言志四録 / 南洲手抄
人一生所遭、有險阻、有坦夷、有安流、有驚瀾。是氣數自然、竟不能免、即易理也。人宜居而安、玩而樂焉。若趨避之、非達者之見。
新字:人一生所遭、有険阻、有坦夷、有安流、有驚瀾。是気数自然、竟不能免、即易理也。人宜居而安、玩而楽焉。若趨避之、非達者之見。
書き下し
人一生遭ふ所、険阻有り、坦夷有り、安流有り、驚瀾有り。是れ気数の自然にして、竟に免るる能はず、即ち易理なり。人宜しく居つて安んじ、玩んで楽しむべし。若し之を趨避せば、達者の見に非ず。
現代語訳
人が一生のうちに出会うものには、険しい難所もあれば、平らな安地もあり、穏やかな流れもあれば、驚くような荒波もある。これは自然のめぐりあわせであって、結局は避けられない。まさに易(変化の理法)そのものだ。だから人は、その場に落ち着いて安んじ、むしろそれを味わい楽しむのがよい。もし逃げ避けようとするなら、それは道を悟った者の見識ではない。
解説
人生の浮き沈みへの向き合い方を、易の思想で説いた一条です。順境も逆境も、平地も荒波も、すべては自然のめぐり(気数)であって避けられない。ならば逃げ回るのではなく、その中に落ち着き、むしろ味わい楽しめ、と一斎は言います。逆境を「玩んで楽しむ」という境地は容易ではありませんが、避けられないものと知って腹をくくれば、苦難さえ人生の妙味に変わる。困難を排除すべき敵とみなしがちな私たちに、変化そのものを受け入れて味わう達観を示してくれる、力強い一条です。
この章句が説くこと
順逆易理受容達観
関連する章句
-
『信心銘』第二章現前(げんぜん)を得(え)んと欲(ほっ)せば、順逆(じゅんぎゃく)を存(そん)する莫(な)かれ。違順(いじゅん)相(あ)ひ爭(あらそ)ふ、是(こ)れを心病(しんびょう)と為(な)す。玄旨(げんし)を識(し)らずして、徒(いたづ)らに念靜(ねんじょう)を勞(ろう)す。
-
言志四録・言志耋録 第百三十三条 順逆は我が心に在り余意ふに、天下の事、固より順逆無し。我が心に順逆有り。我が順とする所を以て之を視れば、逆も皆順なり。我が逆とする所を以て之を視れば、順も皆逆なり。果して一定有らんや。達者に在りては、一理を以て権衡と為し、以て其の軽重を定むるのみ。
-
呂氏春秋・似順①事、倒に似て順なるもの多く、順に似て倒なるもの多し。順の倒為る、倒の順為るを知る者有れば、則ち與に化を言う可し。至長の短に反り、至短の長に反るは、天の道なり。
-
言志四録・言志耋録 第八十八条 災祥は順逆の数災祥は、是れ順逆の数なり。弔賀は、是れ相待の詞なり。之を本始に帰せば、則ち弔賀無く、又災祥無きのみ。
-
言志四録・言志晩録 第八十八条 武技を観るも亦学余好んで武技を演ずるを観る。之を観るに目を以てせずして心を以てす。必ず先づ呼吸を収めて、以て渠が呼吸を邀ふ。勝敗を問はずして、其の順逆を視る。甚だ適なり。此れも亦是れ学なり。
-
論語・公冶長篇子、南容を謂う、「邦に道有れば廃せられず、邦に道無ければ刑戮を免る。」其の兄の子を以て之に妻あわす。

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見る