言志四録 / 言志録 第八条 性分と職分
盡性分之本然。務職分之當然。如此而已矣。
新字:尽性分之本然。務職分之当然。如此而已矣。
書き下し
性分の本然を尽し、職分の当然を務む。此くの如きのみ。
現代語訳
天から与えられた本性の本来の姿を尽くし、職分として当然なすべきことに務める。ただそれだけのことである。
解説
人の生き方を「性分」と「職分」の二語に集約した条です。性分の本然とは、天から授かった本性の本来あるべき姿で、これを尽くすとは『孟子』のいう「其の心を尽くす者は其の性を知る」の実践にあたります。職分の当然とは、自分の置かれた立場で当然果たすべき務めです。内に向かっては本性を磨き、外に向かっては持ち場の務めを果たす。一斎は「此くの如きのみ」と結び、それ以上の特別なことは要らないと言います。幕府の儒官として勤めた一斎らしい、足元を重んじる姿勢です。大きな理想を語る前に、自分の役割を誠実に果たせているかを確かめる手がかりになる言葉です。
この章句が説くこと
性分職分本性務め修養
関連する章句
-
言志四録・言志耋録 第二百八十四条 自ら本分を知る人皆往年の既に去るを忘れて、次年の未だ来らざるを図り、前日の已に過ぎたるを舎てて、後日の将に至らんとするを慮る。是を以て百事苟且にして、終日齷齪とし、以て老死に至る。嘆ず可きなり。故に人は宜しく少壮の時に困苦有り、艱難有りしを回顧して、以て今の安逸たるを知るべし。是れを之れ自ら本分を知ると謂ふ。
-
言志四録・言志録 第四十二条 分を知りて足るを知る分を知りて、然る後に足るを知る。
-
言志四録・言志録 第十条 天何の故に我が身を生出す人は須らく自ら省察すべし。天何の故に我が身を生出し、我をして果して何の用に供せしむる。我既に天の物なれば、必ず天の役有り。天の役共せずんば、天の咎必ず至らん。省察して此に到れば、則ち我が身の苟くも生く可からざるを知る。
-
言志四録・言志録 第六十三条 已むを得ざるは避けず凡そ事の吾が分に於て已むを得ざる者は、当に之を為して避けざるべし。已むを得べくして已まざるは、是れ則ち我より事を生ずるなり。
-
言志四録・言志晩録 第百三十二条 官事を視ること家事の如し仕へて吏と為る者は、宜しく官事を視ること家事の如く、公法を守ること著亀の如く、僚友を待つこと兄弟の如くすべし。則ち能く職分を尽くすと為す。唯だ大臣の胸次は、磊磊落落として、当に長松老檜の如く、風雨の為に振撼せられざるべし。則ち其の治務必ず人後に在らず。
-
言志四録・言志録 第四十八条 恩の厚薄で報を変えず天は尊く地は卑くして、乾坤定まる。君臣の分は、已に天定に属す。各其の職を尽くすのみ。故に臣の君に於ける、当に畜養の恩の何如を視て其の報を厚薄すべからざるなり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る