導師導古典を学びたいすべての人に 法人向けワークシート法人向けワークシート

智囊 / 狡黠・達奚盈盈

達奚盈盈者,天寶中貴人之妾,姿豔冠絕一時。會同官之子為千牛者失,索之甚急。明皇聞之,詔大索京師,無所不至,而莫見其跡。因問近往何處,其父言:「貴人病,嘗往候之。」詔且索貴人之室,盈盈謂千牛曰:「今勢不能自隱矣,出亦無甚害。」千牛懼得罪,盈盈因教曰:「第不可言在此,如上問何往,但云所見人物如此,所見簾幕帷帳如此,所食物如此,勢不由己,決無患矣。」既出,明皇大怒,問之,對如盈盈言,上笑而不問。後數日,虢國夫人入內,上戲謂曰:「何久藏少年不出耶?」夫人亦大笑而已。〔評〕婦人之智可畏。

新字:達奚盈盈者,天宝中貴人之妾,姿艶冠絶一時。会同官之子為千牛者失,索之甚急。明皇聞之,詔大索京師,無所不至,而莫見其跡。因問近往何処,其父言:「貴人病,嘗往候之。」詔且索貴人之室,盈盈謂千牛曰:「今勢不能自隠矣,出亦無甚害。」千牛懼得罪,盈盈因教曰:「第不可言在此,如上問何往,但云所見人物如此,所見簾幕帷帳如此,所食物如此,勢不由己,決無患矣。」既出,明皇大怒,問之,対如盈盈言,上笑而不問。後数日,虢国夫人入内,上戯謂曰:「何久蔵少年不出耶?」夫人亦大笑而已。〔評〕婦人之智可畏。

書き下し

達奚盈盈なる者は、天宝中の貴人の妾にして、姿豔は一時に冠絶す。会ま同官の子の千牛為る者失せ、索むること甚だ急なり。明皇は之を聞き、詔して京師を大索せしむ、至らざる所無きも、其の跡を見る莫し。因りて近ごろ往きし処を問うに、其の父言う、「貴人病み、嘗て往きて候う」と。詔して且に貴人の室を索めんとす、盈盈は千牛に謂いて曰く、「今勢い自ら隠すこと能わず、出ずるも亦た甚だしき害無し」と。千牛は罪を得んことを懼る、盈盈は因りて教えて曰く、「第だ此に在りと言うべからず、如し上の何くに往きしと問わば、但だ見し所の人物は此の如く、見し所の簾幕帷帳は此の如く、食せし所の物は此の如しと云え、勢い己に由らずと、決して患い無けん」と。既に出で、明皇は大いに怒りて問う、対うること盈盈の言の如し、上は笑いて問わず。後数日、虢国夫人入内す、上は戯れて謂いて曰く、「何ぞ久しく少年を蔵して出ださざる」と、夫人も亦た大いに笑うのみ。〔評〕婦人の智は畏るべし。

現代語訳

達奚盈盈は、天宝年間のある高官の妾で、その姿の美しさは当時並ぶ者がなかった。ちょうど同僚の官吏の息子で千牛衛に勤める者が行方不明になり、捜索が急を要した。玄宗はこれを聞き、詔を下して都をくまなく捜させたが、足跡は見つからなかった。そこで最近どこへ行ったかを尋ねると、その父は、「高官が病気になったので、見舞いに行ったことがあります」と答えた。詔により、その高官の屋敷を捜索しようとした。盈盈は千牛に言った。「今となってはもう隠しきれません。出て行っても大した害はないでしょう。」千牛は罪を得ることを恐れた。盈盈はそこで教えた。「ここにいたとだけは言ってはなりません。もし陛下がどこへ行っていたのかとお尋ねになったら、ただ、見た人物はこうだった、見た簾や幕や帳はこうだった、食べた物はこうだった、と答えなさい。自分の意志ではどうにもならなかったのだ、と言えば、決して心配はありません。」千牛が出て来ると、玄宗は大いに怒って問いただした。千牛は盈盈の言葉どおりに答え、帝は笑って追及しなかった。数日後、虢国夫人が宮中に入ると、帝は冗談めかして言った。「どうして長いこと少年をかくまって出さなかったのだ。」夫人もただ大いに笑うだけだった。〔評〕女性の知恵は恐るべきものである。

解説

皇帝の捜索という最大の圧力のもとで、達奚盈盈が選んだのは、嘘をつかせることでなく、真実の細部だけを語らせて場所を特定させないという、事実の範囲を絞る返答でした。見たもの、食べたものを正直に述べれば、虚偽にはならず、場所の名だけを伏せられます。そして皇帝も、ここまで来ると事を荒立てずに笑って済ませました。権力者に問い詰められる場面で、隠しきるか全て白状するかの二択に陥らず、害の小さい出口を設計する知恵が光ります。管理職は、不祥事の説明で、嘘を避けながら被害の拡大も防ぐ、中間の答え方を準備しておきたいものです。ただし、この話は不義の隠蔽の物語でもあり、手放しの称賛ではありません。

この章句が説くこと

達奚盈盈大索京師虢国夫人危機管理説得判断

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る