智囊 / 辯才・觸龍
秦攻趙,趙王新立,太后用事,求救於齊。齊人曰:「必以長安君為質。」太后不可,齊師不出。大臣強諫,太后怒甚,曰:「有復言者,老婦必唾其面。」左師觸龍請見,曰:「賤息舒祺最少,不肖,而臣衰,竊愛之,願得補黑衣之缺,以衛王宮,願及臣未填溝壑而托之。」太后曰:「丈夫亦愛少子乎?」對曰:「甚於婦人。」太后笑曰:「婦人異甚。」對曰:「老臣竊以為媼之愛燕後,賢於長安君。」太后曰:「君過矣,不如長安君之甚。」左師曰:「父母愛其子,則為之計深遠。媼之送燕後也,持其踵而哭,念其遠也,亦哀之矣,已行,非不思也,祭祀則祝之曰:『必勿使反。』豈非為之計長久,願子孫相繼為王也哉?」太后曰:「然。」
新字:秦攻趙,趙王新立,太后用事,求救於斉。斉人曰:「必以長安君為質。」太后不可,斉師不出。大臣強諫,太后怒甚,曰:「有復言者,老婦必唾其面。」左師触竜請見,曰:「賤息舒祺最少,不肖,而臣衰,窃愛之,願得補黒衣之欠,以衛王宮,願及臣未填溝壑而托之。」太后曰:「丈夫亦愛少子乎?」対曰:「甚於婦人。」太后笑曰:「婦人異甚。」対曰:「老臣窃以為媼之愛燕後,賢於長安君。」太后曰:「君過矣,不如長安君之甚。」左師曰:「父母愛其子,則為之計深遠。媼之送燕後也,持其踵而哭,念其遠也,亦哀之矣,已行,非不思也,祭祀則祝之曰:『必勿使反。』豈非為之計長久,願子孫相継為王也哉?」太后曰:「然。」
書き下し
秦、趙を攻む。趙王新たに立ち、太后事を用う。救いを斉に求む。斉人曰く、「必ず長安君を以て質と為せ」。太后可とせず。斉の師出でず。大臣強いて諫む。太后甚だ怒りて曰く、「復た言う者有らば、老婦必ず其の面に唾せん」。左師触龍、見えんことを請いて曰く、「賤息舒祺、最も少く、不肖にして、臣は衰う。竊かに之を愛す。願わくは黒衣の缺を補い、以て王宮を衛ることを得ん。願わくは臣の未だ溝壑を填めざるに及びて之を托せん」。太后曰く、「丈夫も亦た少子を愛するか」。対えて曰く、「婦人よりも甚だし」。太后笑いて曰く、「婦人は異なること甚だし」。対えて曰く、「老臣竊かに以為えらく、媼の燕后を愛するは、長安君に賢れり」。太后曰く、「君過てり。長安君の甚だしきに如かず」。左師曰く、「父母の其の子を愛するや、則ち之が為に計ること深遠なり。媼の燕后を送るや、其の踵を持して哭し、其の遠きを念い、亦た之を哀しむ。已に行けば、思わざるに非ず。祭祀には則ち之を祝して曰く、『必ず反らしむる勿かれ』と。豈に之が為に計ること長久にして、子孫の相い継ぎて王たらんことを願うに非ずや」。太后曰く、「然り」。
現代語訳
秦が趙を攻めました。趙王は即位したばかりで、太后が政治を取っていました。趙は斉に救援を求めましたが、斉は「必ず長安君を人質に出せ」と言いました。太后は承知せず、斉の軍は動きませんでした。大臣たちが強く諫めると、太后は大いに怒って、「もう一度言う者があれば、この老婆は必ずその顔に唾を吐く」と言いました。左師の触龍が謁見を願い出て、言いました。「私の卑しい息子の舒祺は、いちばん年下で出来が悪く、私は老い衰えております。ひそかに愛しく思い、どうか黒衣の欠員を補って王宮の守りにつかせていただきたく、私が死んで溝を埋める前にお頼みしたいのです。」太后は「男の方も末の子をかわいがるのか」と言いました。「女の方よりも強うございます」と答えました。太后は笑って、「女の方がずっと強いのですよ」と言いました。触龍は言いました。「老臣がひそかに思いますに、太后が燕后を愛しておられるのは、長安君への愛より勝っています。」太后は「あなたは間違っている。長安君ほどではない」と言いました。左師は言いました。「親が子を愛するときは、その子のために深く遠く計らうものです。太后が燕后を嫁がせるとき、その踵を持って泣き、遠くへ行くのを思って悲しまれました。嫁がれてからは、思わないわけではないのに、祭祀では『決して帰らせないでください』と祈られました。これは長く先まで考え、子孫が代々王位を継ぐことを願われたからではありませんか。」太后は「その通りです」と言いました。
解説
この章句が説くこと
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