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大学或問 / 『大学或問』借金を残らず済ます法

八世間借金貸主迷惑せず殘らず相濟、天下無借銀になるべき事、 (問)城主國守は江戶の入用を御免ありて餘米多し、家中の小身者は知行の物成にて家內の用も足がたきものあり、何の餘米ありて借銀を返辨すべきや、 (答)城主國守の餘米は左樣のものゝ借物をすまさん爲なり、其上仁政行はれ式定る時は今までの遣ひ用は入らず、今迄なかりし物は出來る事なれば、思ひの外に小身のものまで心安くなる事なり、然かれば主人家中共に公儀の下知なり、是尤役人あり、京大坂にも役人あり、諸國へ金銀かしたるものをしるし、多きは年をのべ、少きは年をしゞめて、彼には百石二百石、彼には三拾石五十石と分ち、多くかしたるものにも一度に過て遣はさず、十年二十年にて濟もあるべし、甚だ多くして年數にかゝはらざるは永代の知行のごとくして其用を達せしむべし、大名三人五人にかしたるは、三五人より集れは遣はす所は多からじ、かし主共手前不足等もなく、奢もせで心安くおくるやうに奉行よりはからひあるべし、かくのごとくならばたくはへ米四萬石づゝある國守も、借金多くとも貳三千石にては借金の埓あくべきか、扨百姓の借銀すまし遣はすには米多く出べけれども、三年も五年もかゝりてすまさば、四萬石の積米の給人は年々に二萬石づゝ出して郡切に裁判せしむべし、今の高免にても年貢ほどは大方あれども、借銀の元利に引れて不足すれば、いよ〱借銀多くなりて今は至極困窮に及べり、借物さへ濟し給はゞ所により一寸の免のさがりたるにあたるべきか、在々にて裁判の仕形多けれども、長々しければ大數ばかりいひて殘すなり、右の通なればいまだ餘米多く諸浪人の在付も一度になるべし、

新字:八世間借金貸主迷惑せず残らず相済、天下無借銀になるべき事、 (問)城主国守は江戸の入用を御免ありて余米多し、家中の小身者は知行の物成にて家内の用も足がたきものあり、何の余米ありて借銀を返弁すべきや、 (答)城主国守の余米は左様のものゝ借物をすまさん為なり、其上仁政行はれ式定る時は今までの遣ひ用は入らず、今迄なかりし物は出来る事なれば、思ひの外に小身のものまで心安くなる事なり、然かれば主人家中共に公儀の下知なり、是尤役人あり、京大坂にも役人あり、諸国へ金銀かしたるものをしるし、多きは年をのべ、少きは年をしゞめて、彼には百石二百石、彼には三拾石五十石と分ち、多くかしたるものにも一度に過て遣はさず、十年二十年にて済もあるべし、甚だ多くして年数にかゝはらざるは永代の知行のごとくして其用を達せしむべし、大名三人五人にかしたるは、三五人より集れは遣はす所は多からじ、かし主共手前不足等もなく、奢もせで心安くおくるやうに奉行よりはからひあるべし、かくのごとくならばたくはへ米四万石づゝある国守も、借金多くとも貳三千石にては借金の埓あくべきか、扨百姓の借銀すまし遣はすには米多く出べけれども、三年も五年もかゝりてすまさば、四万石の積米の給人は年々に二万石づゝ出して郡切に裁判せしむべし、今の高免にても年貢ほどは大方あれども、借銀の元利に引れて不足すれば、いよ〱借銀多くなりて今は至極困窮に及べり、借物さへ済し給はゞ所により一寸の免のさがりたるにあたるべきか、在々にて裁判の仕形多けれども、長々しければ大数ばかりいひて残すなり、右の通なればいまだ余米多く諸浪人の在付も一度になるべし、

書き下し

八世間借金貸主迷惑せず殘らず相濟、天下無借銀になるべき事、 (問)城主國守は江戶の入用を御免ありて餘米多し、家中の小身者は知行の物成にて家內の用も足がたきものあり、何の餘米ありて借銀を返辨すべきや、 (答)城主國守の餘米は左樣のものゝ借物をすまさん爲なり、其上仁政行はれ式定る時は今までの遣ひ用は入らず、今迄なかりし物は出來る事なれば、思ひの外に小身のものまで心安くなる事なり、然かれば主人家中共に公儀の下知なり、是尤役人あり、京大坂にも役人あり、諸國へ金銀かしたるものをしるし、多きは年をのべ、少きは年をしゞめて、彼には百石二百石、彼には三拾石五十石と分ち、多くかしたるものにも一度に過て遣はさず、十年二十年にて濟もあるべし、甚だ多くして年數にかゝはらざるは永代の知行のごとくして其用を達せしむべし、大名三人五人にかしたるは、三五人より集れは遣はす所は多からじ、かし主共手前不足等もなく、奢もせで心安くおくるやうに奉行よりはからひあるべし、かくのごとくならばたくはへ米四萬石づゝある國守も、借金多くとも貳三千石にては借金の埓あくべきか、扨百姓の借銀すまし遣はすには米多く出べけれども、三年も五年もかゝりてすまさば、四萬石の積米の給人は年々に二萬石づゝ出して郡切に裁判せしむべし、今の高免にても年貢ほどは大方あれども、借銀の元利に引れて不足すれば、いよ〱借銀多くなりて今は至極困窮に及べり、借物さへ濟し給はゞ所により一寸の免のさがりたるにあたるべきか、在々にて裁判の仕形多けれども、長々しければ大數ばかりいひて殘すなり、右の通なればいまだ餘米多く諸浪人の在付も一度になるべし、

現代語訳

八、世間の借金が、貸し主も迷惑せずことごとく済み、天下に借銀がなくなるべきこと。 問う。城主・国守は江戸の入用を免除されて余り米が多い。家中の小身の者は、知行の収入では家内の用も足りがたい者がある。何の余り米があって借銀を返済できるのか。 答える。城主・国守の余り米は、そのような者の借り物を済ませるためのものである。そのうえ、仁政が行われ制度が定まる時は、今までの出費は要らなくなり、今までなかった物(余裕)が生じるので、思いのほか小身の者まで安心できるようになる。そうなれば、主人・家中ともに幕府の指示による。これにはもちろん役人を置き、京・大坂にも役人を置き、諸国へ金銀を貸した者を記録し、多い者は年限を延ばし、少ない者は年限を縮めて、あの者には百石二百石、この者には三十石五十石と分け、多く貸した者にも一度に過分には渡さず、十年二十年で済むものもあろう。はなはだ多くて年数にかかわらない者は、永代の知行のようにして、その用を足させるべきである。大名三人五人に貸した者は、三人五人から集まるので、渡す額は多くない。貸し主たちも手元不足などなく、奢りもせず安心して暮らせるように、奉行が取り計らうべきである。このようであれば、蓄え米が四万石ずつある国守は、借金が多くても二三千石で借金の片がつくだろうか。さて百姓の借銀を済ませるには米が多く出るだろうが、三年も五年もかけて済ませるなら、四万石の積み米の給人は毎年二万石ずつ出して、郡ごとに裁定させるべきである。今の高い税率でも、年貢ほどはおおむねあるのだが、借銀の元利に引かれて不足するので、ますます借銀が多くなって、今は至極困窮している。借り物さえお済ませになれば、所によっては税率が少し下がったに当たるだろうか。在々での裁定のやり方は多いが、長くなるので大筋だけ述べて残す。右のようであれば、なお余り米が多く、諸浪人の落ち着き先も一度に定まるだろう。

解説

蕃山は、世間の借金を、貸し主も借り主も傷つけずに整理する方法を描きます。役人が貸借を記録し、借り手と貸し手の双方の事情に合わせて年限や額を調整し、貸し主の暮らしが立つように配慮する点が要点です。背景には、利息に追われて民も武士も困窮する当時の状況があります。現代の仕事で言えば、債権債務の整理や取引先との調整で、一方的に切り捨てず、相手の生活や事業が続く形で決着させる考え方に通じます。返済を迫る側と返す側が共倒れにならない道筋を探すことの大切さを示しています。
『人生の方程式』の表紙

人生を、一行の式にしてみた。

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この章句が説くこと

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