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智囊 / 不戰・岳忠武

楊么為寇。岳飛所部皆西北人,不習水戰。飛曰:「兵何常,顧用之何如耳!」先遣使招諭之,賊黨黃佐曰:「岳節使號令如山,若與之敵,萬無生理,不如往降,必善遇我。」遂降。飛單騎按其部,拊佐背曰:「子知逆順者,果能立功,封侯豈足道,欲復遣子至湖中,視其可乘者擒之,可勸者招之,如何?」佐感泣,誓以死報。時張濬以都督軍事至潭,參政席益與濬語,疑飛玩寇,濬曰:「岳侯忠孝人也。兵有深機,何可易言?」益慚而止。黃佐襲周倫砦,殺倫,擒其統制陳貴等。會召濬還防秋。飛袖小圖示濬,濬欲待來年議之。飛曰:「王四廂以王師攻水寇,則難;飛以水寇攻水寇,則易。水戰,我短彼長,以所短攻所長,所以難;若因敵將用敵兵,奪其手足之助,離其腹心之托,使孤立,而後以王師乘之,八日之內,當俘諸酋。」濬許之。飛遂如鼎州。黃佐招楊欽來降,飛喜曰:「楊欽驍悍,既降,賊腹心潰矣!」

新字:楊么為寇。岳飛所部皆西北人,不習水戦。飛曰:「兵何常,顧用之何如耳!」先遣使招諭之,賊党黄佐曰:「岳節使号令如山,若与之敵,万無生理,不如往降,必善遇我。」遂降。飛単騎按其部,拊佐背曰:「子知逆順者,果能立功,封侯豈足道,欲復遣子至湖中,視其可乗者擒之,可勧者招之,如何?」佐感泣,誓以死報。時張濬以都督軍事至潭,参政席益与濬語,疑飛玩寇,濬曰:「岳侯忠孝人也。兵有深機,何可易言?」益慚而止。黄佐襲周倫砦,殺倫,擒其統制陳貴等。会召濬還防秋。飛袖小図示濬,濬欲待来年議之。飛曰:「王四廂以王師攻水寇,則難;飛以水寇攻水寇,則易。水戦,我短彼長,以所短攻所長,所以難;若因敵将用敵兵,奪其手足之助,離其腹心之托,使孤立,而後以王師乗之,八日之内,当俘諸酋。」濬許之。飛遂如鼎州。黄佐招楊欽来降,飛喜曰:「楊欽驍悍,既降,賊腹心潰矣!」

書き下し

楊么、寇を為す。岳飛の部する所は皆西北の人にして、水戦を習わず。飛曰く、「兵に何ぞ常あらん、ただこれを用うること何如なるかを顧みるのみ。」と。先ず使いを遣わしてこれを招諭す。賊党の黄佐曰く、「岳節使の号令は山の如し。もしこれと敵せば、万に生理なし。往きて降るに如かず、必ず善く我を遇せん。」と。遂に降る。飛は単騎にてその部を按じ、佐の背を拊ちて曰く、「子は逆順を知る者なり。果たして功を立つれば、封侯も豈に道うに足らんや。また子を遣わして湖中に至らしめ、その乗ずべき者を視て擒え、勧むべき者は招かんと欲す。如何。」と。佐は感泣し、死を以て報いんことを誓う。時に張浚、都督軍事を以て潭に至る。参政席益、浚と語り、飛の寇を玩ぶを疑う。浚曰く、「岳侯は忠孝の人なり。兵に深機あり、何ぞ易く言うべけんや。」と。益は慚じて止む。黄佐は周倫の砦を襲い、倫を殺し、その統制陳貴らを擒う。たまたま浚を召して秋の防ぎに還らしむ。飛は袖より小図を出して浚に示す。浚は来年を待ちてこれを議せんと欲す。飛曰く、「王四廂は王師を以て水寇を攻むれば則ち難く、飛は水寇を以て水寇を攻むれば則ち易し。水戦は我が短、彼の長なり。短を以て長を攻むるは、難き所以なり。もし敵将に因り敵兵を用い、その手足の助けを奪い、その腹心の托を離し、孤立せしめて、而る後に王師を以て乗ぜば、八日の内に当に諸酋を俘とすべし。」と。浚はこれを許す。飛は遂に鼎州に如く。黄佐は楊欽を招いて来降せしむ。飛は喜びて曰く、「楊欽は驍悍なり、既に降れば、賊の腹心潰えたり。」と。

現代語訳

楊么が賊となって暴れた。岳飛の部下はみな西北の人間で、水上の戦いには不慣れだった。岳飛は言った。「兵の使い方に決まった形などない。ただどう用いるかを考えるだけだ。」まず使者を遣わして招き諭した。賊の仲間の黄佐は言った。「岳節度使の号令は山のように重い。もし敵対すれば、万に一つも生きる道はない。降って、きっとよく扱ってもらうほうがよい。」そうして降った。岳飛は単騎で黄佐の陣営を訪れ、その背を叩いて言った。「君は順逆をわきまえた者だ。もし手柄を立てれば、侯に封じられることなど言うまでもない。そこで君を湖の中へ遣わし、乗じられる所を見て敵を捕らえ、説得できる者は招き降したいが、どうか。」黄佐は感泣して、死んで報いることを誓った。そのころ張浚が都督軍事として潭州に来た。参政の席益は張浚と話し、岳飛が賊を軽く見ているのではと疑った。張浚は言った。「岳侯は忠孝の人だ。軍事には深い仕掛けがあるもので、軽々しく論じてはならない。」席益は恥じて口をつぐんだ。黄佐は周倫の砦を襲って周倫を殺し、その統制の陳貴らを捕らえた。たまたま張浚が秋の防備のために呼び戻されることになった。岳飛は袖から小さな図を取り出して張浚に見せたが、張浚は来年に議論しようとした。岳飛は言った。「王四廂は官軍で水賊を攻めたから難しかったが、私は水賊で水賊を攻めるので易しい。水戦は我が軍が不得手で、敵が得意とするところだ。不得手で得意に当たるから難しいのだ。しかし敵の将に頼り敵の兵を用い、その手足の助けを奪い、腹心の拠り所を離して孤立させ、その後に官軍で乗じれば、八日のうちに首領たちを捕らえられる。」張浚はこれを許した。岳飛は鼎州に赴いた。黄佐が楊欽を招いて降らせたので、岳飛は喜んで言った。「楊欽は勇猛で荒々しい男だ。降ったからには、賊の腹心は崩れた。」

解説

岳飛は、自軍が水戦に不慣れという弱みを、敵の人材を味方に変えることで補いました。短所を長所にぶつければ難しいが、敵の手足をもぎ、孤立させてから本隊で当たれば易しいという考え方です。降った黄佐に信頼を示して敵情を探らせ、さらに別の将を招かせる連鎖も見事です。現代の経営者が、自社に無い専門性を外部や競合の人材に頼る場面でも通じます。ただし、信頼して任せるには、日頃の信と威が前提になります。上司の張浚が疑う周囲を抑えた点も、組織の後ろ盾の重要さを示しています。

この章句が説くこと

以水寇攻水寇兵何常奪其手足離其腹心人材登用判断

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