学論抄録 / 築城の稽古法と地形に学ぶ学問の入り口
一草一木亦無妄用空設、求法於八陣、而構新意、要前後呼應、首尾靈動、雖用寡不窕、用衆亦不橈也、其講習之方、方盤盛濕砂、操鑱作山川城郭之形、又紙上用焦墨、爲草圖、以論形勢便利、初粗後精、旣成復更、有未形已形之法、增減權實之制、本有、滕榎、重々、滿字、神心等秘訣、久之、規模存乎胸中、神識了然、其旣然矣、而後擴以大之、則土字之廣、千里之遠、可以運諸掌上也、張良帷中之秘、孔明草廬之謀、亦莫不由于此、實天下少知之妙術也、夫地形者萬古不動、據靜以論動、則其動也有準、苟動不因靜、則無所底止、所謂無星秤無目盤何所準乎、陰陽相因者、天地定理、道之所行、亦宜矣哉、若一朝有事、則使箇具眼者、進滋于賊境、則所到之山川草木、及風聲鶴唳亦皆迎我、而爲固爲衞、所行所止、莫所不城、乃所謂魚之在水者、非耶、其防大銃、察埋伏、亦猶鏡裏影豈不快乎、昔者魏鄧芥每見高山大澤、輒規度指畫軍營處所、時人多笑焉、蓋時人之笑焉者、未知要路在于此、猶以聖人之道爲迂遠濶乎事情也、何其古今盲聾之多也、凡學問之道、知其所入、而後可與適、地利形勢之學、知由此路頭而入、則思過半矣、近日講武、空言論形勢者有焉、其猶求鹹淡於鹽與水之外也、又未承明師眞訣、徒模倣形象、而不辨便利、消歲月、勞心力、似乎兒童之戲者有焉、亦可惜也哉、
新字:一草一木亦無妄用空設、求法於八陣、而構新意、要前後呼応、首尾霊動、雖用寡不窕、用衆亦不橈也、其講習之方、方盤盛湿砂、操鑱作山川城郭之形、又紙上用焦墨、為草図、以論形勢便利、初粗後精、既成復更、有未形已形之法、增減権実之制、本有、滕榎、重々、満字、神心等秘訣、久之、規模存乎胸中、神識了然、其既然矣、而後擴以大之、則土字之広、千里之遠、可以運諸掌上也、張良帷中之秘、孔明草廬之謀、亦莫不由于此、実天下少知之妙術也、夫地形者万古不動、拠静以論動、則其動也有準、苟動不因静、則無所底止、所謂無星秤無目盤何所準乎、陰陽相因者、天地定理、道之所行、亦宜矣哉、若一朝有事、則使箇具眼者、進滋于賊境、則所到之山川草木、及風声鶴唳亦皆迎我、而為固為衛、所行所止、莫所不城、乃所謂魚之在水者、非耶、其防大銃、察埋伏、亦猶鏡裏影豈不快乎、昔者魏鄧芥毎見高山大沢、輒規度指画軍営処所、時人多笑焉、蓋時人之笑焉者、未知要路在于此、猶以聖人之道為迂遠濶乎事情也、何其古今盲聾之多也、凡学問之道、知其所入、而後可与適、地利形勢之学、知由此路頭而入、則思過半矣、近日講武、空言論形勢者有焉、其猶求鹹淡於塩与水之外也、又未承明師真訣、徒模倣形象、而不弁便利、消歳月、労心力、似乎児童之戯者有焉、亦可惜也哉、
書き下し
一草一木も亦た妄りに用ひ空しく設くる無し。法を八陣に求め、而して新意を構へ、前後呼応し、首尾霊動を要す。寡を用ふれども窕ならず、衆を用ふれども橈まず。其の講習の方は、方盤に湿砂を盛り、鑱を操りて山川城郭の形を作る。又た紙上に焦墨を用ひて草図を為し、以て形勢の便利を論ず。初めは粗に後は精に、既に成れば復た更む。未形已形の法、増減権実の制有り。本より滕榎・重々・満字・神心等の秘訣有り。之を久しくすれば、規模は胸中に存し、神識了然たり。其れ既に然り、而して後に擴めて以て之を大にすれば、則ち土宇の広き、千里の遠きも、以て諸れを掌上に運らすべきなり。張良の帷中の秘、孔明の草廬の謀も、亦た此に由らざる莫し。実に天下に知ること少なき妙術なり。夫れ地形は万古動かず、静に拠りて以て動を論ずれば、則ち其の動や準有り。苟くも動静に因らずんば、則ち底止する所無し。所謂星無き秤、目無き盤、何の準とする所ぞ。陰陽相因るは、天地の定理、道の行はるる所、亦た宜なるかな。若し一朝事有らば、則ち箇の具眼の者をして、進みて賊境に滋らしむれば、則ち到る所の山川草木、及び風声鶴唳も亦た皆我を迎へ、固めと為り衛りと為る。行く所止まる所、城ならざる莫し。乃ち所謂魚の水に在る者に非ずや。其の大銃を防ぎ、埋伏を察すること、亦た鏡裏の影の如し、豈に快からずや。昔者魏の鄧芥、高山大沢を見る毎に、輒ち軍営の処所を規度指画す。時人多く笑ふ。蓋し時人の笑ふ者は、要路の此に在るを知らず、猶ほ聖人の道を以て迂遠にして事情に濶しと為すがごとし。何ぞ其れ古今盲聾の多きや。凡そ学問の道は、其の入る所を知りて後、与に適くべし。地利形勢の学も、此の路頭に由りて入るを知れば、則ち思ひ半ばに過ぐ。近日の講武は、空言して形勢を論ずる者有り。其の猶ほ鹹淡を塩と水の外に求むるがごとし。又た未だ明師の真訣を承けず、徒らに形象を模倣して、便利を弁ぜず、歳月を消し、心力を労して、児童の戯れに似たる者有り。亦た惜しむべきかな。
現代語訳
一草一木も、みだりに用いたりむなしく設けたりすることがありません。法を八陣に求めて新しい意を構え、前後が呼応し、首尾が生き生きと動くことが大切です。少数を用いてもゆとりがなくならず、多数を用いてもたわみません。その講習の方法は、四角い盆に湿った砂を盛り、鑱(へら)を操って山川城郭の形を作ります。また紙の上に焦墨で草図を描き、形勢の便利を論じます。初めは粗く後に精しくし、できあがってもまた改めます。未形・已形の法、増減・権実の制があります。もとより滕榎・重々・満字・神心などの秘訣があります。これを久しく続ければ、規模は胸中に存し、心の識別が明らかになります。そうなってから、広げて大きくすれば、国土の広さ、千里の遠きも掌上に運らせます。張良の帷幕の秘策、孔明の草廬の謀も、この道に由らないものはありません。まことに天下に知る者の少ない妙術です。地形は万古動きません。静に拠って動を論ずれば、その動には基準があります。もし動が静に基づかなければ、行き着く所がありません。いわゆる目盛りのない秤、目のない盤では、何を基準にするのでしょう。陰陽が相互に因ることは天地の定理で、道が行われるところ、もっともなことです。もしある朝事が起これば、眼力のある者を、敵境に進ませれば、行く先の山川草木、風の音や鶴の鳴き声までもみな我を迎え、固めとなり守りとなります。行くところ止まるところ、城でないところはありません。これがいわゆる魚が水にあるということではないでしょうか。大砲を防ぎ、伏兵を察知することも、鏡の中の影を見るようで、痛快ではありませんか。昔、魏の鄧芥は、高い山や大きな沢を見るたびに、陣営の場所を測り指さして示しました。当時の人々は多く笑いました。当時の人が笑ったのは、要路がここにあるのを知らなかったからで、聖人の道を、迂遠で事情に疎いと思うのと同じです。古今を通じて盲目で耳の聞こえない者の、なんと多いことでしょう。およそ学問の道は、その入り口を知ってこそ、ともに進めます。地利形勢の学も、この入り口から入ることを知れば、思いは半ばを超えます。近ごろの武を講ずる者には、空言で形勢を論ずる者がいます。塩と水のほかに塩辛さや淡さを求めるようなものです。また名師の真の訣を承けず、むなしく形だけを模倣して、便利を弁別せず、歳月を費やし、心力を労して、子どもの遊びに似た者もいます。惜しいことです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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孫子・行軍篇斥沢を絶つには、惟だ亟やかに去りて留まること無かれ。若し軍を斥沢の中に交うれば、必ず水草に依りて衆樹を背にす。此れ斥沢に処るの軍なり。平陸には易きに処りて、右に高きを背にし、前は死し後は生く。此れ平陸に処るの軍なり。凡そ此の四軍の利は、黄帝の四帝に勝ちし所以なり。
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『長短経』地形又た六地有り。通有り、挂有り、支有り、隘有り、険有り、遠有り〔六地の名なり〕。我以て往くべく、彼以て来たるべきを、通と曰う〔俱に平陵に在りて、往来通利なるを謂うなり〕。通地に居りては、先ず其の高陽に処り、糧道を利し、以て戦えば則ち利あり〔寧ろ人を致すも、人に致されず。已に先ず高地に処り、分かちて帰来の路に屯守を為し、敵をして已が糧道を絶たしめざるなり〕。以て往くべく、以て反り難きを、挂と曰う〔挂は相挂牽するなり〕。挂形に曰く、敵備え無くんば、出でて之に勝て。敵備え有らば、出でて勝たずして、以て反り難く、利あらず〔敵備え無くして之を攻むれば、勝つこと可なり。備え有りて之に勝つことを得ざれば、則ち還反し難きなり〕。
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『長短経』地形疾く戦えば則ち存し、疾からざれば則ち亡ぶ者を、死地と為す〔前に高山有り、後ろに大水有り。進めば則ち得ず、退けば復た碍有り、又た糧乏絶す。故に死地と為す。死地に在る者は、当に士卒の尚お飽き、強志殊死なるに及ぶべし。故に以て俱に死すべし。故に経に曰く、死地は、吾将に之に示すに活きざるを以てせんとす、と〕。
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『長短経』地形平原相遠く〔遠は、離なり〕、高きを仰ぎ下に臨むは、此れ弓弩の地にして、短兵は十も一に当たらず。両陣相近く、平地浅草にして、前むべく後るべきは、此れ長戟の地にして、剣楯は三も一に当たらず。萑葦竹簫〔簫は、蒿なり〕、草木蒙蘢として林葉茂接するは、此れ矛鋋の地にして、長戟は二も一に当たらず。曲道相伏し、険阨相薄るは、此れ剣楯の地にして、弓弩は三も一に当たらず。故に曰く「地形なる者は、兵の助けなり」と。又た曰く「兵を用うるの道は、地利を宝と為す」と。趙奢は山に趨りて、秦の師所以に覆敗し、韓信は水を背にして、漢の兵由りて其の克勝す。此れ地利を用うるの略なり。
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李衛公問対・卷下太宗曰く、「太公云ふ、『歩兵を以て車騎と戦ふ者は、必ず丘墓・険阻に依る』と。又『孫子』に云ふ、『天隙の地、丘墓・故城は、兵処るべからず』と。如何。」靖曰く、
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孫子・地形篇孫子曰く、凡そ地形には通なる者、掛なる者、支なる者、隘なる者、険なる者、遠なる者あり。我も以て往くべく、彼も以て来たるべきを、通と曰う。通形には、先ず高陽に居り、糧道を利にして、以て戦えば則ち利あり。

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