言志四録 / 言志晩録 第二百五条 艱難は能く人心を堅くす
艱難能堅人心。故共經艱難者。結交亦密。竟不能相忘。糟糠之妻不下堂。亦此類。
新字:艱難能堅人心。故共経艱難者。結交亦密。竟不能相忘。糟糠之妻不下堂。亦此類。
書き下し
艱難は能く人心を堅くす。故に共に艱難を経し者は、交を結ぶことも亦密にして、竟に相忘るる能はず。「糟糠の妻は堂より下さず」も、亦此の類なり。
現代語訳
苦難は人の心を堅固にする。だから共に苦難をくぐり抜けた者は、結びつきもまた固く、ついには互いを忘れることができない。「貧しいときに苦労を共にした妻は、家から追い出さない」というのも、この類である。
解説
前条の苦労の効用を、人と人との結びつきに広げた条です。艱難は人の心を鍛えて堅くするので、同じ艱難を共にした者どうしの交わりも自然と固くなり、生涯忘れがたいものになります。「糟糠の妻は堂より下さず」は『後漢書』宋弘伝の故事で、光武帝から富貴な姉との縁組を勧められた宋弘が、貧しい頃に酒かすや米ぬかを食べて苦労を共にした妻を捨てることはできない、と断った言葉です。一斎はこれも同じ理だと言います。創業期を共に乗り越えた仲間や、難しいプロジェクトをやり遂げたチームの結束の強さは、多くの人が実感しているでしょう。苦境を共にした人を、順境になっても大切にし続けることの意味を考えさせます。
この章句が説くこと
艱難結束信義仲間恩義
関連する章句
-
言志四録・言志録 第五十九条 患難は天の吾が才を老す凡そ遭ふ所の患難変故、屈辱讒謗、払逆の事は、皆天の吾が才を老せしむる所以にして、砥礪切磋の地に非ざるは莫し。君子は当に之に処する所以を慮るべし。徒に之を免れんと欲するは不可なり。
-
言志四録・言志晩録 第二百四条 甘は苦中より生ず薬物は、甘の苦中より生ずる者、多く効有り。人も亦艱苦を閲歴すれば、則ち思慮自ら濃やかにして、恰好く事を済す。此れと相似たり。
-
『長短経』是非〔是に曰く〕語に曰く「貧賤の交わりは忘る可からず。糟糠の妻は堂より下さず」と。〔非に曰く〕語に曰く「交接広くして信は友に衰え、爵禄厚くして忠は君に衰う」と。
-
言志四録・言志耋録 第三十一条 苦種は薬と成る心に困しみ慮りに衡たるは、智慧を発揮す。暖飽安逸は、思慮を埋没す。猶ほ苦種の薬と成り、甘品の毒と成るがごとし。
-
言志四録・言志録 第四十一条 富貴は春夏、貧賤は秋冬富貴は譬へば則ち春夏なり、人の心をして蕩せしむ。貧賤は譬へば則ち秋冬なり、人の心をして粛せしむ。故に人、富貴に於ては則ち其の志を溺らし、貧賤に於ては則ち其の志を堅くす。
-
言志四録・言志晩録 第二百三十五条 一の誠の字を槌子と為す形迹の嫌は、口舌を以て弁ずべからず。无妄の災は、智術を以て免るべからず。一の誠の字を把りて以て槌子と為すに如くは莫し。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る