智囊 / 狡黠・狡訟師
浙中有子毆七十歲父而墮其齒者,父取齒訟諸官。子懼甚,迎一名訟師問計,許以百金。師搖首曰:「大難事。」子益金固請,許留三日思之。至次日,忽謂曰:「得之矣。辟人,當耳語若。」子傾耳相就,師遽齧之,斷其半輪,血污衣。子大驚,師曰:「勿呼,是乃所以脫子也。然子須善藏,俟臨鞫乃出。」既庭質,遂以父齧耳墮齒為辯,官謂耳不可以自齧,老人齒不固,齧而墮,良是,竟免。〔評〕毆父而以計免,訟師之顛倒王章,可畏哉!然其策亦大奇矣。
新字:浙中有子殴七十歳父而堕其歯者,父取歯訟諸官。子懼甚,迎一名訟師問計,許以百金。師揺首曰:「大難事。」子益金固請,許留三日思之。至次日,忽謂曰:「得之矣。辟人,当耳語若。」子傾耳相就,師遽齧之,断其半輪,血汚衣。子大驚,師曰:「勿呼,是乃所以脱子也。然子須善蔵,俟臨鞫乃出。」既庭質,遂以父齧耳堕歯為弁,官謂耳不可以自齧,老人歯不固,齧而堕,良是,竟免。〔評〕殴父而以計免,訟師之顛倒王章,可畏哉!然其策亦大奇矣。
書き下し
浙中に子の七十歳の父を殴ちて其の歯を墮とす者有り。父、歯を取りて諸を官に訟う。子甚だ懼れ、一名訟師を迎えて計を問い、許すに百金を以てす。師、首を搖りて曰く、「大いに難事なり」と。子、金を益して固く請う。三日を留めて之を思うを許す。次日に至り、忽ち謂いて曰く、「得たり。人を辟けよ、当に若に耳語すべし」と。子、耳を傾けて相い就く。師遽かに之を齧み、其の半輪を断つ。血、衣を汚す。子大いに驚く。師曰く、「呼ぶ勿れ。是れ乃ち子を脱する所以なり。然れども子は須らく善く藏し、臨鞫を俟ちて乃ち出すべし」と。既に庭質するに、遂に父の耳を齧みて歯を墮とせるを以て弁と為す。官、耳は以て自ら齧むべからず、老人の歯は固からず、齧みて墮つるは良に是なりと謂い、竟に免る。〔評〕父を殴ちて計を以て免る。訟師の王章を顛倒す、畏るべきかな。然れども其の策、亦た大いに奇なり。
現代語訳
浙江に、七十歳の父を殴って歯を折ってしまった息子がいた。父は折れた歯を持って役所に訴え出た。息子は非常に恐れ、名の知れた訴訟の代書人を招いて策を問い、百金を約束した。代書人は首を振って言った。「たいへんな難事だ」。息子は金を増してしつこく頼んだ。代書人は三日の猶予をもらって考えることにした。翌日になって、突然言った。「分かった。人払いをしなさい。あなたに耳打ちしよう」。息子が耳を傾けて近づくと、代書人はいきなりその耳に噛みつき、耳たぶの半分を食いちぎった。血が衣を汚した。息子は大いに驚いた。代書人は言った。「叫ぶな。これこそあなたを救う手立てだ。ただし、これをよく隠しておき、審問の場に臨んでから出しなさい」。法廷での対質になると、息子は、父が自分の耳を噛んだので歯が折れたのだと弁明した。役人は、耳は自分で噛むことはできない、老人の歯は丈夫でないから、耳を噛んで折れたのはもっともだと考え、ついに息子は罪を免れた。〔評〕父を殴りながら策略で罪を免れた。訴訟の代書人が国の法を顛倒させたのは、恐ろしいことである。とはいえ、その策はまことに奇抜である。
解説
この章句が説くこと
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『智囊』狡黠・江南士子科は嘗て人の為に公事を居間す。其の人は約して公所に物を封ず、正に較量する次、一跛丐有り、右に杖を持ち、左に竹籃を携え、籃内に破衣有り、挨り入りて乞賞す。科は零星を掂りて之に与うるに、丐は少なきを嫌う、科は佯り怒り、元宝一錠を取りて籃中に擲ち、叱して曰く、「汝は此を欲するか」と。丐は悚懼して曰く、「財主は添えざれば則ち已む、何ぞ必ずしも怒らん」と、双手に宝を捧げて几上に置きて去る。後に事諧わず、其の人は封を啓くに、則ち元宝は乃ち偽物にして、向の丐者の為に易え去られたり、丐者は即ち科の党の仮る所なり。〔述〕蘇城は四方輻湊の地、騙局甚だ多し。曾て記す万暦季年、徽人の叔姪の墳を争う事有り、結訟すること数年、其の姪は先に人の郡の司理に通ずる有り、撫台に於いて一詞を准して之を発せんと欲す。忽ち某公子の閶門外に寓する有り、是れ撫公の年姪なりと云い、衣冠甚だ偉に、僕従も亦た都なり。徽姪は往きて拝し、因りて之を邀えて飲む。偶ま此の事を談及するに、公子は一力して承当す。遂に物を封じて質と為し、期に及びて、公子は公服し、訟詞を取りて袖中に納れ、径ちに撫台の門に入る、徽姪は外より之を伺うに、忽ち公事已に畢りて門閉ざされたり、意うに撫公は公子を留めて餐せしめんと。門役に詢うも、俱に知る莫し、乃ち晩衙に、公子は人叢の中より酒容にして出で、意気揚揚として、云う、「撫公の相待つこと頗る厚く、請う所已に諧えり」と。徽の寓に抵り、官封を袖中より出だすに、印識は宛然たり。
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『智囊』狡黠・江南士子江南に文科なる者有り、衣冠の族にして、性は奸巧、好んで術を以て人を困しめ其の資を取る。房一所有り、徽人に貨る。業に已に改造すること久し、科は原直を執りて贖わんとするも、可かず、乃ち計を奴に售し、其の夫婦をして往きて徽人に投じ僕と為らしむ、徽人は疑わず。両月余、此の僕夫婦は潜かに竄れて家に還り、科は即ち他の奴数輩をして徽人に謂わしむ、「吾が家に逃奴某有り、聞く汝が家に靠ると、今安くにか在る」と。徽人曰く、「某の来たり投ずるは、実に之有り、初め貴僕なるを知らず、昨已に逸去せり」と。奴輩曰く、「吾が家は昨始めて宅に在るを緝知す、豈に逸去の事有らんや、必ず汝が家の之を匿すならん、吾当に之を捜すべし」と。徽人は自ら欺かざるを信じ、乃ち家眷を一室に屏け、而して諸奴を縦して入り視しむ、諸奴は捜して酒房に至り、土の鬆き処有るを見、佯り疑い、鋤を取りて之を発き、死人の腿一隻を得、乃ち哄して曰く、「汝は吾が家の人を謀害せり、然らずんば、此の腿は何より来たる、当に此を執りて官に訟うべきのみ」と。徽人は懼れ、乃ち人を倩いて居間せしむ、科曰く、「吾が屋契を還せ、当に其の事を寝むべきのみ」と。徽人は已むを得ず、之と期して遷り去る。向の酒房の人の腿は、則ち前に投靠せし奴の埋むる所なり。
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