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福翁自伝 / 王政維新・維新の際に一身の進退

素と私は小士族の家に生れ、その頃は封建時代の事で日本国中何れも同様、藩の制度は守旧一偏の有様で、藩士銘々の分限がチャント定まって、上士は上士、下士は下士と、箱に入れたようにして、その間に少しも融通があられない。ソコで上士族の家に生れた物は親も上士族であれば子も上士族、百年経てもその分限は変らない。従て小士族の家に生れた者は、自から上流士族の者から常に軽蔑を受ける。人々の智愚賢不肖に拘わらず、上士は下士を目下に見下すと云う風が専ら行われて、私は少年の時からソレに就て如何にも不平で堪らない。

書き下し

素と私は小士族の家に生れ、その頃は封建時代の事で日本国中何れも同様、藩の制度は守旧一偏の有様で、藩士銘々の分限がチャント定まって、上士は上士、下士は下士と、箱に入れたようにして、その間に少しも融通があられない。ソコで上士族の家に生れた物は親も上士族であれば子も上士族、百年経てもその分限は変らない。従て小士族の家に生れた者は、自から上流士族の者から常に軽蔑を受ける。人々の智愚賢不肖に拘わらず、上士は下士を目下に見下すと云う風が専ら行われて、私は少年の時からソレに就て如何にも不平で堪らない。

現代語訳

もともと私は小士族の家に生まれ、その頃は封建時代のことで日本国中どこも同様に、藩の制度は旧来のまま守るだけの有様で、藩士めいめいの身分がちゃんと定まり、上士は上士、下士は下士と、箱に入れたようにして、その間に少しの融通もありません。そこで上士の家に生まれた者は、親も上士であれば子も上士で、百年経ってもその身分は変わらない。したがって小士族の家に生まれた者は、おのずから上流の士族から常に軽蔑を受けます。人々の賢愚や才不才にかかわらず、上士は下士を見下すという風が専ら行われていて、私は少年のときからそれがいかにも不平でたまりませんでした。

解説

福沢の政治観の出発点として、中津藩での門閥制度への不満が語られます。上士の子は上士、下士の子は下士で、才能や人柄にかかわらず、百年経っても身分は動きません。福沢は下士の家に生まれ、常に軽蔑を受ける側にいました。この体験は『学問のすゝめ』の「天は人の上に人を造らず」に通じる原点として、よく知られています。身分が生まれで固定された組織では、努力や能力が報われにくいという構図は、形を変えて現代の職場にも残っています。何が評価の基準になっているかを見直す手がかりになる一節です。

この章句が説くこと

小士族上士下士門閥制度封建身分不平

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