智囊 / 權奇・秦檜
京下忽闕現錢,市間頗皇皇。忽一日,秦相檜呼一鑷工櫛髮,以五千當二錢犒之,諭曰:「此錢數日有旨不使,可早用也。」鑷工遂與外人言之,不三日,京下現錢頓出。又都下貨壅,乏現鏹,府尹以聞,檜笑曰:「易耳。」即召文思院官,未至,促者絡繹,奔而來,諭之曰:「適得旨,欲變錢法,可鑄樣錢一緡進呈,廢現鏹不用。」約翌午畢事,院官唯唯而出,召工為之,富家聞之盡出宿鏹市金粟,物價大昂,錢溢於市。既而樣錢上省,寂無聞矣。〔評議〕賊檜亦盡有應變之才可喜。然小人無才,亦不能為小人。
新字:京下忽闕現銭,市間頗皇皇。忽一日,秦相檜呼一鑷工櫛髪,以五千当二銭犒之,諭曰:「此銭数日有旨不使,可早用也。」鑷工遂与外人言之,不三日,京下現銭頓出。又都下貨壅,乏現鏹,府尹以聞,檜笑曰:「易耳。」即召文思院官,未至,促者絡繹,奔而来,諭之曰:「適得旨,欲変銭法,可鋳様銭一緡進呈,廃現鏹不用。」約翌午畢事,院官唯唯而出,召工為之,富家聞之尽出宿鏹市金粟,物価大昂,銭溢於市。既而様銭上省,寂無聞矣。〔評議〕賊檜亦尽有応変之才可喜。然小人無才,亦不能為小人。
書き下し
京下、忽ち現銭を闕き、市間頗る皇皇たり。忽ち一日、秦相檜、一鑷工を呼びて髪を櫛らしめ、五千当二の銭を以て之を犒い、諭して曰く、「此の銭、数日にして旨有りて使わず。早く用うべし」と。鑷工、遂に外人と之を言い、三日ならずして京下の現銭、頓に出づ。又た都下の貨、壅がり、現鏹に乏し。府尹、以て聞す。檜、笑いて曰く、「易きのみ」と。即ち文思院の官を召す。未だ至らざるに、促す者絡繹として、奔りて来たる。之に諭して曰く、「適たま旨を得たり、銭法を変えんと欲す。樣銭一緡を鋳て進呈し、現鏹を廃して用いざらしめよ」と。約するに翌午に事畢るを以てす。院官唯唯として出で、工を召して之を為す。富家、之を聞き、尽く宿鏹を出して金粟を市う。物価大いに昂まり、銭は市に溢る。既にして樣銭、省に上るも、寂として聞くこと無し。〔評議〕賊檜も亦た尽く応変の才有り、喜ぶべし。然れども小人も才無くんば、亦た小人たる能わず。
現代語訳
都で急に現金が不足し、市場はたいへん動揺した。ある日、宰相の秦檜は理髪師を呼んで髪を梳かせ、五千当二の銭を褒美として与え、「この銭は数日のうちに使えなくなる旨の命が出る。早く使いなさい」と言い含めた。理髪師は外の人にこれを言いふらし、三日もしないうちに、都の現金が一気に出回った。また、都の物資が滞り、現金が乏しくなった。府尹がこれを報告した。秦檜は笑って、「たやすいことだ」と言った。すぐ文思院の官吏を呼んだ。まだ到着しないうちに、催促の使いが続々と走ってきた。官吏に言い含めた、「ちょうど命令を受けた。銭法を改めたい。見本の銭を一緡鋳造して進呈し、今の現銭は廃止して使わせないようにする」と。翌日の昼までに仕上げることを約束させた。院の官吏は畏まって退出し、職人を呼んで鋳造させた。富裕な家はこれを聞いて、蓄えた現金をすべて出して金や穀物を買った。物価は大いに上がり、銭は市に溢れた。やがて見本の銭が省に上げられたが、その後は何の音沙汰もなかった。〔評議〕悪人の秦檜にも、変事に応じる才がすべて備わっており、感心すべきである。しかし小人も才能がなければ、小人にさえなれないのである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『智囊』見大・秦檜秦檜、国に当たるに、士人の其の書を仮りて、揚州の守に謁する有り。守は其の偽なるを覚り、原書を交して管押して之を回さしむ。檜は之を見、即ち仮すに官資を以てす。或ひと其の故を問う。曰く、敢えて檜の書を仮る膽有り、此れ必ず非常の人なり。若し一官を以て之を束ねずんば、則ち北のかた胡に走り、南のかた越に走らん、と。〔馮述評〕西夏に兵を用いし時、張・李の二生有り、策を韓・范の二公に献ぜんと欲す。自ら媒するを恥じ、詩を碑に刻み、人をして之を曳きて過ぎしむ。韓・范は疑いて用いず。久しくして、乃ち西夏に走り、名を詭わりて張元・李昊と為り、到る処に詩を題す。元昊は聞きて怪しみ、招致して与に語り、大いに悦び、奉じて謀主と為す。大いに辺患と為る。奸檜の此の挙は、卻って韓・范に勝ること遠し。所謂、下下の人にも上上の智有り、なり。人の韓魏公の書を贗作し、蔡君謨に謁する有り。君謨は之を疑うと雖も、然れども士の頗る豪なるを以て、之に三千を与え、因りて書を回し、四兵をして之を送らしめ、並びに果物を魏公に致す。客は京に至り、公に謁して罪を謝す。公は徐ろに曰く、君謨の手段は小なり、恐らくは未だ公事を了するに足らじ。夏太尉は長安に在り。往きて見るべし、と。即ち為に書を発す。子弟は疑い、包容は已に足る、書は発する勿かるべしと謂う。公曰く、士は能く我が書を為し、又た能く君謨を動かす。其の才器は凡ならず、と。関中に至り、夏は竟に之に官す。又た東坡は元贗の間に出でて帥と為り、銭塘に在り。視事の初め、都商税務は匿税の人、南剣州の郷貢進士の呉味道を押し到る。二つの巨巻を以て、公の名銜を作り、京師の蘇侍郎の宅に封じ至らしむ。公は呼びて其の巻中の何物なるかを訊く。
-
『智囊』權奇・文彥博起居舎人毋湜、至和中に上言し、陝西の鉄銭を廃せんことを乞う。朝廷、従わずと雖も、其の郷人、多く之を知り、争いて鉄銭を以て物を買う。売る者、受くるを肯ぜず。長安、之が為に乱る。民、多く肆を閉ず。僚属、之を禁ぜんことを請う。文彦博曰く、「是くの如くんば、是れ愈いよ惑い擾すなり」と。乃ち絲絹の行人を召し、其の家の縑帛数百匹を出して之を売らしめて曰く、「其の直を納むるに尽く鉄銭を以てせよ、銅銭を以てする勿かれ」と。是に於いて衆、鉄銭の廃せられざるを知り、市肆復た安んず。
-
『智囊』狡黠・秦檜秦檜、事を用うるや、天下の貢献は先ず其の門に入りて、次いで官家に及ぶ。一日、王夫人常に禁中に出入す。顕仁太后言う、「近日、子魚の大なる者は絶えて少なし」と。夫人対えて曰く、「妾が家にこれ有り。当に百尾を以て進むべし」と。帰りて檜に告ぐ。檜、其の失言を咎む。明日、糟青魚百尾を進む。顕仁、掌を拊ちて笑いて曰く、「我、道う、這の婆子は村なりと。果たして然り」と。又、程厚は檜と善し。中舎たりし時、一日邀えられて府第の内閣に至る。一室蕭然として、独り案上に紫綾の縹の一冊有り、「聖人以日星為紀」の賦を写す。尾に「学生類貢進士秦塤呈す」と有り。文采艶麗なり。程、兀坐して静かに観、反覆して成誦す。唯だ酒餚の問労のみ沓至し、晩に及んで檜竟に出でず。乃ち退く。程測らざるなり。後数日、知貢挙に差されて宣押入院す。始めて大いに悟り、即ち此を以て命題す。此の賦、場に擅にし、塤遂に首選たり。
-
『智囊』見大・嚴震厳震、山南に鎮するに、一人有りて銭三百千を乞い、以て過活せんとす。震、子の公弼らを召してこれを問う。公弼曰く、「此は風を患うるのみ。大人、必ずしもこれに応ぜず」と。震怒りて曰く、「爾必ず吾が門を墜さん。只だ吾に力めて善事を行うを勧むべきに、奈何ぞ吾に金帛を吝惜するを勧むるや。且つ此の人、弁ぜざらんに、吾に三百千を乞う、的に凡ならざるなり」と。左右に命じて数に準じてこれに与えしむ。是に於て三川の士、心を帰すること恐後し、亦た造次にして過求する者無し。〔馮述評〕天下の窮まり無き不肖の事は、皆な銭を捨て得ざるより起こる。天下の窮まり無き好事は、皆な銭を捨て得て做さる。古より銭を捨て得ざるの好人無きなり。呉の魯粛、唐の于頔、宋の范仲淹は、都て肯えて大いに手を開く者なり。西呉の董尚書潯陽公份は、家富みて交接に勤む。凡そ衣冠の過賓には、延礼して厚く贈らざる無し。その孫、礼部の青芝公嗣成は、詩字に工みにして、往往にして手書の扇軸及び詩稿を以て人に贈る。尚書これを聞きて曰く、「我が家の勢を以てして、日に金幣を以て歓を為すと雖も、猶お人望を塞がざるを恐る。奈何ぞ清客の行事に效うや。且つ縉紳の家は、自ずから局面有り。豈に復た詩字を以て人の憐れみを得んや。将来吾が家を破る者は、必ず此の子ならん」と。後、民変の事起こるに、尚書已に老い、青芝公は世故に諳んぜず、自ら処分せんことを願い、愚民の望む処、一たび集まれば千人、遂に破産を致す。人始めて尚書の先見に服す。
-
『智囊』見大・秦檜味道は恐れ蹙まりて前みて曰く、味道は今秋、忝なくも郷薦に冒し、郷人は銭を集めて赴省の贐と為すこと百千。就きて建陽の紗を置き、二百端を得たり。因りて計るに、道路の経る所の場務は尽く抽税を行わば、則ち都下に至りて其の半ばを存せず。竊かに当今の天下の重名を負いて士類を愛し奨むるを計るに、唯だ内翰と侍郎のみ。縦い敗露する有るも、必ず能く情貸せんと。遂に先生の名銜を仮り、緘封して来たる。先生の已に此の邦に臨鎮せるを知らず。罪は実に逃れ難し、と。公は熟視して笑い、掌箋吏を呼びて其の旧封を去らしめ、換えて新銜を題し、東京の竹竿巷に附至せしめ、並びに手ずから子由の書一紙を書き、之に付して曰く、先輩よ、這回は天に上り去るも無妨なり、と。明年、味道は及第し、来たりて謝す。二事は俱に人の智量を長ずるものなり。
-
『智囊』靈變・張濬建炎の初め、駕は銭塘に幸し、張忠献を平江に留めて後鎮と為す。時に湯東野は適々守将と為る。一日、赦令の当に至るべきを聞き、心に之を疑い、走りて張公に白す。公曰く、「亟かに吏属の事を解する者を遣わして往きて視せしめ、駅騎を緩めて先ず取りて以て帰らしめよ」と。湯は官を遣わして発視するに、乃ち偽詔なり。宣ぶべからずと度るも、事は已に彰灼たり。卒徒は賜を望むに急にして、変有るを懼る。復た張公に謀る。公曰く、「今は便ち庫銭を発して、賞を行うの意を示せ」と。乃ち偽詔を屏け、陰かに故府に蔵する所の登極の赦書を取りて輿中に置き、迎えて譙門に登り、読みて之を張り、即ち其の階を去り、禁じて敢えて輒ち登る者無からしむ。而して金帛を散給すること郊賚の時の如くす。是に於いて人情は略定まり、乃ち大計を決せり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る