言志四録 / 言志後録 第百六十三条 患難には福幸を以て乗除す
人遭患難憂懼時。當自反把從前所受福幸以乘除之。商出其平數可也。
新字:人遭患難憂懼時。当自反把従前所受福幸以乗除之。商出其平数可也。
書き下し
人患難に遭ひて憂懼する時は、当に自ら反りて従前受くる所の福幸を把りて以て之を乗除すべし。其の平数を商出して可なり。
現代語訳
人が災難に遭って憂え恐れるときは、自ら振り返り、これまでに受けてきた幸福を持ち出して、この災難と掛け合わせ割り合わせてみるべきである。そうしてその差し引きの平らな数を割り出してみるのがよい。
解説
前条の「乗除」の理を、災難に遭ったときの心の持ち方に当てはめた一条です。苦境にあるとき、人は目の前の不幸ばかりを見て、自分だけが不運だと感じがちです。一斎は、そういうときこそこれまで受けてきた幸福を思い出し、災難と差し引きしてみよと勧めます。計算してみれば、案外帳尻は合っている、あるいはまだ幸福のほうが多いと気づくかもしれません。単なる慰めではなく、感情に呑まれた心を数に置き換えて冷静に戻す工夫といえます。失敗や逆境の渦中で、これまでに得てきたものを数え直すことは、次の一手を落ち着いて考えるための足場になるでしょう。
この章句が説くこと
患難禍福自反逆境平常心
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