下学老談抄録 / 貴賤を問わず無礼なく
貴賤にかゝわらず、無禮の振舞あるまじく、禮は人の節文にて少も是を闕べからず、是を失へば禽獸にもしかざる事、詩經相鼠の章、其外經典中にしばく〱見ゆ、先づ近く譬を取んに、途中乘駕乘馬又は帽子などかぶり、邪魔なれば人にあふて見ぬふりをして會釋に及ばず、或はあとより來て先へ乘ぬき、或は立ながら式臺に口狀を演、或は駕より出て刀を持ながら挨拶に及ぶたぐひ、其外無禮のかずく〱あげて盡しがたし、禮義は殊に重き者なれば、畢竟、大夫執政の面々よりも正しくなくては、下々まで及ぶ事かたし、春秋左傳を見て猶考ふべし、爰に一隅をあげて三隅をおしはからしむるなり、
新字:貴賤にかゝわらず、無礼の振舞あるまじく、礼は人の節文にて少も是を闕べからず、是を失へば禽獣にもしかざる事、詩経相鼠の章、其外経典中にしばく〱見ゆ、先づ近く譬を取んに、途中乗駕乗馬又は帽子などかぶり、邪魔なれば人にあふて見ぬふりをして会釈に及ばず、或はあとより来て先へ乗ぬき、或は立ながら式台に口状を演、或は駕より出て刀を持ながら挨拶に及ぶたぐひ、其外無礼のかずく〱あげて尽しがたし、礼義は殊に重き者なれば、畢竟、大夫執政の面々よりも正しくなくては、下々まで及ぶ事かたし、春秋左伝を見て猶考ふべし、爰に一隅をあげて三隅をおしはからしむるなり、
書き下し
貴賤にかゝわらず、無禮の振舞あるまじく、禮は人の節文にて少も是を闕べからず、是を失へば禽獸にもしかざる事、詩經相鼠の章、其外經典中にしばく〱見ゆ、先づ近く譬を取んに、途中乘駕乘馬又は帽子などかぶり、邪魔なれば人にあふて見ぬふりをして會釋に及ばず、或はあとより來て先へ乘ぬき、或は立ながら式臺に口狀を演、或は駕より出て刀を持ながら挨拶に及ぶたぐひ、其外無禮のかずく〱あげて盡しがたし、禮義は殊に重き者なれば、畢竟、大夫執政の面々よりも正しくなくては、下々まで及ぶ事かたし、春秋左傳を見て猶考ふべし、爰に一隅をあげて三隅をおしはからしむるなり、
現代語訳
身分の貴賤にかかわらず、無礼な振る舞いがあってはなりません。礼は人の節度と形を定めたもので、少しも欠いてはなりません。これを失えば禽獣にも及ばないということは、詩経の相鼠の章をはじめ、そのほかの経典にもしばしば見えます。まず身近な例を挙げましょう。道中で駕籠や馬に乗ったり帽子をかぶったりしていて、邪魔だからと人に会っても見ぬふりをして会釈をしないこと。あるいは後から来て先に追い越すこと。立ったまま式台で口上を述べること。駕籠から出て刀を持ったまま挨拶すること。その他、無礼の例は数え尽くせません。礼義はとりわけ重いものですから、大夫や執政の面々からして正しくなければ、下々まで及ぼすことは難しいのです。春秋左氏伝を見てなお考えるとよいでしょう。ここでは一隅を挙げて、あとの三隅を推し量らせるのです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
詩経・国風・鄘風・相鼠相鼠(そうそ)は、無礼を刺るなり。衛の文公能く其の群臣を正し、而して位に在りて先君の化を承け礼儀無き者を刺るなり。 鼠を相(み)るに皮有り、人にして儀無し。人にして儀無くんば、死せずして何をか為さん。 鼠を相るに歯有り、人にして止(し)無し。人にして止無くんば、死せずして何をか俟(ま)たん。 鼠を相るに体有り、人にして礼無し。人にして礼無くんば、胡(なん)ぞ遄(すみ)やかに死せざる。
-
詩経・小雅・魚藻之什・瓠葉瓠葉(こよう)は、大夫幽王を刺るなり。上礼を棄てて行うこと能わず、牲牢饔餼(せいろうようき)有りと雖も、肯えて用いざるなり。故に古(いにしえ)の人の、微薄を以て礼を廃せざるを思う。 幡幡(はんはん)たる瓠葉(こよう)、これを采りこれを亨(に)る。君子酒有り、酌みて言(ここ)にこれを嘗(な)む。 兔(うさぎ)有り斯(こ)れ首(ひとつ)、これを炮(ほう)しこれを燔(や)く。君子酒有り、酌みて言にこれを献ず。 兔有り斯れ首、これを燔きこれを炙(あぶ)る。君子酒有り、酌みて言にこれを酢(さく)す。 兔有り斯れ首、これを燔きこれを炮す。君子酒有り、酌みて言にこれを醻(しゅう)す。
-
詩経・国風・召南・采蘋采蘋(さいひん)は、大夫の妻、能く法度に循(したが)うなり。能く法度に循えば、則ち以て先祖を承け、祭祀を共(そな)うべし。 于(いずく)にか以て蘋(うきくさ)を采る、南澗(なんかん)の浜に。于にか以て藻(も)を采る、彼の行潦(こうろう)に于てす。 于にか以てこれを盛る、維れ筐(きょう)と筥(きょ)と。于にか以てこれを湘(に)る、維れ錡(き)と釜と。 于にか以てこれを奠(まつ)る、宗室の牖(まど)の下に。誰か其れこれを尸(つかさど)る、斉(つつし)める季女(きじょ)有り。
-
詩経・小雅・魚藻之什・都人士都人士(とじんし)は、周人衣服の常無きを刺るなり。古(いにしえ)民に長たる者は、衣服貳(たが)わず、従容(しょうよう)常有り、以て其の民を斉(ととの)うれば、則ち民の徳壱(いつ)に帰す。今復た古人を見ざるを傷むなり。 彼の都の人士、狐裘(こきゅう)黄黄(こうこう)たり。其の容改まらず、言を出だせば章有り。行きて周に帰すれば、万民の望む所。 彼の都の人士、台笠(たいりゅう)に緇撮(しさつ)。彼の君子の女(むすめ)、綢直(ちゅうちょく)なること髪の如し。我見ず、我が心説(よろこ)ばず。 彼の都の人士、充耳(じゅうじ)は琇実(しゅうじつ)。彼の君子の女、これを尹(いん)・吉(きつ)と謂う。我見ず、我が心苑結(うつけつ)す。 彼の都の人士、帯を垂れて厲(れい)たり。彼の君子の女、巻髪(けんぱつ)蠆(たい)の如し。我見ず、言(ここ)にこれに従いて邁(ゆ)かん。 伊(こ)れこれを垂るるに匪(あら)ず、帯則ち余り有り。伊れこれを巻くに匪ず、髪則ち旟(よ)有り。我見ず、云何(いかん)ぞ盱(なげ)かん。
-
詩経・小雅・甫田之什・桑扈桑扈(そうこ)は、幽王を刺るなり。君臣上下、動くに礼文無し。 交交たる桑扈、鶯(おう)たる其の羽有り。君子楽胥(らくしょ)す、天の祜(さいわい)を受く。 交交たる桑扈、鶯たる其の領(くび)有り。君子楽胥す、万邦の屏(へい)なり。 之れ屏之れ翰(かん)、百辟(ひゃくへき)憲(のり)と為す。戢(つつし)まざらんや難(つつし)まざらんや、福を受くること那(おお)からざらんや。 兕觥(じこう)其れ觩(きゅう)たり、旨酒思(こ)れ柔らかなり。彼交わりて敖(おご)るに匪ず、万福来り求(あつ)まる。
-
詩経・小雅・魚藻之什・采菽采菽(さいしゅく)は、幽王を刺るなり。諸侯を侮慢(ぶまん)す。諸侯来朝するも、錫命(しめい)するに礼を以てすること能わず、数(しばしば)これを徴会して信義無し。君子微を見て古を思う。 菽(まめ)を采り菽を采る、これを筐(きょう)にしこれを筥(きょ)にす。君子来朝す、何をかこれに錫(たま)い予(あた)えん。これに予うる無しと雖も、路車(ろしゃ)と乗馬(じょうば)あり。又何をかこれに予えん、玄袞(げんこん)及び黼(ふ)あり。 觱沸(ひっぷつ)たる檻泉(かんせん)、言(ここ)に其の芹を采る。君子来朝す、言に其の旂(き)を観る。其の旂淠淠(へいへい)たり、鸞声(らんせい)嘒嘒(けいけい)たり。載(すなわ)ち驂(さん)し載ち駟(し)す、君子の届(いた)る所。 赤芾(せきふつ)股に在り、邪幅(じゃふく)下に在り。彼(かれ)交(おご)らず紓(おこた)らず、天子の予うる所。楽しき君子、天子これに命ず。楽しき君子、福禄これを申(かさ)ぬ。 維(こ)れ柞(さく)の枝、其の葉蓬蓬(ほうほう)たり。楽しき君子、天子の邦を殿(しず)む。楽しき君子、万福の同(あつ)まる攸(ところ)。平平(べんべん)たる左右、亦是れ率い従う。 汎汎(はんはん)たる楊舟(ようしゅう)、紼纚(ふつり)もてこれを維(つな)ぐ。楽しき君子、天子これを葵(はか)る。楽しき君子、福禄これを膍(あつ)くす。優なるかな游なるかな、亦是れ戻(いた)れり。

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見る