言志四録 / 言志後録 第二十六条 山水の奇趣と人世
山水之可遊可觀者。必是疊嶂攅峰。必是激流急湍。必是深林長谷。必是懸崖絕港。凡其紫翠蒙密。雲烟變態。遠近相取。險易相錯。然後有幽致耐賞。最見坤輿之爲文。若唯有一山有一水而已。則何奇趣之有。人世亦猶是。
新字:山水之可遊可観者。必是畳嶂攅峰。必是激流急湍。必是深林長谷。必是懸崖絶港。凡其紫翠蒙密。雲烟変態。遠近相取。険易相錯。然後有幽致耐賞。最見坤輿之為文。若唯有一山有一水而已。則何奇趣之有。人世亦猶是。
書き下し
山水の遊ぶべく観るべき者は、必ず是れ畳嶂攅峰、必ず是れ激流急湍、必ず是れ深林長谷、必ず是れ懸崖絶港なり。凡そ其の紫翠蒙密、雲烟変態、遠近相取り、険易相錯はりて、然る後に幽致有りて賞するに耐ふ。最も坤輿の文為るを見る。若し唯だ一山有り一水有るのみならば、則ち何の奇趣か之れ有らん。人世も亦猶ほ是くのごとし。
現代語訳
遊び眺めるに値する山水の景色というものは、必ず幾重にも重なる峰々があり、必ず激しい流れや急な早瀬があり、必ず深い林や長い谷があり、必ず切り立った崖や行き止まりの入り江がある。およそ紫や緑が深く生い茂り、雲や霞がさまざまに姿を変え、遠くと近くが互いに引き立て合い、険しい所と平らな所が入り交じってこそ、奥深い趣があって鑑賞に堪えるのである。そこにこそ、大地が織りなす美しい模様がもっともよく見える。もしただ一つの山、一つの川があるだけならば、どんな面白みがあろうか。人の世もまたこれと同じである。
解説
山水の美しさを描き、最後の一句で人生に転じる、文章としても味わいのある条です。景色が見事なのは、重なる峰、激流、深い谷、切り立つ崖がそろい、険しさと穏やかさが入り交じっているからだと一斎は言います。平らな山と川だけでは、何の面白みもありません。直前の条(後録第二十五条)では、人生には険阻も坦夷も安流も驚瀾もあり、それを避けずに楽しめと説いていました。この条はその続きとして、起伏こそが人生の味わいを生むことを、山水の比喩で示したものと読めます。順調なだけの仕事人生は、振り返れば案外平板なものです。いま直面している難所も、後から見れば景色の一部になるかもしれない。そう眺める余裕を与えてくれます。
この章句が説くこと
人生観逆境変化山水達観
関連する章句
-
『後世への最大遺物』第二回・艱難について感謝すべきであるわれわれに友達がない、われわれに金がない、われわれに学問がないというのが面白い。われわれが神の恩恵を享け、われわれの信仰によってこれらの不足に打ち勝つことができれば、われわれは非常な事業を遺すものである。われわれが熱心をもってこれに勝てば勝つほど、後世への遺物が大きくなる。もし私に金がたくさんあって、地位があって、責任が少くして、それで大事業ができたところが何でもない。たとい事業は小さくても、これらのすべての反対に打ち勝つことによって、それで後世の人が私によって大いに利益を得るにいたるのである。種々の不都合、種々の反対に打ち勝つことが、われわれの大事業ではないかと思う。それゆえに、ヤコブのように、われわれの出遭う艱難についてわれわれは感謝すべきではないかと思います。
-
孟子・盡心章句上孟子曰く、「人の德慧術知有る者は、恒に疢疾に(チン・シツ)存す。獨り孤臣孽子のみ、其の、心を操るや危うく、其の、患いを慮るや深し。故に達す。」 <語釈> ○「德慧術知」、趙注は、德行・知慧・道術・才智の四者とし、朱注は、德慧は徳の慧、術知は術の知の二者とする。趙注に從う。○「疢疾」、朱注:疢疾は、猶ほ災患なり。○「其操心也危~」趙注:自ら孤微にして危殆の患いを懼れて、深く之を慮り、勉めて仁義を為す、故に達するに至るなり。
-
説苑・雜言孔子、陳・蔡の境に難に遭い、糧を絶つ。弟子皆饑色有り。孔子両柱の間に歌う。子路入りて見えて曰く、「夫子の歌うは、礼なるか」と。孔子応えず、曲終わりて曰く、「由よ、君子の楽しみを好むは驕り無からんが為なり、小人の楽しみを好むは懾れ無からんが為なり。其れ誰か之を知らん。子我を知らずして我に従う者か」と。子路悦ばず、干を援りて舞う。三たび終わりて出づ。七日に至るに及び、孔子楽を脩めて休まず。子路慍りて見えて曰く、「夫子の楽を脩むるは、時なるか」と。孔子応えず、楽終わりて曰く、「由よ、昔者、齊桓の霸心は莒に生じ、句踐の霸心は会稽に生じ、晉文の霸心は驪氏に生ず。故に居りて幽ならざれば、則ち思い遠からず。身約せられざれば則ち智広からず。庸んぞ知らんや之に遇わざるを」と。是に於いて興り、明日厄を免る。子貢轡を執りて曰く、「二三子夫子に従いて此の難に遇う、其れ忘る可からず」と。孔子曰く、「悪んぞ是れ何ぞや。語に云わずや、三たび肱を折りて良医と成ると。夫れ陳・蔡の間は、丘の幸いなり。二三子丘に従う者は皆幸いの人なり。吾聞く、人君困しまざれば王を成さず、列士困しまざれば行を成さずと。昔者、湯は呂に困しみ、文王は羑里に困しみ、秦穆公は殽に困しみ、齊桓は長勺に困しみ、句踐は会稽に困しみ、晉文は驪氏に困しむ。夫れ困の道たる、寒の煖に及ぶより、煖の寒に及ぶがごときなり、唯だ賢者のみ独り知りて之を言い難しとす。易に曰く、『困は亨りて貞し、大人は吉にして、咎無し。言有れども信ぜられず』と。聖人の人と与にして言い難く信じ難き所なり」と。
-
『後世への最大遺物』第二回・邪魔があるほど事業は大きいたびたびこういうような考えは起りませぬか。もし私に家族の関係がなかったならば、私にも大事業ができたであろう、あるいは、もし私に金があって大学を卒業し、欧米へ行って知識を磨いてきたならば、私にも大事業ができたであろう、もし私に良い友人があったならば大事業ができたであろう、こういう考えは人々に実際起る考えであります。しかれども、種々の不幸に打ち勝つことによって大事業というものができる、それが大事業であります。それゆえに、われわれがこの考えをもってみますと、われわれに邪魔のあるのはもっとも愉快なことであります。邪魔があればあるほど、われわれの事業ができる。勇ましい生涯と事業を後世に遺すことができる。とにかく反対があればあるほど面白い。
-
『韓非子』存韓第二夫れ韓は小國なり、而して以て天下の四撃に應ず。主辱められ臣苦しみ、上下相い與に憂いを同じうすること久し。
-
『呻吟語』内篇・談道・胸中許多の冰炭無し信に知る、困窮抑鬱、貧賤勞苦は是れ我が應に得べき底なり、安富薄榮、歡欣如意は是れ我が儻來底なりと。胸中便ち許多の冰炭無し。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る