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益軒家訓 / 士業勿怠

一四民の内、士を以て長とす。故に士となるは大なるさいはひ也。文武の道をまなび、身をたて、道を行ひ、その家を興し、先祖よりの家業を彌保ち守るべし、若艱厄に値ひ、貧窮になり、或は多病にして、君に仕ふる事なりがたくて、農工商とならん事は、口惜けれど、義によつて業を改むるは苦しからず。但利の爲に父祖の家を捨て、庶民となるべからず。我が子孫是をいましむべし。

新字:一四民の内、士を以て長とす。故に士となるは大なるさいはひ也。文武の道をまなび、身をたて、道を行ひ、その家を興し、先祖よりの家業を弥保ち守るべし、若艱厄に値ひ、貧窮になり、或は多病にして、君に仕ふる事なりがたくて、農工商とならん事は、口惜けれど、義によつて業を改むるは苦しからず。但利の為に父祖の家を捨て、庶民となるべからず。我が子孫是をいましむべし。

書き下し

一四民の内、士を以て長とす。故に士となるは大なるさいはひ也。文武の道をまなび、身をたて、道を行ひ、その家を興し、先祖よりの家業を弥保ち守るべし、若艱厄に値ひ、貧窮になり、或は多病にして、君に仕ふる事なりがたくて、農工商とならん事は、口惜けれど、義によつて業を改むるは苦しからず。但利の為に父祖の家を捨て、庶民となるべからず。我が子孫是をいましむべし。

現代語訳

四民のうち、士を長とします。ですから士となるのは大きな幸いです。文武の道を学び、身を立て、道を行い、その家を興し、先祖からの家業をいよいよ保ち守るべきです。もし苦難に遭い、貧窮になり、あるいは病気がちで、君に仕えることが難しくなって、農・工・商になるのは、残念ではあっても、義によって業を改めるのは差し支えありません。ただし利益のために父祖の家を捨てて庶民になってはなりません。私の子孫はこれを戒めるべきです。

解説

武士の身分を保つことを求めつつ、やむを得ない事情があれば農工商に転じることも「義によって」なら差し支えない、と現実的な道を認めています。ただし利益のために家を捨てることは許しません。益軒が問題にしているのは身分そのものより、判断の動機が義か利かという点です。転職や家業の継承に迷うとき、「それは筋の通った理由か、目先の得か」と自分に問う姿勢は今も役に立ちます。家訓でありながら柔軟さを残しているところに、益軒の実際的な人柄がうかがえます。

この章句が説くこと

家業義利士四民

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