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智囊 / 制勝・王守仁

〔按〕陳眉公《見聞錄》,謂宸濠之敗,雖結於江西,而實潰於安慶。雖收功於王陽明,而實得力於李梧山。李諱充嗣,四川內江人,正德十四年巡撫南畿,聞宸濠請增護衛,歎曰:「虎而翼,禍將作矣。」遂力陳反狀,廷議難之。公乃旦夕設方略,飭武備,以御賊為念。謂安慶畿輔,適當賊衝,非得人莫守。當諸將庭參,於眾中獨揖指揮使楊銳而進之曰:「皖城保障,委之於子。毋負我!」十五年,賊兵陷九江,公自將萬人,屯彩石,以塞上游之路。飛檄皖城,諭以忠義。銳感激思奮,相機應敵,發無不捷。節發間諜火牌云:「為緊急軍情事,該欽差太監總兵等官,統領邊官軍十萬餘,一半將到南京,一半徑趨安慶。並調兩廣狼兵,湖廣土兵,即日水陸並進,俱赴安慶會集,刻期進攻江西叛賊。今將火牌飛報前路官司,一體同心防守,預備糧草,聽候應用等因。」

新字:〔按〕陳眉公《見聞録》,謂宸濠之敗,雖結於江西,而実潰於安慶。雖収功於王陽明,而実得力於李梧山。李諱充嗣,四川内江人,正徳十四年巡撫南畿,聞宸濠請增護衛,嘆曰:「虎而翼,禍将作矣。」遂力陳反状,廷議難之。公乃旦夕設方略,飭武備,以御賊為念。謂安慶畿輔,適当賊衝,非得人莫守。当諸将庭参,於衆中独揖指揮使楊鋭而進之曰:「皖城保障,委之於子。毋負我!」十五年,賊兵陥九江,公自将万人,屯彩石,以塞上游之路。飛檄皖城,諭以忠義。鋭感激思奮,相機応敵,発無不捷。節発間諜火牌云:「為緊急軍情事,該欽差太監総兵等官,統領辺官軍十万余,一半将到南京,一半径趨安慶。並調両広狼兵,湖広土兵,即日水陸並進,倶赴安慶会集,刻期進攻江西叛賊。今将火牌飛報前路官司,一体同心防守,預備糧草,聴候応用等因。」

書き下し

〔按〕陳眉公の『見聞錄』に、宸濠の敗るるは、江西に結ぶと雖も、實は安慶に潰ゆと謂う。功を王陽明に收むと雖も、實は力を李梧山に得たり。李は諱は充嗣、四川の內江の人。正德十四年、南畿に巡撫す。宸濠の護衛を增さんことを請うを聞き、歎じて曰く、「虎にして翼あれば、禍將に作らんとす」と。遂に力めて反狀を陳ぶるも、廷議、之を難しとす。公、乃ち旦夕に方略を設け、武備を飭え、賊を禦ぐを以て念と為す。謂えらく、安慶は畿輔にして、適々賊の衝に當たる、人を得るに非ざれば守る莫しと。諸將の庭參するに當たり、眾の中に獨り指揮使楊銳を揖して之を進めて曰く、「皖城の保障は、之を子に委ぬ。我に負く毋かれ」と。十五年、賊兵、九江を陷れ、公、自ら萬人を將い、彩石に屯し、以て上游の路を塞ぐ。皖城に飛檄し、諭すに忠義を以てす。銳、感激して奮うを思い、機に相いて敵に應じ、發して捷たざる無し。節に間諜の火牌を發して云う、「緊急の軍情の事の為にす。該の欽差太監總兵等官、邊の官軍十萬餘を統領し、一半は將に南京に到らんとし、一半は徑ちに安慶に趨く。並びに兩廣の狼兵、湖廣の土兵を調し、即日に水陸並び進み、俱に安慶に赴き會集し、期を刻して江西の叛賊を進攻せん。今、火牌を將て前路の官司に飛報し、一體に心を同じくして防守し、糧草を預備し、應用を聽候せしむ。等の因」と。

現代語訳

〔按〕陳眉公の『見聞録』には、宸濠の敗北は、江西で決着がついたようでも、実は安慶で崩れたのだと言っています。功績は王陽明が収めたようでも、実は李梧山の力に負うところが大きかったのです。李梧山の名は充嗣、四川内江の人です。正徳十四年、南畿を巡撫しました。宸濠が護衛の増員を願い出たと聞いて、嘆いて言いました。「虎に翼が生えれば、災いが起こるだろう」。そして力を尽くして反逆の状況を上奏しましたが、朝廷の議論ではこれを取り上げにくいとされました。李梧山は朝夕に策略を立て、軍備を整え、賊を防ぐことを心がけました。安慶は都に近く、ちょうど賊の通り道に当たるので、適任者でなければ守れないと考えました。諸将が庭に参上したとき、群衆の中でただ一人、指揮使の楊鋭に会釈して進み出させて言いました。「安慶城の守りは、おまえに託す。私に背くなよ」。十五年、賊軍が九江を陥れると、李梧山は自ら一万人を率いて彩石に駐屯し、上流の道を塞ぎました。安慶城に急ぎの檄を飛ばし、忠義を説き諭しました。楊鋭は感激して奮い立ち、機会を見て敵に対応し、出撃するたびに勝ちました。李梧山はまた、偽の間諜用の火牌を発行して言いました。「緊急の軍事の件。欽差太監総兵らの官は、辺境の官軍十万余を統率し、半分はまもなく南京に到着し、半分はまっすぐ安慶に向かう。さらに両広の狼兵、湖広の土兵を動員し、即日水陸並び進んで、みな安慶に集まり、期日を定めて江西の叛賊を攻める。今、この火牌を前方の役所に急報し、一体となって守り、糧食と飼葉を用意して、使用に備えさせる、云々」。

解説

表に出る功績者の背後に、より早く危機を見抜き、準備を重ねた人物がいたという視点を示す一段です。李梧山は、宸濠の護衛増員の要請から反乱を予見し、朝廷の議論が動かなくても、朝夕に策を練り、安慶の守りに適任の楊鋭を選び、衆人の前で託しました。一人を信じて任せる、託された者が奮い立つという人の使い方が、結果を生んでいます。さらに、偽の火牌で敵の士気をくじく工夫も重ねています。現代でも、組織の成功は目立つ立役者だけでなく、予兆を察して準備し、適任者に任せた人の働きにも支えられていると見直すことができます。

この章句が説くこと

虎にして翼あり皖城の保障火牌安慶予兆人材登用

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