呻吟語 / 内篇・談道・胸中許多の冰炭無し
信知困窮抑鬱、貧賤勞苦是我應得底,安富薄榮、歡欣如意是我儻來底,胸中便無許多冰炭。
新字:信知困窮抑鬱、貧賤労苦是我応得底,安富薄栄、歓欣如意是我儻来底,胸中便無許多冰炭。
書き下し
信に知る、困窮抑鬱、貧賤勞苦は是れ我が應に得べき底なり、安富薄榮、歡欣如意は是れ我が儻來底なりと。胸中便ち許多の冰炭無し。
現代語訳
本当に分かってしまえば、行き詰まりも気鬱も、貧しさも卑しさも労苦も、みな自分が受け取って当然のものであり、安らかさや富や小さな栄誉、喜びや思い通りは、たまたま向こうから来たものだと知れます。そうなれば胸の中に、氷と炭のような激しい上がり下がりは無くなります。
解説
苦しみを当たり前、幸いを偶然と置き直す一段です。ふつうは逆で、うまくいくのが当然、つまずくのが不運と考えるから、胸の中が氷と炭のように熱く冷たく振れます。前提を入れ替えるだけで振れ幅が消える。氷炭という一語が体温の上下として実感され、忘れにくい像になっています。やせ我慢ではなく、期待値の置き方の問題として語られているのが特徴です。

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見るこの章句が説くこと
逆境順境期待平静氷炭
関連する章句
-
言志四録・言志後録 第八十六条 順境は春、逆境は冬順境は春の如し、出遊して花を観る。逆境は冬の如し、堅臥して雪を看る。春は固より楽しむべし、冬も亦悪しからず。
-
『論語と算盤』成敗と運命・順逆の二境は何れより来るかここに二人があるとして、その一人は地位もなければ富もなく、もとよりこれを援き立てる先輩もない。すなわち世に立って栄達すべき素因というものが極めて薄弱であるが、わずかに世の中に立つに足るだけ、一通りの学問はして世に出たとする。しかるにその人に非凡の能力があって、身体が健全で、いかにも勉強家で、行いが皆節に中り、何事をやらせても先輩をして安心させるだけに仕上げるのみならず、かえってその長上の意想外に出るほどにやるから、必ず多数人はこの人の行う所を賞讃するに相違ない。そうしてその人は官に在ると野に在るとを問わず、必ず言行われ、業成り、ついには富貴栄達を得らるるようになる。しかるにこの人の身分地位を側面から見ている世人は、一も二もなく彼を順境の人と思うであろうが、実は順境でも逆境でもなく、その人自らの力でそういう境遇を造り出したに過ぎないのである。
-
言志四録・言志晩録 第百八十四条 一の敬の字以て逆順を貫く人の一生には順境有り、逆境有り。消長の数、怪しむべき者無し。余又自ら検するに、順中の逆有り、逆中の順有り。宜しく其の逆に処しては、敢て易心を生ぜず、其の順に居ては、敢て惰心を作さざるべし。惟だ一の敬の字、以て逆順を貫けば可なり。
-
『論語と算盤』成敗と運命・順逆の二境は何れより来るかもしその人に優れた智能があり、これに加うるに欠くる所なき勉強をしてゆけば、決して逆境にいる筈はない。逆境がなければ順境という言葉も消滅する。自ら進んで逆境という結果を造る人があるから、それに対して順境などという言葉も起こって来るのである。
-
『格言聯璧』存養類・世路の風霜は吾人煉心の境只だ是れ心放肆せざれば、便ち過差無し。 只だ是れ心怠忽せざれば、便ち逸志無し。 逆境に處る心は、須らく開拓の法を用ふべし。順境に處る心は、收斂の法を用ふるを要す。 世路の風霜は、吾人の心を煉るの境なり。 世情の冷暖は、吾人の性を忍ぶの地なり。
-
『大和俗訓』巻之七・躬行下一順境とは、思のままなる境界を云ふ。逆境とは、思ふやうにならざる境界を云ふ。世間の事、順境に居るはやすく、逆境に居るはかたし。故に逆境に居れば、敬畏出来て、身の過すくなくして、かへつて福となる。順境に居れば、驕怠の心出来て、身の過多くして、身の禍となる。たとへば高に登るものは倒れがたし。勢逆にして難ければなり。ひききに下るものは倒れやすし。勢順にしてやすければなり。孟子の、憂患に生きて安楽に死ぬるとのたまふも、此意なり。うれひおそれあれば、生命をたもつ。安楽にして放逸なれば、死をまぬかれがたし。敵ある国は長久し、敵なき国はかへつて亡びやすきが如し。