智囊 / 不戰・高仁厚
邛州牙將阡能叛,侵擾蜀境,都招討高仁厚帥兵討之。未發前一日,有鬻面者到營中,邏者疑,執而訊之,果阡能之諜也。仁厚命釋縛,問之,對曰:「某村民,阡能囚其父母妻子於獄,云汝詗事歸,得實則免汝家,不然盡死,某非願爾也。」仁厚曰:「誠知汝如是,我何忍殺汝?今縱汝歸,救汝父母妻子,但語阡能云:『高尚書來日發,所將止五百人,無多兵也。』然我活汝一家,汝當為我潛語寨中人,云:『僕射愍汝曹皆良人,為賊所制,情非得已。尚書欲拯救湔洗汝曹,尚書來,汝曹各投兵迎降,尚書當以『歸順』二字書汝背,遣汝還復舊業。所欲誅者,阡能、羅渾擎、勾胡僧、羅夫子、韓求五人耳,必不使橫及百姓也。』」諜曰:「此皆百姓心上事,尚書盡知而赦之,其誰不舞躍聽命!」遂遣之。
新字:邛州牙将阡能叛,侵擾蜀境,都招討高仁厚帥兵討之。未発前一日,有鬻面者到営中,邏者疑,執而訊之,果阡能之諜也。仁厚命釈縛,問之,対曰:「某村民,阡能囚其父母妻子於獄,云汝詗事帰,得実則免汝家,不然尽死,某非願爾也。」仁厚曰:「誠知汝如是,我何忍殺汝?今縦汝帰,救汝父母妻子,但語阡能云:『高尚書来日発,所将止五百人,無多兵也。』然我活汝一家,汝当為我潜語寨中人,云:『僕射愍汝曹皆良人,為賊所制,情非得已。尚書欲拯救湔洗汝曹,尚書来,汝曹各投兵迎降,尚書当以『帰順』二字書汝背,遣汝還復旧業。所欲誅者,阡能、羅渾擎、勾胡僧、羅夫子、韓求五人耳,必不使横及百姓也。』」諜曰:「此皆百姓心上事,尚書尽知而赦之,其誰不舞躍聴命!」遂遣之。
書き下し
邛州の牙将阡能叛き、蜀境を侵擾す。都招討高仁厚兵を帥いて之を討つ。未だ発せざる前の一日、麺を鬻ぐ者有り営中に到る。邏者疑いて、執えて之を訊うに、果たして阡能の諜なり。仁厚縛を釈くを命じ、之に問う。対えて曰く、「某は村民なり。阡能、某の父母妻子を獄に囚え、云う『汝詗事して帰り、実を得れば則ち汝の家を免ず、然らずんば尽く死せん』と。某は爾るを願うに非ざるなり」と。仁厚曰く、「誠に汝の是の如きを知る。我何ぞ忍びて汝を殺さん。今汝を縦して帰らす、汝の父母妻子を救え。但だ阡能に語げよ、『高尚書は来日発す。将うる所は止だ五百人、多兵無し』と。然れども我は汝の一家を活かす、汝当に我の為に潜かに寨中の人に語げよ、『僕射は汝が曹の皆な良人にして、賊に制せられ、情は已むを得ざるに非ざるを愍む。尚書は汝が曹を拯い湔洗せんと欲す。尚書来たらば、汝が曹は各おの兵を投じて迎え降れ。尚書当に「帰順」の二字を以て汝が背に書し、遣して旧業に復せしめん。誅せんと欲する所は、阡能・羅渾擎・勾胡僧・羅夫子・韓求の五人のみ。必ず横に百姓に及ぼさず』と」と。諜曰く、「此れ皆な百姓の心上の事なり。尚書尽く知りて之を赦す、其れ誰か舞躍して命を聴かざらん」と。遂に之を遣わす。
現代語訳
邛州の牙将の阡能が反乱を起こし、蜀の境を侵し乱した。都招討の高仁厚が兵を率いてこれを討った。出発する前日、麺を売る者が陣営に来た。巡邏の兵が怪しんで捕らえて問いただすと、やはり阡能の間者であった。仁厚は縄を解くよう命じ、彼に尋ねた。間者は答えた。「私は村の民です。阡能が私の父母と妻子を牢に囚え、『お前が探りに行って帰り、実情を得れば、お前の家族を許す。そうでなければ皆殺しにする』と言いました。私は望んでこのようなことをしたのではありません」。仁厚は言った。「お前がそうであることはよく分かった。私にどうしてお前を殺せよう。今、お前を放って帰す。お前の父母と妻子を救え。ただ阡能にはこう告げよ。『高尚書は明日出発する。率いる兵はわずか五百人で、多くはない』と。だが私はお前の一家を生かしてやる。お前は私のためにひそかに砦の中の者たちに伝えよ。『僕射は、おまえたちがみな善良な人であり、賊に制せられて、やむを得ない事情があるのを憐れんでおられる。尚書はおまえたちを救い、汚れを洗い流そうとしている。尚書が来たら、おまえたちはそれぞれ兵器を捨てて迎え降れ。尚書は「帰順」の二字をおまえたちの背に書き、元の生業に帰らせてくださる。誅しようとするのは、阡能・羅渾擎・勾胡僧・羅夫子・韓求の五人だけである。決して百姓に及ぼさない』と」。間者は言った。「これはみな百姓の心にかかっていることです。尚書がすべて知って赦してくださるなら、誰が躍り上がって命に従わないでしょう」。そして彼を送り出した。
解説
この章句が説くこと
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『智囊』不戰・高仁厚明日、仁厚は雙流、穿口の降者を候して先ず帰らしめ、新津の降者をして旗を執りて前駆せしめ、且つ曰く、「邛州の境に入れば、また散じ帰るべし。」と。羅夫子は九寨を延貢に置く。その衆は前夕、新津の火光を望み、已に降るを待ちて眠らず。新津の人至るに及び、羅夫子は身を脱し寨を棄てて阡能に奔る。明日、羅夫子、阡能は謀りて衆を悉くし決戦せんとするも、計未だ定まらず、日向に暮れんとす。延貢の降者至る。阡能は馬を走らせて塞を巡り、兵を出さんと欲するも、衆皆応ぜず。明旦、大軍将に近づかんとし、呼噪して争い出で、阡能、羅夫子を執え、泣きて馬首に拝す。出軍すること凡そ六日にして、五賊皆平らぐ。〔評〕ただ彼の諜一人を用うるのみにして、賊は已に争い降る。ただ降卒数隊を用うるのみにして、二十四寨は已に風を望んで迎え款す。必ず俘馘を以て功と為さんと欲する者は、何ぞや。
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『智囊』不戰・高仁厚明日、仁厚兵発し、雙流に至る。把截使白文出でて迎う。仁厚周く塹柵を視て、怒りて曰く、「阡能は役夫にして、その衆は皆耕民のみ。一府の兵を竭くして、歳余擒うること能わず。今塹柵を観るに、重複牢密なることかくの如し。宜なり、安眠飽食して寇を養い功を邀むるに。」と。命じて引き出だして斬らしむ。監軍力めて救い、乃ち免る。命じて悉く塹柵を平らげ、五百兵を留めてこれを守らせ、余兵は悉く自ら随えしむ。また諸寨の兵を召せば、相継いで皆集まる。阡能、仁厚の将に至らんとするを聞き、渾擎を遣わして五寨を雙流の西に立て、兵千人を野橋箐に伏せ、以て官軍を邀えんとす。仁厚詗い知り、人を遣わして戎服を釈き、賊中に入り、昨日諜に語りし所以のごとく告諭せしむ。賊大いに喜び呼噪し、争いて甲を棄てて降る。仁厚因りて撫諭し、その背に書き、帰りて寨中の未だ降らざる者に語らしむ。寨中の余衆争い出で、渾擎は狼狽して塹を逾えて走る。その衆執えて以て仁厚に詣る。仁厚械して府に送り、悉く命じて五寨及びその甲兵を焚き、ただ旗幟のみを留む。
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『智囊』不戰・高仁厚明旦、仁厚降者に謂いて曰く、「始め即ち汝を遣わして帰さんと欲せしが、前途の諸寨の百姓は未だ吾が心を知らず。汝曹を借りて我が為に前行せしめ、穿口、新津の寨下を過ぎて背の字を示して告諭せよ。延貢に至る比には、帰るべし。」と。乃ち渾擎の旗を取りて倒に繋け、五十ごとに隊と為し、授くるに一旗を以てし、前に旗を揚げて疾呼せしめて曰く、「羅渾擎は已に生擒せられ、使府に送らる。大軍且に至らんとす。汝が寨中、速やかに我が如く出でて降れ。立ちどころに良人と為るを得て、事無からん。」と。穿口に至るに、勾胡僧十一寨を置く。寨中の人争い出でて降る。胡僧大いに驚き、剣を抜きてこれを遏む。衆瓦石を投げてこれを撃ち、共に擒えて以て仁厚に献ず。その衆五千人皆降る。明旦また寨を焚き、降者をしてまた旗を執りて先駆せしむ。新津に到れば、韓求は十三寨を置く。皆迎えて降る。求は自ら深塹に投じて死す。将士寨を焚かんと欲す。仁厚止めて曰く、「降人は皆未だ食らわず。先に資糧を運び出し、然る後にこれを焚け。」と。新たに降る者は競いて炊爨し、先に降りて告げ来たれる者と共にこれを食らい、語笑歌吹して終夜絶えず。
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『智囊』不戰・高仁厚仁厚は諸の寨を棄てて走る者の当に誅殺せらるべきもの甚だ衆きを念い、乃ち密かに孔目官の張韶を召して、これに諭して曰く、「爾は速やかに歩探子将数十人を遣わし、道を分かちて走る者を追わしめ、自ら爾の意を以てこれに諭せ、『僕射は幸いに寨を出でず、皆知らず。汝曹は速やかに帰れ、来旦の牙参は常の如し、憂うるなかれ。』と。」と。韶は素より長者、衆これを信ず。四鼓に至り、皆寨に還る。ただ楊茂言のみ走りて張把に至り、乃ち追及さる。仁厚は諸寨の漏鼓の初めの如きを聞き、喜びて曰く、「悉く帰れり。」と。詰旦、諸将は牙に集まり、以て仁厚は誠に知らずと為す。坐すること良久しくして、茂言に謂いて曰く、「昨夜聞く、副使は身ら士卒に先んじて、走りて張把に至ると。諸れ有りや。」と。対えて曰く、「賊が中軍を攻むと聞き、左右は僕射は已に去ると言う。遂に馬に策ちて驂随す。既にして其の虚なるを審らかにし、乃ち復た還りしのみ。」と。曰く、「仁厚と副使は俱に命を天子に受け、兵を将いて賊を討つ。もし仁厚が先に走らば、副使は当に叱して馬より下し、軍法を行い、軍事を代総し、然る後に奏聞すべし。今、副使は既に先に走り、また欺罔を為す。理として当に何如すべき。」と。茂言は拱手して曰く、「当に死すべし。」と。仁厚曰く、「然り。」と。左右に命じて扶け下してこれを斬らしむ。諸将は股栗す。仁厚は乃ち昨夜獲る所の俘虜数十人を召し、縛を釈きて縦ち帰す。群雄はこれを聞きて懼れ、曰く、「彼の軍法は整うこと是くの如し、また犯すべけんや。」と。これより兵は復た出でず。後に君雄は師立を斬り、出でて降る。
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『智囊』不戰・高仁厚高仁厚は東川の楊師立を攻む。夜二鼓、賊党の鄭君雄ら勁兵を出して城北の副使の寨を掩撃す。楊茂言は御ぐこと能わず、衆を帥いて寨を棄てて走る。その旁の寨は副の走るを見て、また走る。賊は直ちに中軍に薄る。仁厚は令して寨門を大いに開かしめ、炬火を設けてこれを照らし、自ら士卒を帥いて両翼と為り、道の左右に伏す。賊は門の開くを見て、敢えて入らず、還り去る。仁厚は伏を発してこれを撃つ。賊は大いに敗る。
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『智囊』通簡・王德元王子醇枢密、熙河に帥たりし日、西戎入寇せんと欲し、先ず人をして我が虚実を覘わしむ。邏者は之を得、其の衣縁の中を索むるに、一書を獲たり。乃ち熙河の人馬芻糧の数を尽く記せり。官属は皆な支解して以て徇えんと欲す。子醇は忽ち判じて背を杖つこと二十、大いに「番賊決訖放帰」の六字を剌し、之を縦つ。是の時、適々戎兵馬騎甚だ衆く、芻糧も亦た富めり。虜人は諜書を得て、備え有るを知り、其の謀は遂に寝む。
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