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益軒家訓 / 幼児須教

一凡書を習ふに、和字眞草共に、幼より必古の書法正しき能書を以て手本とすべし。手本惡しければ癖附きて、一生手跡拙し。よく選むべし。一士は事繁き者なれば、一藝一材に長ぜるのみにては用に立たず、次第を以て博く文の藝を學ぶべし。文藝は和禮(書禮業禮共此內にあり)書法文字の學算數等也。餘力あらば、和歌の道、本朝の古實典故、又醫藥養生の術をも兼て學ぶべし。詩は日本の風にあらず、故に勝れたる天才なき者は作るべからず。學問の功を費し、心を苦め、拙けれども自ら其拙きを知らず、人の誚を得て益なし。武藝は劔術鍵騎射鳥銃拳法等なり。戰法は將と士と位によりて學ぶ所、大小の器殊也。其位に切なる事を先とし習ふべし。書を讀み藝を習ふに、日を惜みて、時を失はずして、勤め習ふべし。年若く氣憶も强き時、物を能く覺え習ひ置きて、一生の身の寶とすべし。後に悔ゆべからず。古の聖人は寸陰を惜み給ひしとなり。

新字:一凡書を習ふに、和字真草共に、幼より必古の書法正しき能書を以て手本とすべし。手本悪しければ癖附きて、一生手跡拙し。よく選むべし。一士は事繁き者なれば、一芸一材に長ぜるのみにては用に立たず、次第を以て博く文の芸を学ぶべし。文芸は和礼(書礼業礼共此内にあり)書法文字の学算数等也。余力あらば、和歌の道、本朝の古実典故、又医薬養生の術をも兼て学ぶべし。詩は日本の風にあらず、故に勝れたる天才なき者は作るべからず。学問の功を費し、心を苦め、拙けれども自ら其拙きを知らず、人の誚を得て益なし。武芸は剣術鍵騎射鳥銃拳法等なり。戦法は将と士と位によりて学ぶ所、大小の器殊也。其位に切なる事を先とし習ふべし。書を読み芸を習ふに、日を惜みて、時を失はずして、勤め習ふべし。年若く気憶も強き時、物を能く覚え習ひ置きて、一生の身の宝とすべし。後に悔ゆべからず。古の聖人は寸陰を惜み給ひしとなり。

書き下し

一凡書を習ふに、和字真草共に、幼より必古の書法正しき能書を以て手本とすべし。手本悪しければ癖附きて、一生手跡拙し。よく選むべし。一士は事繁き者なれば、一芸一材に長ぜるのみにては用に立たず、次第を以て博く文の芸を学ぶべし。文芸は和礼(書礼業礼共此内にあり)書法文字の学算数等也。余力あらば、和歌の道、本朝の古実典故、又医薬養生の術をも兼て学ぶべし。詩は日本の風にあらず、故に勝れたる天才なき者は作るべからず。学問の功を費し、心を苦め、拙けれども自ら其拙きを知らず、人の誚を得て益なし。武芸は剣術鍵騎射鳥銃拳法等なり。戦法は将と士と位によりて学ぶ所、大小の器殊也。其位に切なる事を先とし習ふべし。書を読み芸を習ふに、日を惜みて、時を失はずして、勤め習ふべし。年若く気憶も強き時、物を能く覚え習ひ置きて、一生の身の宝とすべし。後に悔ゆべからず。古の聖人は寸陰を惜み給ひしとなり。

現代語訳

およそ字を習うには、仮名も漢字の楷書・草書も、幼いころから必ず昔の正しい書法の能筆を手本とすべきです。手本が悪いと癖がついて、一生字が下手になります。よく選ぶべきです。士(武士)は務めの多い者なので、一つの芸や才に長じているだけでは役に立ちません。順序を追って広く文の芸を学ぶべきです。文の芸とは、礼法(書札の礼や作法の礼もこの中に含まれます)、書法、文字の学、算数などです。余力があれば、和歌の道、日本の故実や典故、また医薬や養生の術もあわせて学ぶべきです。漢詩は日本の風ではないので、すぐれた天分のない者は作るべきではありません。学問の手間を費やし心を苦しめ、下手なのに自分ではその下手さを知らず、人のそしりを受けて益がありません。武芸とは剣術・槍術・騎射・鉄砲・拳法などです。戦法は、将と士という地位によって学ぶところが違い、器の大小も異なります。自分の地位に切実なことを先にして習うべきです。書を読み芸を習うには、日を惜しみ、時を失わずに努めて習うべきです。年が若く記憶力も強いときに物をよく覚え習っておいて、一生の身の宝とすべきです。後で悔やんではなりません。昔の聖人は寸陰を惜しまれたといいます。

解説

武士に必要な教養を、手習い、礼法・書法・算数などの文芸、和歌・故実・医薬養生、武芸、戦法と順序立てて示しています。漢詩は才がなければ無理に作るなという忠告は、儒者の益軒が言うだけに現実的です。聖人は寸陰を惜しむという言葉は、淮南子の原道訓などに見えるものです。若く記憶力のあるうちに学んで一生の宝にせよ、という勧めは今の学生にも通じます。また立場に切実なことから先に学べ、という点は、社会人が学び直すときの優先順位の付け方としても参考になります。

この章句が説くこと

学問教養武芸書時間

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