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中朝事実 / 禮儀章・礼は天地の序・先唱と石窟籠もり

天先成而地後定。然後神聖生其中焉。 謹按。天先而居上。地後而居下。在上者高而文明也。在下者卑而厚順也。其中生萬品。而聖神長于此。以定其道。是乃天地有天地之形。聖人因以字之曰禮。禮者辨上下。以定天下之人心。分貴賤。以通天下之使用之道也。禮之行也。本天地之陰陽。因乎其自然。以立今日日用之制。天下襲之行之。則終不奢不儉。上不遺於君父之尊親。下不超於臣子之分限。自此天下之廣。萬機之衆。悉有其禮。等級分明。不可相混亂。禮之義不亦大乎。凡治平之要。其本在禮。君臣定。貴賤位。小大守分。動靜有常。好作亂者未之有也。 伊弉諾尊伊弉册尊。以磤馭盧島爲國中之柱。而陽神左旋。陰神右旋。分巡國柱。同會一面。時陰神先唱。陽神不悅曰。吾是男子。理當先唱。如何婦人反先言乎。事旣不祥。宜以改旋。於是二神却更相遇。是行也。陽神先唱。陰神對。遂生大日本豐秋津洲。 謹按。是天神正禮之儀也。二神者乃天地也。陰陽也。男女也。萬物之宗源也。中國之大宗也。本朝所以爲中州。人物所以爲人物。聖敎所以爲聖敎也。蓋理者條理也。有條理不亂者禮也。此時雖未有禮名。旣言理則禮以屬于此也。夫經營於宇宙。生成於人物之始。未嘗不以此大禮。天下之禮繫于人君。人君正禮。而後天下之條理可行之。故陰陽各自左旋右行。以循天地之序。正先後唱和之節。以定天下之事物。禮之時其用大哉乎。此禮一立。而後後世先後上下男女之道大明。萬民皆由之。二神之德可不仰乎。 素戔嗚尊之爲行也甚無狀。天照太神發慍。乃入于天石窟。閉磐戶而幽居焉。故六合之內常闇。而不知晝夜之相代。 謹按。無狀者無禮儀之言也。神者寬仁之聖明。而嚴正其無禮如此。蓋禮者安上治民之道也。無禮則上下混。尊卑不分。上下混則人人從其情直行。故君臣不正。尊卑不分。則强凌弱。富侮貧。大傾小。故邪正不明。是神深所以戒其無狀也。神乃入于天石窟。閉磐戶。而六合常闇。是示無禮則天下邪正混不可知。其慮不遠乎。後世臣僭上子蔑父。皆所以禮之不明也。然乃去神既遠。其靈驗雖無可速懼。若有亂臣賊子以縱志。神必可入石窟而六合常闇。不知神今日在耶不在。禮之用可不愼乎。

新字:天先成而地後定。然後神聖生其中焉。 謹按。天先而居上。地後而居下。在上者高而文明也。在下者卑而厚順也。其中生万品。而聖神長于此。以定其道。是乃天地有天地之形。聖人因以字之曰礼。礼者弁上下。以定天下之人心。分貴賤。以通天下之使用之道也。礼之行也。本天地之陰陽。因乎其自然。以立今日日用之制。天下襲之行之。則終不奢不倹。上不遺於君父之尊親。下不超於臣子之分限。自此天下之広。万機之衆。悉有其礼。等級分明。不可相混乱。礼之義不亦大乎。凡治平之要。其本在礼。君臣定。貴賤位。小大守分。動静有常。好作乱者未之有也。 伊弉諾尊伊弉册尊。以磤馭盧島為国中之柱。而陽神左旋。陰神右旋。分巡国柱。同会一面。時陰神先唱。陽神不悦曰。吾是男子。理当先唱。如何婦人反先言乎。事既不祥。宜以改旋。於是二神却更相遇。是行也。陽神先唱。陰神対。遂生大日本豊秋津洲。 謹按。是天神正礼之儀也。二神者乃天地也。陰陽也。男女也。万物之宗源也。中国之大宗也。本朝所以為中州。人物所以為人物。聖教所以為聖教也。蓋理者条理也。有条理不乱者礼也。此時雖未有礼名。既言理則礼以属于此也。夫経営於宇宙。生成於人物之始。未嘗不以此大礼。天下之礼繋于人君。人君正礼。而後天下之条理可行之。故陰陽各自左旋右行。以循天地之序。正先後唱和之節。以定天下之事物。礼之時其用大哉乎。此礼一立。而後後世先後上下男女之道大明。万民皆由之。二神之徳可不仰乎。 素戔嗚尊之為行也甚無状。天照太神発慍。乃入于天石窟。閉磐戸而幽居焉。故六合之内常闇。而不知昼夜之相代。 謹按。無状者無礼儀之言也。神者寛仁之聖明。而厳正其無礼如此。蓋礼者安上治民之道也。無礼則上下混。尊卑不分。上下混則人人従其情直行。故君臣不正。尊卑不分。則強凌弱。富侮貧。大傾小。故邪正不明。是神深所以戒其無状也。神乃入于天石窟。閉磐戸。而六合常闇。是示無礼則天下邪正混不可知。其慮不遠乎。後世臣僭上子蔑父。皆所以礼之不明也。然乃去神既遠。其霊験雖無可速懼。若有乱臣賊子以縦志。神必可入石窟而六合常闇。不知神今日在耶不在。礼之用可不慎乎。

書き下し

天先づ成りて地後に定まり、然る後に神聖其の中に生ず。 謹んで按ずるに、天は先にして上に居り、地は後にして下に居る。上に在る者は高くして文明なり、下に在る者は卑くして厚順なり。其の中に萬品生じ、而して聖神此に長じて以て其の道を定む。是れ乃ち天地に天地の形有り、聖人因りて之を字して禮と曰ふ。禮は上下を辨じて以て天下の人心を定め、貴賤を分かちて以て天下使用の道を通ずるなり。禮の行はるるや、天地の陰陽に本づき、其の自然に因りて、以て今日日用の制を立つ。天下之を襲ひ之を行へば、則ち終に奢らず儉ならず、上は君父の尊親を遺れず、下は臣子の分限を超えず。此れより天下の廣く、萬機の衆き、悉く其の禮有り、等級分明にして、相混亂すべからず。禮の義、亦大ならずや。凡そ治平の要は、其の本禮に在り。君臣定まり、貴賤位し、小大分を守り、動靜常有り。亂を作すを好む者、未だ之有らざるなり。 伊弉諾尊・伊弉册尊、磤馭盧島を以て國中の柱と爲し、而して陽神は左より旋り、陰神は右より旋る。分れて國柱を巡り、同じく一面に會す。時に陰神先づ唱ふ。陽神悅ばずして曰く、「吾は是れ男子なり。理當に先づ唱ふべし。如何ぞ婦人反りて先づ言ふや。事既に不祥なり。宜しく以て改め旋るべし」と。是に二神却りて更に相遇ふ。是の行や、陽神先づ唱へ、陰神對ふ。遂に大日本豐秋津洲を生む。 謹んで按ずるに、是れ天神、禮を正すの儀なり。二神は乃ち天地なり、陰陽なり、男女なり、萬物の宗源なり。中國の大宗なり。本朝の中州たる所以、人物の人物たる所以、聖敎の聖敎たる所以なり。蓋し理は條理なり。條理有りて亂れざる者は禮なり。此の時未だ禮の名有らずと雖も、既に理と言へば、則ち禮は此れに屬するなり。夫れ宇宙に經營し、人物を生成するの始め、未だ嘗て此の大禮を以てせずんばあらず。天下の禮は人君に繫る。人君禮を正して、而る後に天下の條理之を行ふべし。故に陰陽各々自ら左旋右行し、以て天地の序に循ひ、先後唱和の節を正し、以て天下の事物を定む。禮の時の用、大なるかな。此の禮一たび立ちて、後後世の先後・上下・男女の道大いに明らかにして、萬民皆之に由る。二神の德、仰がざるべけんや。 素戔嗚尊の行ひ爲るや、甚だ無狀なり。天照太神慍りを發し、乃ち天石窟に入り、磐戶を閉ぢて幽居したまふ。故に六合の内常闇にして、晝夜の相代はるを知らず。 謹んで按ずるに、無狀とは、禮儀無きを言ふ。神は寬仁の聖明なり。而して其の無禮を嚴正すること此の如し。蓋し禮は上を安んじ民を治むるの道なり。禮無ければ則ち上下混じ、尊卑分かたず。上下混ずれば則ち人人情に從ひて直ちに行ふ。故に君臣正しからず、尊卑分かたざれば、則ち强は弱を凌ぎ、富は貧を侮り、大は小を傾く。故に邪正明らかならず。是れ神、深く其の無狀を戒むる所以なり。神乃ち天石窟に入り、磐戶を閉ぢて六合常闇なるは、是れ禮無ければ則ち天下の邪正混じて知るべからざるを示すなり。其の慮、遠からずや。後世、臣は上を僭し子は父を蔑するは、皆禮の明らかならざる所以なり。然れども乃ち神を去ること既に遠く、其の靈驗速やかに懼るべき無しと雖も、若し亂臣賊子有りて以て志を縱にすれば、神必ず石窟に入りて六合常闇なるべし。神の今日在すか在さざるかを知らず。禮の用、愼まざるべけんや。

現代語訳

天がまず成って地があとに定まり、その後で神聖がその中に生まれた。 素行はこう考える。天は先にあって上に居り、地は後にあって下に居る。上にあるものは高くて文明であり、下にあるものは低くて厚く従順である。その中に万物が生じ、神聖がここに成長してその道を定めた。つまり天地に天地の形があり、聖人がそれに因って字を付けて「礼」といったのである。礼は上下を弁別して天下の人心を定め、貴賤を分けて天下の使用の道を通すものである。礼の行われ方は、天地の陰陽に基づき、その自然に従って、今日の日常の制度を立てる。天下がこれを受け継いで行えば、ついに奢らず倹約にも偏らず、上は君父の尊さと親しさを忘れず、下は臣子の分限を超えない。これにより天下の広さと万機の多さにも、すべて礼があり、等級が分明で、互いに混乱しない。礼の義は大きいではないか。治平の要は、その本が礼にある。君臣が定まり、貴賤が位に就き、大小が分を守り、動静に常がある。乱を起こすことを好む者はいない。 伊弉諾尊と伊弉冉尊は、磤馭盧島を国の中心の柱とし、陽神は左から回り、陰神は右から回った。分かれて国の柱を巡り、同じ面で出会った。そのとき陰神がまず声をかけた。陽神は喜ばずにいった。「私は男である。道理として私がまず言うべきだ。どうして女がかえって先に言うのか。事はすでに不吉である。改めて回り直そう。」そこで二神は改めて出会った。今度は陽神が先に声をかけ、陰神が答えた。こうして大日本豊秋津洲を生んだ。 素行はこう考える。これは天神が礼を正した形である。二神は天地であり、陰陽であり、男女であり、万物の根源である。中国(日本)の大宗である。わが国が中州である理由、人が人である理由、聖人の教えが教えである理由である。思うに理は条理である。条理があって乱れないものが礼である。この時はまだ礼という名はなかったが、すでに理といえば、礼はこれに属する。宇宙を経営し人や物を生成する始めは、いつもこの大礼によった。天下の礼は君主にかかっている。君主が礼を正して、はじめて天下の条理を行える。だから陰陽はそれぞれ左旋右行して天地の序に従い、先後唱和の節を正して天下の事物を定めた。礼の時に応じた働きは大きい。この礼が一度立って、後世の先後・上下・男女の道が大いに明らかになり、万民がみなこれに従った。二神の徳を仰がずにいられようか。(ここで先唱を男に定めるのは、当時の価値観に立つ素行の説明である。) 素戔嗚尊の行いは、甚だしく無状であった。天照大神は怒りを起こし、天の石窟に入って磐戸を閉ざし、籠もられた。それで天地四方の内は常闇となり、昼夜の交代も分からなくなった。 素行はこう考える。無状とは、礼儀がないことをいう。神は寛仁で聖明であるのに、その無礼をこのように厳しく正した。思うに礼は上を安んじ民を治める道である。礼がなければ上下が混じり、尊卑が分かれない。上下が混じれば、人々は情のままに行う。それで君臣が正しくなく、尊卑が分かれなければ、強い者は弱い者を凌ぎ、富む者は貧しい者を侮り、大きい者は小さい者を傾ける。だから邪正が明らかでなくなる。これが神が無状を深く戒めた理由である。神が石窟に入り磐戸を閉じて天地が常闇となったのは、礼がなければ天下の邪正が混じって分からなくなることを示している。その思いは遠いではないか。後世、臣が上を僭し子が父を軽んじるのは、すべて礼が明らかでないからである。しかし神からすでに遠く、その霊験がすぐ恐ろしいことはないとしても、もし乱臣賊子が志をほしいままにすれば、神は必ず石窟に入って天地は常闇となるだろう。神が今日おられるのかおられないのかは分からない。礼の用を慎まずにいられようか。

解説

『日本書紀』の天地開闢、伊弉諾・伊弉冉の先唱のやり直し、素戔嗚尊の無状と天照大神の石窟籠もりを引き、素行は礼を天地の自然に基づく秩序の条理と説きます。男が先に唱えるべきだという説明は、当時の価値観に立つ素行の説です。礼を飾りでなく、混乱を防ぐ条理と見る視点は、組織のルールや役割の線引き、挨拶や報告の作法がなぜ必要かを考える手がかりになります。
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人生を、一行の式にしてみた。

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この章句が説くこと

礼天地の序先唱素戔嗚尊天石窟条理

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