることかたし。道にかなはずして死するは犬死なり。たとへば狂愚なる者の、われに無礼なるをとがめて口論して、一朝の怒によりて、人と闘ひて身を捨つ、是其身をかろんず。是不孝なり、武にあらず。死ぬべくして死なざる、是命ををしむ、勇なきなり、義にあらず。戦にのぞみ、君のために節に死なず、是不忠なり。君父のために忠孝を行ひて、一かどの用に立つべきあたら身を、よしなき少しのことをいかりて、狂人愚人のために命を捨つること、おろかなり。をしむべし。
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言志四録・言志耋録 第十二条 忠と勇も孝なり君に事へて忠ならざるは孝に非ず。戦陣に勇無きは孝に非ず。是れ能く忠に能く勇なるを知れば、則ち是れ之を致すなり。乃ち是れ能なり。
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『翁問答』下卷之本曽子曰く、戦陣に勇無きは孝に非ざるなり、この賢範の心は、恩にむくひ義理をたつるが孝徳の感通なり、君のおんは親の恩にひとしき広大なる恩徳なり、忠臣はかならず孝子の門より出るものなれば、孝徳あきらかなるものは必ず戦陣に於て武篇をはげみ武功をたつるものなり、もしつねづね孝行忠節のふりありても、戦陣に於て武篇のはげみなきは、真実の孝行にあらずと、いましめはげます義なり、程子武学制に孝経を添いれめされたり、此心は恩をむくひ義理をたつる事を知らざるものは生れつきけなげにても主君の用にたちがたし、却て味方のわざはひになるものなり、しかるによつて孝経をおしへ、恩にむくい義理をたつる本心をあきらかにさせ、血気の勇を化して仁義の勇となすべきためなり、よくよく体認して孝行の端的を得心あるべし。
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『慎思録』巻之五中華の俗、振古君を諫めて命を致す者、相踵ぎて絶えず。刀鋸前に在り、鼎鑊後に在りと雖も、敢へて其の死を畏れざる者は、何ぞや。其の俗義を尚び、且つ文学有りて、諫諍の方を知ればなり。本邦の俗、古来戦死を軽んずる者多し。鋒鏑羅列し、元を喪ふこと須臾に在りと雖も、敢へて其の身を惜しまざる者は、何ぞや。其の俗勇を好みて、名節を尚べばなり。倭漢気概を尚びて、其の死を惜しまざることは同じくして、死する所の地の異なる者は、他無し。俗尚の義を好みて学有ると、勇を好みて気を尚ぶとの同じからざるに因るなり。
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『韓非子』初見秦第一然り而して兵甲頓れ、士民病み、蓄積索き、田疇荒れ、囷倉虚しく、四隣の諸侯服せず、霸王の名成らず。此れ異なる故無し、其の謀臣皆な其の忠を尽くさざればなり。
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『翁問答』上卷之本大臣の忠節は、其業大なる故に大忠と云、小臣の忠節は、其事小なる故に小忠と云ふ、主君の嫌ふ事にても、君の為め国家の為め家中の為めによき事なれば、主君の必ず行ひ給ふ様に、能く諫めを成し、主君の好む事にても、悪しき事なれば、必ず止め給ふ様に能く諫めて、主の心立身持道に叶ひ、万化の本を正し、国を穏かに末永く栄へ給ふ様にと、一心に思ひ入れ、我が身の為めは少しも顧みず、竜逢比干の諫めて死したる心を守り身を棄て主の為めを第一にするを大忠と云ふ、是は家老出頭の忠節なり是非善悪を撰ばず、主の下知に従ひて、一心に君を敬ひ身を棄て、其職分を勤仕するを小忠と云ふ、是は小身なる臣下の忠節なり、
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