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中朝事実 / 禮儀章・即位の礼と皇后を立てる礼の意味

神武帝辛酉年春正月庚辰朔。天皇卽帝位於橿原宮。是歲爲天皇元年。 謹按。卽位者人君之大禮也。天者人君之所宗。而人君者庶人之所天也。天高于上。而文明照於四海。人君位于大寶。而明德周於天下。故行卽位之禮。以始天下萬機之道也。帝東征之功大成。定中國。以始卽位之禮。以是歲爲元年。以王正月授時。一天地之氣候。著人君之大禮也。自是歷代因循有此儀。大臣北面以捧神器。天子南面以詔萬國。正上下尊卑之禮。布道德聖明之政。所其繫太重哉乎。蓋此時未知外朝之三統。而人統自立。四時以宜。是乃神聖之靈妙也。爾來正朔終不失。授時相正。而天下一其俗。中華之渾厚大哉。〔以上論卽位之禮。〕 神武帝庚申年秋八月癸丑朔戊辰。天皇當立正妃。改廣求華胄。九月壬午朔己巳。納媛蹈鞴五十鈴媛命以爲正妃。辛酉春正月庚辰朔。天皇卽位。尊正妃爲皇后。 謹按。是后妃選立之始也。蓋聖人得聖匹。則有聖子。聖子聖孫相續。則百代猶一日。是人君所以愛天下之至也。凡帝王之匹。風化之本。禮儀之大也。選立不以其道。則唯縱欲從情。雖克其始。不可保其終。帝當立正妃。廣議正族姓。詳女德。及卽位。乃爲皇后。其隆禮。以序男女之別。辨媵妾之品。垂戒於萬世也。然猶後世未嘗無淫亂黷德。嫡妾相妄。廢奪相行之失矣。夫有男女。而後有父子。然乃國家大事。福祚所繫。在妃匹之際。其禮豈可苟乎。 繼體帝元年三月庚申朔。詔曰。神祇不可乏主。宇宙不可無君。天生黎庶。樹以元首。使司助養。令全性命。大連憂朕無息。披誠款。以國家世世盡忠。豈唯朕日歟。宜備禮儀。奉迎手白香皇女爲皇后。修敎于內。 謹按。是立皇后。備禮儀。修敎于內之詳也。蓋人君恒居九重之深。御萬乘之富。近臣進媚。侫臣逆惡。少怠縱情。則鴆毒無不根其衷。故外設諫議。置史官。正其言行。猶未嘗無其闕遺。妃匹之親。皇后之睦。與內助之益。賴規警之戒。以拾補於此。是良匹賢配所以尙之也。此後立后之禮世世相續。以至皇統連綿也。凡女德之撰不以其道。則淫婦妖女必蠱其心。族姓之戒不嚴。則外戚專權竊威。必構天下之害。立后之禮不正。則男女之別不明。而內修之戒不行。皇妃之道。不規之以其禮。則宮闈臨朝。垂簾預政。至使嗣主擁於虎位。故禮本夫婦。治亂因之。興亡繫焉。往古之令典。舊紀之所載。可不監乎。〔以上論立后之禮。〕

新字:神武帝辛酉年春正月庚辰朔。天皇即帝位於橿原宮。是歳為天皇元年。 謹按。即位者人君之大礼也。天者人君之所宗。而人君者庶人之所天也。天高于上。而文明照於四海。人君位于大宝。而明徳周於天下。故行即位之礼。以始天下万機之道也。帝東征之功大成。定中国。以始即位之礼。以是歳為元年。以王正月授時。一天地之気候。著人君之大礼也。自是歴代因循有此儀。大臣北面以捧神器。天子南面以詔万国。正上下尊卑之礼。布道徳聖明之政。所其繋太重哉乎。蓋此時未知外朝之三統。而人統自立。四時以宜。是乃神聖之霊妙也。爾来正朔終不失。授時相正。而天下一其俗。中華之渾厚大哉。〔以上論即位之礼。〕 神武帝庚申年秋八月癸丑朔戊辰。天皇当立正妃。改広求華胄。九月壬午朔己巳。納媛蹈鞴五十鈴媛命以為正妃。辛酉春正月庚辰朔。天皇即位。尊正妃為皇后。 謹按。是后妃選立之始也。蓋聖人得聖匹。則有聖子。聖子聖孫相続。則百代猶一日。是人君所以愛天下之至也。凡帝王之匹。風化之本。礼儀之大也。選立不以其道。則唯縦欲従情。雖克其始。不可保其終。帝当立正妃。広議正族姓。詳女徳。及即位。乃為皇后。其隆礼。以序男女之別。弁媵妾之品。垂戒於万世也。然猶後世未嘗無淫乱黷徳。嫡妾相妄。廃奪相行之失矣。夫有男女。而後有父子。然乃国家大事。福祚所繋。在妃匹之際。其礼豈可苟乎。 継体帝元年三月庚申朔。詔曰。神祇不可乏主。宇宙不可無君。天生黎庶。樹以元首。使司助養。令全性命。大連憂朕無息。披誠款。以国家世世尽忠。豈唯朕日歟。宜備礼儀。奉迎手白香皇女為皇后。修教于内。 謹按。是立皇后。備礼儀。修教于内之詳也。蓋人君恒居九重之深。御万乗之富。近臣進媚。侫臣逆悪。少怠縦情。則鴆毒無不根其衷。故外設諫議。置史官。正其言行。猶未嘗無其闕遺。妃匹之親。皇后之睦。与内助之益。頼規警之戒。以拾補於此。是良匹賢配所以尚之也。此後立后之礼世世相続。以至皇統連綿也。凡女徳之撰不以其道。則淫婦妖女必蠱其心。族姓之戒不厳。則外戚専権窃威。必構天下之害。立后之礼不正。則男女之別不明。而内修之戒不行。皇妃之道。不規之以其礼。則宮闈臨朝。垂簾預政。至使嗣主擁於虎位。故礼本夫婦。治乱因之。興亡繋焉。往古之令典。旧紀之所載。可不監乎。〔以上論立后之礼。〕

書き下し

神武帝辛酉の年春正月庚辰朔、天皇帝位に橿原宮に卽く。是の歲を天皇の元年と爲す。 謹んで按ずるに、卽位は人君の大禮なり。天は人君の宗とする所にして、人君は庶人の天とする所なり。天高く上にして文明四海を照らす。人君大寶に位して明德天下に周し。故に卽位の禮を行ひ、以て天下萬機の道を始むるなり。帝東征の功大いに成り、中國を定め、以て卽位の禮を始め、是の歲を以て元年と爲し、王正月を以て時を授け、天地の氣候を一にし、人君の大禮を著すなり。是れより歷代因循して此の儀有り。大臣は北面して以て神器を捧げ、天子は南面して以て萬國に詔す。上下尊卑の禮を正し、道德聖明の政を布く。繫る所太だ重きかな。蓋し此の時未だ外朝の三統を知らずして、人統自ら立つ。四時以て宜し。是れ乃ち神聖の靈妙なり。爾來正朔終に失はず、授時相正して、天下其の俗を一にす。中華の渾厚、大なるかな。〔以上、卽位の禮を論ず。〕 神武帝庚申の年秋八月癸丑朔戊辰、天皇正妃を立つべし。改めて廣く華胄を求む。九月壬午朔己巳、媛蹈鞴五十鈴媛命を納れて以て正妃と爲す。辛酉春正月庚辰朔、天皇卽位す。正妃を尊びて皇后と爲す。 謹んで按ずるに、是れ后妃選立の始めなり。蓋し聖人聖匹を得れば、則ち聖子有り。聖子聖孫相續げば、則ち百代も猶ほ一日のごとし。是れ人君の天下を愛する至りなる所以なり。凡そ帝王の匹は、風化の本、禮儀の大なり。選立其の道を以てせざれば、則ち唯だ欲を縱にし情に從ひ、其の始めに克つと雖も、其の終りを保つべからず。帝正妃を立てんとするに當たり、廣く族姓を議し、女德を詳にす。卽位に及び、乃ち皇后と爲す。其の禮を隆くし、以て男女の別を序し、媵妾の品を辨じ、戒めを萬世に垂る。然れども猶ほ後世未だ嘗て淫亂・德を黷し、嫡妾相妄し、廢奪相行はるるの失無くんばあらず。夫れ男女有りて後に父子有り。然れば乃ち國家の大事、福祚の繫る所、妃匹の際に在り。其の禮豈に苟もすべけんや。 繼體帝元年三月庚申朔、詔して曰く、「神祇は主を乏しくすべからず。宇宙は君無かるべからず。天、黎庶を生じ、元首を樹てて、司り助け養はしめ、性命を全うせしむ。大連、朕の息無きを憂へ、誠款を披き、國家のために世世忠を盡くす。豈に唯だ朕が日のみならんや。宜しく禮儀を備へ、手白香皇女を奉迎して皇后と爲し、敎を内に修めしむべし」と。 謹んで按ずるに、是れ皇后を立て、禮儀を備へ、敎を内に修むるの詳しきなり。蓋し人君恒に九重の深きに居り、萬乘の富を御す。近臣媚を進め、佞臣惡を逆ふ。少しく怠り情を縱にすれば、鴆毒其の衷に根ざさざる無し。故に外には諫議を設け、史官を置き、其の言行を正す。猶ほ未だ嘗て其の闕遺無くんばあらず。妃匹の親、皇后の睦、内助の益、規警の戒めに賴り、以て此に拾ひ補ふ。是れ良匹賢配の尙ばるる所以なり。此の後立后の禮世世相續き、以て皇統連綿に至る。凡そ女德の撰其の道を以てせざれば、則ち淫婦妖女必ず其の心を蠱す。族姓の戒め嚴ならざれば、則ち外戚權を專らにし威を竊み、必ず天下の害を構ふ。立后の禮正しからざれば、則ち男女の別明らかならずして、内修の戒め行はれず。皇妃の道、之を規するに其の禮を以てせざれば、則ち宮闈朝に臨み、簾を垂れて政に預かり、嗣主をして虎位に擁せられしむるに至る。故に禮は夫婦に本づき、治亂之に因り、興亡之に繫る。往古の令典、舊紀の載する所、監みざるべけんや。〔以上、立后の禮を論ず。〕

現代語訳

神武帝は辛酉の年の春正月庚辰朔、橿原宮で帝位に即かれた。この年を天皇の元年とした。 素行はこう考える。即位は君主の大礼である。天は君主が宗とするところであり、君主は庶民が天とするところである。天は高く上にあって文明が四海を照らす。君主は大宝に位して明徳が天下に行き渡る。だから即位の礼を行い、天下万機の道を始めるのである。帝は東征の功が大いに成り、中国(日本)を定めて、即位の礼を始め、この年を元年とし、王の正月によって暦を授け、天地の気候を一つにし、君主の大礼を著した。以来、歴代が受け継いでこの儀がある。大臣は北面して神器を捧げ、天子は南面して万国に詔する。上下尊卑の礼を正し、道徳聖明の政を布く。その関わるところは重い。思うにこの時はまだ外朝(中国)の三統(暦の三つの建て方)を知らないのに、人統(寅の月を歳首とする暦)がおのずと立ち、四季がよく合った。これこそ神聖の霊妙である。以来、正朔は失われず、暦を授け合い正し合って、天下の風俗が一つになった。中華の厚みは大きい。〔以上、即位の礼を論ずる。〕 神武帝は庚申の年の秋八月癸丑朔戊辰、天皇は正妃を立てるべきだとして、改めて広く名門の血筋を求めた。九月壬午朔己巳、媛蹈鞴五十鈴媛命を迎えて正妃とした。辛酉の春正月庚辰朔、天皇が即位し、正妃を尊んで皇后とした。 素行はこう考える。これは后妃を選び立てる始めである。思うに聖人が聖なる伴侶を得れば聖なる子が生まれる。聖子・聖孫が続けば、百代も一日のようである。これは君主が天下を愛する至りの表れである。帝王の伴侶は風化の本であり、礼儀の大事である。選び立てるのに道によらなければ、ただ欲を縦にし情に従い、始めはよくても終わりを保てない。帝は正妃を立てるにあたり、広く氏族の出自を議し、女性の徳を詳しく見た。即位に及んで皇后とした。その礼を盛んにして男女の別を序し、媵妾の格を弁別して、戒めを万世に残した。それでも後世には、淫乱や徳の汚れ、嫡妻と妾の乱れ、廃立の失がなかったわけではない。そもそも男女があって後に父子がある。国家の大事、福祚の関わるところは、妃匹の際にある。その礼をどうして軽んじてよかろうか。 継体帝元年三月庚申朔、詔していわれた。「神祇には主がなくてはならない。宇宙には君がなくてはならない。天は民を生み、元首を樹てて、治め助け養わせ、性命を全うさせる。大連は朕に子がないことを憂え、誠意を披瀝して、国家のために代々忠を尽くしてくれる。それは朕の代だけではない。礼儀を整えて、手白香皇女を迎えて皇后とし、教えを内に修めさせよう。」 素行はこう考える。これは皇后を立て、礼儀を備え、内に教えを修める様子の詳しい記述である。思うに君主は常に九重の奥深くにいて、万乗の富を御する。近臣は媚びを進め、佞臣は悪を迎える。少しでも怠り情を縦にすれば、鴆毒はその心中に根ざす。だから外には諫議の官を設け、史官を置いてその言行を正す。それでもなお欠けや漏れがないわけではない。伴侶の親しみ、皇后の睦まじさ、内助の益、戒めの助言によって、ここに拾い補う。これが良き伴侶・賢い配偶者が尊ばれる理由である。この後、立后の礼は代々続き、皇統が連綿と至った。女性の徳の選びが道によらなければ、淫婦や妖女が必ずその心を惑わす。氏族の戒めが厳しくなければ、外戚が権を専らにして威を盗み、必ず天下の害をなす。立后の礼が正しくなければ、男女の別が明らかでなく、内を修める戒めが行われない。皇妃の道を礼によって正さなければ、後宮が朝廷に臨み、簾を垂れて政に与かり、跡継ぎを虎の座に担ぎ上げられるに至る。だから礼は夫婦に本づき、治乱がこれによって生じ、興亡がこれに関わる。昔の令典と古い記録が載せることを、鑑みずにいられようか。〔以上、立后の礼を論ずる。〕

解説

即位の礼と、神武帝・継体帝の皇后を立てる記述を引き、素行は暦を授ける即位の儀を天下の風俗を一つにするはじめと見ます。后妃の選びを血筋と徳の面から論じ、外戚の専横を戒めるのも素行の考えです。組織でも、トップの就任や承継を式として明らかにする意味、トップの身近を固める人選が組織の安定に響く点は、現代の経営者にも通じる視点です。人の上に立つ者が身辺をどう整えるかは、昔も今も組織の安定を左右する要素です。
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この章句が説くこと

即位の礼正朔立后女徳外戚内助

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