智囊 / 辯才・富弼
弼曰:「晉以盧龍賂契丹,周世宗復取關南地,皆異代事,若各求地,豈北朝之利哉。」既退,劉六符曰:「吾主恥受金幣,堅欲十縣,何如?」弼曰:「本朝皇帝言:『為祖宗守國,豈敢妄以土地與人?北朝所欲,不過租賦耳,朕不忍多殺兩朝赤子,故屈地增幣以代之。」若必欲得地,是志在敗盟,假此為辭耳。」明日契丹主召弼同獵,引弼馬自近,謂曰:「得地則歡好可久。」弼曰:「北朝既以得地為榮,南朝必以失地為辱,兄弟之國,豈可使一榮一辱哉?」獵罷,六符曰:「吾主聞公榮辱之言,意甚感悟,今唯結姻可議耳。」弼曰:「婚姻易生嫌隙,本朝長公主出嫁,齎送不過十萬緡,豈若歲幣無窮之利哉。」弼還報,帝許增幣。契丹主曰:「南朝既增我幣,辭當曰『獻』。」弼曰:「南朝為兄,豈有兄獻於弟乎?」契丹主曰:「然則為『納』。」
新字:弼曰:「晋以盧竜賂契丹,周世宗復取関南地,皆異代事,若各求地,豈北朝之利哉。」既退,劉六符曰:「吾主恥受金幣,堅欲十県,何如?」弼曰:「本朝皇帝言:『為祖宗守国,豈敢妄以土地与人?北朝所欲,不過租賦耳,朕不忍多殺両朝赤子,故屈地增幣以代之。」若必欲得地,是志在敗盟,仮此為辞耳。」明日契丹主召弼同猟,引弼馬自近,謂曰:「得地則歓好可久。」弼曰:「北朝既以得地為栄,南朝必以失地為辱,兄弟之国,豈可使一栄一辱哉?」猟罷,六符曰:「吾主聞公栄辱之言,意甚感悟,今唯結姻可議耳。」弼曰:「婚姻易生嫌隙,本朝長公主出嫁,齎送不過十万緡,豈若歳幣無窮之利哉。」弼還報,帝許增幣。契丹主曰:「南朝既增我幣,辞当曰『献』。」弼曰:「南朝為兄,豈有兄献於弟乎?」契丹主曰:「然則為『納』。」
書き下し
弼曰く、「晋は盧龍を以て契丹に賂い、周の世宗は復た関南の地を取る。皆異代の事なり。若し各おの地を求めば、豈に北朝の利ならんや」。既に退く。劉六符曰く、「吾が主は金幣を受くるを恥じ、堅く十県を欲す。何如」。弼曰く、「本朝の皇帝言えり、『祖宗の為に国を守る。豈に敢えて妄りに土地を以て人に与えんや。北朝の欲する所は、租賦に過ぎざるのみ。朕、多く両朝の赤子を殺すに忍びず。故に地を屈して幣を増し以て之に代う』と。若し必ず地を得んと欲すれば、是れ志、盟を敗るに在り。此れに仮りて辞と為すのみ」。明日、契丹主、弼を召して同に猟す。弼の馬を引きて自ら近づけ、謂いて曰く、「地を得ば則ち歓好久しかる可し」。弼曰く、「北朝既に地を得るを以て栄と為さば、南朝は必ず地を失うを以て辱と為さん。兄弟の国、豈に一栄一辱をなさしむ可けんや」。猟罷り、六符曰く、「吾が主、公の栄辱の言を聞き、意甚だ感悟せり。今は唯だ結姻のみ議す可し」。弼曰く、「婚姻は嫌隙を生じ易し。本朝の長公主の出嫁するに、齎送は十万緡に過ぎず。豈に歳幣無窮の利に若かんや」。弼還りて報じ、帝、幣を増すことを許す。契丹主曰く、「南朝既に我に幣を増す。辞は当に『献』と曰うべし」。弼曰く、「南朝は兄なり。豈に兄の弟に献ずる有らんや」。契丹主曰く、「然らば則ち『納』と為さん」。
現代語訳
富弼は言いました。「晋は盧龍の地を契丹に贈り、周の世宗は関南の地を取り戻しました。いずれも別の時代のことです。もし互いに土地を求め合えば、北朝の利益になるでしょうか。」富弼が退出すると、劉六符が言いました。「わが主君は金や絹を受け取るのを恥とし、固く十県を望んでおられる。どうだろうか。」富弼は言いました。「本朝の皇帝はこう言われました。『祖先のために国を守っている。どうして軽々しく土地を人に与えられよう。北朝が欲しいのは、租税にすぎない。朕は両朝の人民を多く殺すのに忍びない。だから土地を譲らず、贈り物を増やしてそれに代えるのだ』と。もし必ず土地を得ようとするなら、それは約束を破る意志があり、これを口実にしているだけです。」翌日、契丹主は富弼を呼んで一緒に狩りをしました。契丹主は富弼の馬を引いて自分に近づけ、言いました。「土地を得れば、友好は長く続くだろう。」富弼は言いました。「北朝が土地を得ることを栄誉とするなら、南朝は土地を失うことを恥辱とするでしょう。兄弟の国で、どうして一方が栄え、一方が恥じることがあってよいでしょうか。」狩りが終わると、劉六符が言いました。「わが主君は、公の栄辱の言葉を聞いて、とても感じ入られた。いまは婚姻のことだけが議論できる。」富弼は言いました。「婚姻は嫌疑を生じやすい。本朝の長公主が嫁ぐときの持参金は、十万緡にすぎません。毎年の贈り物の無窮の利益にどうして及びましょうか。」富弼が帰って報告すると、皇帝は贈り物の増額を許しました。契丹主は言いました。「南朝がすでに我に贈り物を増やすなら、文書には『献』と書くべきだ。」富弼は言いました。「南朝は兄です。兄が弟に献上することがありましょうか。」契丹主は言いました。「それなら『納』としよう。」
解説
この章句が説くこと
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