智囊 / 狡黠・丹客
近年崑山有一家,為丹客所欺,去千金,忿甚,乃懸重賞物色之。逾數日,或報丹客在東門外酒肆中聚飲,覘之信然,索賞而去。主人入肆,丹客歡然起迎,主人欲言,客遽止之,曰:「勿揚吾短,原物在,且飲三杯,當璧還耳。」主人喜,正劇飲間,丹客起小便,伺間逸去。問同席者,皆云:「偶此群飲,初不相識。」方知報信者亦其黨,來騙賞銀耳。
新字:近年崑山有一家,為丹客所欺,去千金,忿甚,乃懸重賞物色之。逾数日,或報丹客在東門外酒肆中聚飲,覘之信然,索賞而去。主人入肆,丹客歓然起迎,主人欲言,客遽止之,曰:「勿揚吾短,原物在,且飲三杯,当璧還耳。」主人喜,正劇飲間,丹客起小便,伺間逸去。問同席者,皆云:「偶此群飲,初不相識。」方知報信者亦其党,来騙賞銀耳。
書き下し
近年、崑山に一家有り、丹客の欺く所と為り、千金を去る。忿ること甚だしく、乃ち重賞を懸けて之を物色す。数日を逾えて、或いは丹客の東門外の酒肆中に聚飲せるを報ず。覘うに信に然り。賞を索めて去る。主人肆に入るに、丹客歓然として起ち迎う。主人言わんと欲するに、客遽かに之を止めて曰く、「吾が短を揚ぐる勿れ。原物は在り、且つ三杯を飲め。当に璧を還すべし」と。主人喜び、正に劇飲する間、丹客起ちて小便し、間を伺いて逸去す。同席の者に問うに、皆云う、「偶々此に群飲するのみ。初めより相い識らず」と。方に知る、報信の者も亦た其の党にして、来たりて賞銀を騙すのみなるを。
現代語訳
近年、崑山のある家が、錬丹術師にだまされ、千金を失った。ひどく怒って、高額の懸賞をかけて、その行方を探させた。数日して、ある者が、錬丹術師が東門の外の酒屋で集まって飲んでいると知らせた。確かめると、その通りだった。報告者は賞金を求めて去った。主人が酒屋に入ると、錬丹術師は喜んで立ち上がり、出迎えた。主人が何か言おうとすると、客は慌ててそれを止めて言った。「私の恥を言いふらさないでください。もとの物はあります。まず三杯飲んでください。かならず全部お返しします」。主人は喜び、ちょうど酒を飲み盛り上がっているとき、錬丹術師は立ち上がって小用に行き、隙をうかがって逃げ去った。同席していた者たちに尋ねると、みな言った。「たまたまここで一緒に飲んでいただけで、もともと知り合いではありません」。そこではじめて気がついた。知らせた者もその仲間で、賞金をだまし取りに来ただけだったのである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『智囊』狡黠・丹客嘉靖中、松江の一監生、博学にして口有り、酷だ丹術を信ず。丹士有り、先ず小試を以て信を取り、乃ち大いに其の金を出さしめて尽く之を竊む。生、慚憤すること甚だしく、広く游びて以て一遇を冀わんと欲す。忽ち一日、呉の閶門に値う。丹士、啓歯を俟たず、即ち邀えて肆中に飲み、慇懃に過ちを謝す。既にして謀りて曰く、「吾が儕は金を得れば、手に随いて費し去る。今、東山の一大姓、業に成約有り。吾が師の来たりて事を挙ぐるを俟つ。君、肯んじて権に吾が師と作りて、彼より償いを取らば、易易たるのみ」と。生、金を得るに急にして、之を許す。乃ち髪を剪りて頭陀と為し、事うるに師の礼を以てす。大姓、其の談鋒に接して深く相い欽服し、日に款接す。而して丹の事を以て其の徒輩に委ね、且つ師の在れば慮る無しと謂う。一旦、復た金を竊みて去る。其の師を執えて、官に訟えんと欲す。生、号泣して自ら明らかにし、僅かにして釈さるるを得たり。帰るに及び、親知は其の髪の種種たるを見て、皆訕笑す。〔述評〕金を以て色に易うるは、尚お未だ全く輸けず、但だ纏頭の過費のみ。若し頭髪を送却して「師父」の一声に博するは、尤も謂れ無し。
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『智囊』狡黠・丹客客に丹術を炫く者有り。輿従甚だ盛んなり。美妾を携えて日に西湖に飲む。羅列する所の器皿、望めば燦然として、皆黄白なり。一富翁見て之を艶み、前みて揖して問う、「公、何の術にて富むこと此の若きや」と。客曰く、「丹成れば、特に長物のみ」と。富翁遂に客並びに其の妾を延きて家に至り、二千金を出し、母の為に之を煉らしむ。客の鉛薬あり。煉ること十余日、密かに一長髯を約して突として至らしめ、紿きて曰く、「家、内艱に罹り、亟かに返らんことを求む」と。客大いに慟き、主人に謂いて曰く、「事は出づるに奈何ともし難し。煩わくは主君、余が婢と同に爐を守れ。余は不日にして来たるのみ」と。客は実は丹を竊みて去る。又婦に囑して私かに主と媾せしむ。而るに悟らず、遂に計に墮ち、綢繆すること数宵にして客至る。爐を啓き視て、大いに驚きて曰く、「敗れたり。之を触るる者有るに似たり」と。因りて主人の無行を詈り、妾を掠治せんと欲す。主人は諱むこと能わず、復た厚鏹を出して罪を謝す。客、怏怏たる状を作して去る。主君猶お遣るを得たるを以て幸と為し、而して銀器皆偽物にして、妾は則ち典妓にして騙局を為すを知らず。翁は貪淫に中たられ、此の客も亦た黠なるかな。
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『智囊』狡黠・竊磬賊・假跛書生・假斷腳偷郷の一老嫗、向に経を誦す。古銅の磬有り。一賊、石塊を以て包を作り、之を負いて媼の門外に至る。人問う、「何物ぞ」と。曰く、「銅磬なり。将に鬻がんとするのみ」と。門に入りて人無きを見て、石を地に棄て、磬を負いて門内に反向して曰く、「磬を買わんと欲するか」と。曰く、「家に自ずから有り」と。賊、磬を包み、復た負いて出づ。内外皆覚らず。閶門に匠有り、肆に金を鑿つ。忽ち一士人、巾服甚だ偉にして、跛曳して来たり、自ら語りて曰く、「暴令は小過を以て我を毒撻す。我必ず之に報いん」と。因りて袖より一大膏薬を出し、炉次に薫じ、将に以て瘡を治せんとする者の若し。其の熔化するを俟ち、急ぎ匠の面孔に糊す。匠、熱を畏れ、手を援きて之を取る。其の人、即ち金を持ちて奔り去る。又一家、門に米袋を集む。忽ち躄者有り、腹を垂るること甚だ大にして、其の足を盤旋して来たり、米袋の上に坐す。衆の共に観るも、何に由るかを知らず。米一袋を胯下に匿し、復た盤旋して去る。後に米を失い、始めて之を知る。蓋し其の腹は襯塞して成り、而して躄も亦た偽りなり。
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『智囊』狡黠・江南士子科は嘗て人の為に公事を居間す。其の人は約して公所に物を封ず、正に較量する次、一跛丐有り、右に杖を持ち、左に竹籃を携え、籃内に破衣有り、挨り入りて乞賞す。科は零星を掂りて之に与うるに、丐は少なきを嫌う、科は佯り怒り、元宝一錠を取りて籃中に擲ち、叱して曰く、「汝は此を欲するか」と。丐は悚懼して曰く、「財主は添えざれば則ち已む、何ぞ必ずしも怒らん」と、双手に宝を捧げて几上に置きて去る。後に事諧わず、其の人は封を啓くに、則ち元宝は乃ち偽物にして、向の丐者の為に易え去られたり、丐者は即ち科の党の仮る所なり。〔述〕蘇城は四方輻湊の地、騙局甚だ多し。曾て記す万暦季年、徽人の叔姪の墳を争う事有り、結訟すること数年、其の姪は先に人の郡の司理に通ずる有り、撫台に於いて一詞を准して之を発せんと欲す。忽ち某公子の閶門外に寓する有り、是れ撫公の年姪なりと云い、衣冠甚だ偉に、僕従も亦た都なり。徽姪は往きて拝し、因りて之を邀えて飲む。偶ま此の事を談及するに、公子は一力して承当す。遂に物を封じて質と為し、期に及びて、公子は公服し、訟詞を取りて袖中に納れ、径ちに撫台の門に入る、徽姪は外より之を伺うに、忽ち公事已に畢りて門閉ざされたり、意うに撫公は公子を留めて餐せしめんと。門役に詢うも、俱に知る莫し、乃ち晩衙に、公子は人叢の中より酒容にして出で、意気揚揚として、云う、「撫公の相待つこと頗る厚く、請う所已に諧えり」と。徽の寓に抵り、官封を袖中より出だすに、印識は宛然たり。
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『智囊』狡黠・南京道士至日の午後、客と道者と偕に来たり、尊を祭ること極めて誠、道者は復た髪を披き剣を仗りて法事を作すこと良や久しく、衆をして皆飽食せしめ、深夜を俟ちて、耰鋤並び挙げ、発くこと五尺の深さに至るも、並びに見る所無し。天已に大いに明るく、忽ち門外に呵殿の声を聞く、則ち督府の某、通家の紅帖を以て来たり拝するなり、賈人は方に驚き訝るに、某は花繡を衣て堂に登り、固く相見えんことを請う、賈人強いて出で、拝して地に伏す、某は掖げて之を起こし、因りて曰く、「聞く秦皇の埋めし金、足下の発く所と為り、其の富は国に敵すと、某は特に奉賀す、方今辺餉匱を告ぐ、誠に数万を以て国家の急を佐けよ、万戸侯も道うに足らざるなり、某は当に足下の為に奏聞すべし」と。賈人は觳觫して無しと謝するも、某は直ちに内室に入り、戸外の杯盤狼藉、地下の開墾縦横なるを見る、而して客と道士は俯伏して前み謁し、「金を埋めたるは実に之有り、但だ甚だ多からず」と言う。賈人は白くすること能わず、禍を懼れ、已むを得ずして、三千金を餽りて免れんことを求め、並びに定貨の銀を還す、是に由りて氈の業遂に廃る。
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『智囊』狡黠・京邸假宦官嘉靖の間、一士人京邸に候選す。官有りと雖も、久客にして橐空し。千金を貸さんと欲し、故の遊客と談ず。数日にして命を報じて曰く、「某中貴、爾に五百を允す」と。士人猶お少なきを恨む。客曰く、「凡そ貸す者は例として厚贄を以て先にす。内相は性、諛を喜ぶ。苟くも其の歓を得れば、益を請うこと難きに非ず」と。士人拮据して、器幣を湊貨し、約そ百金に値す。期して入謁し、門に及ぶ。堂軒は巨麗にして、蒼頭・廬児は皆綺縞を曳く。両壁の米袋は棟に充ち、皆「御用」の字有り。久しくして主人出づ。壮横にして肥え、両童子の頭を以て背に抵えて行く。礼を享けて微笑し、八百を貸すを許す。廬児曰く、「已に晩し、須らく明日たるべし」と。主人これを可とす。士人既に出で、喜び自ら勝えず。客復た耳に属して曰く、「当に早く至るべし。我は此に俟たん」と。明に及んで往くに、寥然たる空宅にして、堂下に煤土の両堆、皆袋の傾く所なり。主宅の者に問うに、曰く、「昨、内相の宅を賃ること半日。知らず是れ誰何ぞ」と。客も亦た跡を滅す。方に其の詐を悟る。
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