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福沢諭吉小品集 / 学問の独立・第11段

されば今日この禍を未然に防ぐは、実に焦眉の急にして、決して怠るべからざるものならん。その法いかにして可ならんというに、我が輩の持論は、今の文部省または工部省の学校を、本省より分離して一旦帝室の御有となし、さらにこれを民間の有志有識者に附与して、共同私有私立学校の体をなさしめ、帝室より一時巨額の金円を下附せられて永世保存の基本を立るか、また、年々帝室の御分量中より、学事保護のためにとて定額を賜わるか、二様の内いかようにもすべきなれども、一時下附の法もはなはだ難事に非ず。 たとえば、目今、本省にてその直轄学校のために費すところ、毎年五十万円なれば、資金五百万円を一時に下附してその共同の私有金となし、この金をもって実価五百万円の公債証書を買うて、これを政府に預け、年々およそ五十万円の利子を収領すべし。名は五百万円を下附すというも、その実は現金を受授するに非ず、大蔵省中貯蓄の公債証書に記名を改るのみ。また、この大金を人民に下附するとはいえども、その人の私に恵与するに非ざるはむろんにして、私の字に冠するに共同の字をもってすれば、もとより一個人の私すべからざるや明らかなり。 私立学校はすでに五百万円の資金を得て、維持の法はなはだやすし。ここにおいてなお、全国の碩学にして才識徳望ある人物を集めて、つねに学事の会議を開き、学問社会の中央局と定めて、文書学芸の全権を授け、教育の方法を議し、著書の良否を審査し、古事を探索し、新説を研究し、語法を定め、辞書を編成する等、百般の文事を一手に統轄し、いっさい政府の干渉を許さずして、あたかも文権の本局たるべし。

書き下し

されば今日この禍を未然に防ぐは、実に焦眉の急にして、決して怠るべからざるものならん。その法いかにして可ならんというに、我が輩の持論は、今の文部省または工部省の学校を、本省より分離して一旦帝室の御有となし、さらにこれを民間の有志有識者に附与して、共同私有私立学校の体をなさしめ、帝室より一時巨額の金円を下附せられて永世保存の基本を立るか、また、年々帝室の御分量中より、学事保護のためにとて定額を賜わるか、二様の内いかようにもすべきなれども、一時下附の法もはなはだ難事に非ず。 たとえば、目今、本省にてその直轄学校のために費すところ、毎年五十万円なれば、資金五百万円を一時に下附してその共同の私有金となし、この金をもって実価五百万円の公債証書を買うて、これを政府に預け、年々およそ五十万円の利子を収領すべし。名は五百万円を下附すというも、その実は現金を受授するに非ず、大蔵省中貯蓄の公債証書に記名を改るのみ。また、この大金を人民に下附するとはいえども、その人の私に恵与するに非ざるはむろんにして、私の字に冠するに共同の字をもってすれば、もとより一個人の私すべからざるや明らかなり。 私立学校はすでに五百万円の資金を得て、維持の法はなはだやすし。ここにおいてなお、全国の碩学にして才識徳望ある人物を集めて、つねに学事の会議を開き、学問社会の中央局と定めて、文書学芸の全権を授け、教育の方法を議し、著書の良否を審査し、古事を探索し、新説を研究し、語法を定め、辞書を編成する等、百般の文事を一手に統轄し、いっさい政府の干渉を許さずして、あたかも文権の本局たるべし。

現代語訳

ですから、今日この禍を未然に防ぐことは、まさに焦眉の急で、決して怠ってはならないことでしょう。その方法はどうすればよいかというと、私の持論は、今の文部省と工部省の学校を本省から分離して、いったん帝室の御有とし、さらにこれを民間の有志有識者に付与して、共同私有の私立学校の形をなさしめ、帝室から一時に巨額の金円を下付していただいて永世保存の基本を立てるか、または毎年、帝室の御分量の中から学事保護のためとして定額を賜るか、二通りのうちいずれにしてもよいのですが、一時下付の方法もたいへん難しいことではありません。 たとえば、現在、本省がその直轄学校のために費やすのは毎年五十万円ですから、資金五百万円を一時に下付してその共同の私有金とし、この金で実価五百万円の公債証書を買ってこれを政府に預け、毎年およそ五十万円の利子を受け取ればよいのです。名目は五百万円を下付するといっても、その実は現金を受け渡すのではなく、大蔵省に貯蓄してある公債証書の記名を改めるだけのことです。また、この大金を人民に下付するといっても、その人が私的に恵与を受けるのではないのはもちろんで、私の字に共同の字を冠するのですから、もとより一個人が私すべきものでないことは明らかです。 私立学校はすでに五百万円の資金を得て、維持の方法はとても容易です。そこでさらに、全国の碩学で才識と徳望ある人物を集めて、常に学事の会議を開き、学問社会の中央局と定めて、文書や学芸の全権を授け、教育の方法を議論し、著書の良し悪しを審査し、古事を探索し、新説を研究し、語法を定め、辞書を編集する等、百般の文事を一手に統轄し、一切政府の干渉を許さず、あたかも文権の本局とすべきです。

解説

具体策の提案です。官立学校を帝室が所有する形に移し、基金の利子で運営させ、学者の会議体(学事会)に教育方法や辞書の編集まで任せるという構想です。資金は公債の名義を書き換えるだけで済む、と財政面の実現性も示します。帝室を財源の保護者とする構想には時代的な前提があります。中立の資金源と専門家の自治を組み合わせるという発想は、現代の財団や研究機関の設計にも参考になります。

この章句が説くこと

帝室共同私有基金と利子公債証書学事会文権の本局

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