智囊 / 小慧・無賴書生
《廣記》:唐洛中,頃年有僧持數粒所謂「舍利」者,貯於琉璃器中,晝夜香火,檀越之禮日無虛焉。有貧士子無賴,因詣僧請觀舍利子,僧出瓶授與,遽取吞之。僧惶駭無措,復慮外聞之,士子曰:「與我錢,當服藥出之耳。」贈二百緡,乃服巴豆瀉下,僧歡然濯而收之。
新字:《広記》:唐洛中,頃年有僧持数粒所謂「舎利」者,貯於琉璃器中,昼夜香火,檀越之礼日無虚焉。有貧士子無頼,因詣僧請観舎利子,僧出瓶授与,遽取呑之。僧惶駭無措,復慮外聞之,士子曰:「与我銭,当服薬出之耳。」贈二百緡,乃服巴豆瀉下,僧歓然濯而収之。
書き下し
《広記》に、唐の洛中、頃年僧有り、数粒の所謂「舎利」なる者を持し、琉璃の器の中に貯え、昼夜香火し、檀越の礼は日に虚しき無し。貧しき士子の無頼なる者有り、因りて僧に詣りて舎利子を請い観る、僧は瓶を出だして授与す、遽かに取りて之を呑む。僧は惶駭して措く無く、復た外に聞こゆるを慮る、士子曰く、「我に銭を与えよ、当に薬を服して之を出だすべし」と。二百緡を贈り、乃ち巴豆を服して瀉下す、僧は歓然として濯ぎて収む。
現代語訳
『太平広記』にこうある。唐代の洛陽で、数年前に僧がいて、いわゆる「舎利」を数粒持ち、ガラスの器に入れて、昼夜香を焚いて供養していた。施主たちの参拝は毎日絶えなかった。貧乏で無頼の書生がいて、その僧のところへ行って舎利を見せてほしいと頼んだ。僧は瓶を取り出して渡した。書生はたちまち取ってそれを呑み込んだ。僧は慌てふためいて途方に暮れ、また外に知れ渡ることを心配した。書生は言った。「私に銭を与えれば、薬を飲んで出してあげよう。」二百緡を贈ると、書生は巴豆を服用して下し、僧は喜んで洗って収めた。
解説
神聖な品が盗まれて、それを取り戻すために金を払うという、人質型の脅しの話です。書生は舎利を呑み込むという大胆な行為で、僧の弱みである信者への体面を握りました。僧にとって大切なのは、舎利そのものより、それが失われたと知れ渡ることです。守るべき評判や資産を、一点に集中させている組織は、そこを押さえられると身代金に近い要求を呑まされることがあります。管理職は、自分たちの弱点が、実物ではなく信用や体面にあることを自覚し、緊急時の対応方針を事前に決めておく必要があります。なお、この話は貧しさゆえの犯行を笑い話にしており、馮夢龍は小慧と位置づけています。
この章句が説くこと
舎利巴豆二百緡危機管理信用体面
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史記 項羽本紀今関に入りて、財物取る所無く、婦女幸する所無し、此れ其の志小に在らず。吾人をして其の気を望ましむるに、皆龍虎を為し、五采を成す、此れ天子の気なり。急ぎ撃ちて失ふ勿かれ。」と。楚の左尹項伯は、項羽の季父なり、素より留侯張良に善し。張良是の時沛公に従ふ、項伯乃ち夜馳せて沛公の軍に之き、私かに張良に見え、具に告ぐるに事を以てし、張良を呼びて与に倶に去らんと欲す。曰く、「倶に死する毋かれ。」と。張良曰く、「臣韓王の為に沛公を送る、沛公今事急有り、亡げ去るは不義なり、語らざるべからず。」と。良乃ち入りて、具に沛公に告ぐ。沛公大いに驚きて、曰く、「之を為すこと柰何(いかん)。」と。張良曰く、「誰か大王の為に此の計を為せし者ぞ。」と。曰く、「鯫生(そうせい)我に説きて曰く『関を距(ふせ)ぎ、諸侯を内(い)るる毋くんば、秦の地尽く王たるべし』と。故に之を聴く。」と。良曰く、「大王の士卒を料るに以て項王に当たるに足るか。」と。沛公默然として、曰く、「固より如かず、且つ之を為すこと柰何。」と。張良曰く、「請ふ往きて項伯に謂ひ、沛公敢へて項王に背かざるを言はん。」と。沛公曰く、「君安んぞ項伯と故有る。」と。張良曰く、「秦の時臣と游ぶ、項伯人を殺す、臣之を活かす。今事急有り、故に幸ひに来りて良に告ぐ。」と。沛公曰く、「君と孰れか少長なる。」と。良曰く、「臣より長なり。」と。沛公曰く、「君我が為に呼び入れよ、吾兄として之に事ふるを得ん。」と。張良出でて、項伯を要(むか)ふ。項伯即ち入りて沛公に見ゆ。沛公巵酒を奉じて寿を為し、約して婚姻を為し、曰く、「吾関に入りて、秋豪も敢へて近づく所有らず、吏民を籍し、府庫を封じて、将軍を待つ。将を遣はして関を守らしむる所以の者は、他盗の出入と非常とに備ふるなり。日夜将軍の至るを望む、豈に敢へて反かんや。願はくは伯具に臣の敢へて徳に倍(そむ)かざるを言へ。」と。項伯許諾す。沛公に謂ひて曰く、「旦日蚤く自ら来りて項王に謝せざるべからず。」と。沛公曰く、「諾。」と。是に於て項伯復た夜去り、軍中に至り、具に沛公の言を以て項王に報ず。
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