智囊 / 識斷・段秀實・孔鏞
鏞顧曰:「此秀才好人,汝既效順,可釋之,與我同返。」賊即解縛,還其巾裾,諸生競奔去。鏞薄暮及城,城中吏登城見之,驚曰:「必太守畏而從賊,導之陷城耳。」爭問故,鏞言:「第開門,我有處分。」眾益疑拒,鏞笑語賊:「爾且止,吾當自入,出犒汝。」賊少卻,鏞入,復閉門,鏞命取穀帛從城上投與之,賊謝而去,終不復出。〔馮評〕晞奉汾陽家教,到底自惜功名。段公行法時,已料之審矣。孔太守雖借祖蔭,然語言步驟,全不犯凶鋒。故曰:「天下之至柔,馳騁天下之至剛。」
新字:鏞顧曰:「此秀才好人,汝既効順,可釈之,与我同返。」賊即解縛,還其巾裾,諸生競奔去。鏞薄暮及城,城中吏登城見之,驚曰:「必太守畏而従賊,導之陥城耳。」争問故,鏞言:「第開門,我有処分。」衆益疑拒,鏞笑語賊:「爾且止,吾当自入,出犒汝。」賊少却,鏞入,復閉門,鏞命取穀帛従城上投与之,賊謝而去,終不復出。〔馮評〕晞奉汾陽家教,到底自惜功名。段公行法時,已料之審矣。孔太守雖借祖蔭,然語言歩驟,全不犯凶鋒。故曰:「天下之至柔,馳騁天下之至剛。」
書き下し
鏞、顧みて曰く、「此の秀才は好人なり。汝、既に順を効す。釈くべし。我と同に返らしめよ」と。賊即ち縛を解き、其の巾裾を還す。諸生競い奔り去る。鏞、薄暮に城に及ぶ。城中の吏、城に登りてこれを見、驚きて曰く、「必ず太守、畏れて賊に従い、これを導きて城を陥さんとするのみ」と。争いて故を問う。鏞言う、「第だ門を開け。我、処分有り」と。衆益ます疑いて拒む。鏞笑いて賊に語る、「爾、且く止まれ。吾、当に自ら入り、出でて汝を犒うべし」と。賊少し却く。鏞入りて、復た門を閉ざし、鏞、穀帛を取りて城上より投じ与えしむ。賊、謝して去り、終に復た出でず。〔馮評〕晞は汾陽の家教を奉じ、到底、自ら功名を惜しむ。段公、法を行う時、已にこれを料ること審らかなり。孔太守は祖蔭を借ると雖も、然れども語言・歩驟、全く凶鋒を犯さず。故に曰く、「天下の至柔は、天下の至剛に馳騁す」と。
現代語訳
孔鏞は振り返って言いました。「この書生たちは良い人間だ。おまえたちはすでに従う気持ちを示した。解き放ってやれ。私と一緒に帰らせよう。」賊はすぐに縄を解き、頭巾や衣服を返しました。書生たちは争って走り去りました。孔鏞は夕暮れに城に着きました。城中の役人たちは城壁に登ってそれを見て、驚いて言いました。「きっと太守は恐れて賊に従い、賊を導いて城を陥れようとしているのだ。」争ってわけを尋ねました。孔鏞は言いました。「ともかく門を開けよ。私に処置がある。」人々はますます疑って拒みました。孔鏞は笑って賊に言いました。「おまえたち、しばらくここで止まっていよ。私が自ら入って、出てきておまえたちを労おう。」賊は少し退きました。孔鏞は入ると、また門を閉ざし、穀物や布を取らせて城の上から投げ与えました。賊は礼を言って去り、二度と出てきませんでした。〔馮評〕郭晞は郭子儀の家の教えを受け、やはり最後には自らの功名を惜しむ者でした。段公が法を行ったとき、すでにそれを見通していたのです。孔太守は祖先の名声を借りたとはいえ、言葉も歩みも、凶暴な刃先に触れませんでした。だから「天下で最もやわらかいものは、天下で最も硬いものを駆け回る」と言うのです。
解説
この章句が説くこと
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『智囊』識斷・段秀實・孔鏞賊、榻を取りて中に置く。鏞坐し、衆を呼びて前ましむ。衆、覚えず相顧みて進む。渠酋、鏞に問う、「誰と為す」と。曰く、「孔太守なり」と。賊曰く、「豈に聖人の児孫か」と。鏞曰く、「然り」と。賊みな羅拝す。鏞曰く、「我、固より知る、若が賊は本良民にして、餒に迫られ、此に聚まりて苟くも死を救わんことを図るを。前官は諒せず、動もすれば兵を以て加え、汝を剿絶せんと欲す。我、今、朝命を奉じて汝の父母官と作り、汝を視ること猶お子孫のごとし。何ぞ殺害するに忍びんや。若し信に能く我に従わば、当に汝が罪を宥すべし。我を送りて府に還すべし。我、穀帛を以て汝に齎し、復た出でて掠むること勿からしめん。若し従わずんば、我を殺すべし。後に官軍の来りて罪を問う有らば、汝当たらん」と。衆、錯愕して曰く、「誠に公の言の如くんば、公、誠に能く恤まば、請う、公の任を終えんまで、復た擾犯せず」と。鏞曰く、「我が一語已に定まる。何ぞ必ずしも多疑せん」と。衆復た拝す。鏞曰く、「我、餒えたり。食を具うべし」と。衆、牛馬を殺し、麦飯を為して以て進む。鏞飽啖す。賊みな驚き服す。日暮れ、鏞曰く、「吾、城に入るに及ばず。即ち此に宿すべし」と。賊、牀褥を設け、鏞徐ろに寝ぬ。明日復た食を進む。鏞曰く、「吾、今帰らん。爾ら能く往きて粟帛を取るに従うか」と。賊曰く、「然り」と。馬を控えて林間に送り出し、賊数十騎従う。
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『智囊』識斷・段秀實・孔鏞孝宗の時、孔鏞を以て田州知府と為す。蒞任して才に三日、郡兵尽く已に調発せられ、而るに峒獠、倉卒に城を犯す。衆議して門を閉じて守らんとす。鏞曰く、「孤城空虚、能く幾日を支えんや。只だ応に諭すに朝廷の恩威を以てして、庶わくは自ら解けんことを」と。衆これを難しとし、謂う、「孔太守は書生の迂談なり」と。鏞曰く、「然らば則ち手を束ねて斃れを受けんや」と。衆曰く、「即ち爾らば、誰か当に往くべき」と。鏞曰く、「此れ吾が城なり。吾、当に独り行くべし」と。衆猶お諫め阻むも、鏞即ち騎を命じ、門を開きて去らしむ。衆、士兵を以て従わんことを請うも、鏞これを却く。賊、門の啓くを望見して、以て出戦すと為す。これを視れば、一官人馬に乗りて出で、二夫絡を控くのみ。門は隨って閉づ。賊、馬を遮りて故を問う。鏞曰く、「我は新太守なり。爾、我を導きて寨に至れ。言う所有り」と。賊、測り叵く、姑く導きて行く。遠く林菁の間に入り、従夫を顧みれば、已に其の一を逸す。既に賊地に達すれば、一も亦た逝けり。賊、馬を控えて山林に入る。路を夾みて人を裸にして樹に加えし者累累たり。鏞を呼びて救いを求む。鏞、人に問えば、乃ち庠生にして郡に赴き、賊に邀え去られ、従わざれば、賊将に殺さんとする者なり。鏞顧みず、径ちに洞に入る。賊、刃を露わにして出迎う。鏞、馬を下り、其の廬中に立ち、賊を顧みて曰く、「我は乃ち爾の父母官なり。坐して来たるべし。爾ら来りて参見せよ」と。
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『智囊』靈變・張佳胤公は意に頗る疑い、遂に延べて後堂に入らしむ。敬は公の左手を扣え、章は背を擁し、同じく室に入りて炕上に坐す。敬は髯を掀げて笑いて曰く、「公は我を知らざるか。我は壩上より来たり、公の帑に万金有りと聞き、願わくは以て相い借りん」と。遂に章と共に匕首を出して、公の頸に置く。公は為に動かず、従容として語りて曰く、「爾の図る所は仇に報ゆるに非ず。我は即い愚なりとも、奈何ぞ財の故を以て吾が生を軽んずるや。即い匕首せずとも、吾は書生の孱夫、爾を奈何ともせん。且つ爾は既に朝使と称す、奈何ぞ自ら本相を露わす。人をしてこれを窺わしめば、爾の利に非ず」と。賊は以て然りとし、遂に匕首を袖にす。公曰く、「滑は小邑なり、安んぞ多金を得ん」と。敬は札記を出だして数の如くす。公は復た辨ぜず、但だ請う、多く取りて吾が官を累わす勿れと。後に覆た開諭す。久しくして曰く、「吾が党は五人、当に五千金を予うべし」と。公は謝して曰く、「幸甚なり。但だ爾の両人の橐中にこれを装うを能うか。抑も何の策あって此の官舎を出でんとするか」と。賊曰く、「公の慮は良に是なり。当に我が為に大車一乗を具え、金を其の上に載せ、仍お公を械して詔もて逮する故事の如くすべし。一人の従うを許さず、従えば即ち先に公を刺さん。吾が党の馬を躍らせて去るを俟ちて、乃ち公の身を釈さん」と。公曰く、「我を逮するに昼行せば、邑の人は必ず爾を困しめん、即い我を刺すとも何の益あらん。夜行するに如かず、便なり」と。二賊は相い顧みて善しと称す。
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『智囊』詭道・孔鏞翌日、将佐庭参す。公曰く、「一人の巡官を得んと欲す。若ら来前せよ。吾自ら之を選ばん」と。乃ち曽を指して曰く、「庶幾わくは可なる者なり」と。衆既に出で、公、私かに曽を詰りて曰く、「若、何ぞ賊と通ずるや」と。曽、驚き辯ずること已まず。公曰く、「阿溪、歳ごとに上官に賂し、汝、居間を為す。辯じて服せずんば、吾且に汝を斬らんとす」と。曽、叩頭して敢えて言わず。公曰く、「懼るる勿れ。汝、能く我が為に阿溪を取らんや」と。曽、阿溪・阿剌の謀勇の状に因り、且つ曰く、「更に一官を得て同に事とすれば乃ち可なり」と。公、自ら挙げしむれば、乃ち曰く、「陳総旗に如くは無し」と。公曰く、「与に偕に来るべし」と。少選して、瑞入る。公、之を訊うこと曽を訊うが如し。瑞、屢々曽を顧みる。曽曰く、「諱む勿れ。吾ら公に事うる、悉く知らる。第だ当に力を尽くして以て公に報ゆべきのみ」と。瑞も亦た言うこと状し難きも、公曰く、「汝、第だ彼を誘いて寨を出でしめよ。吾自ら能く之を取らん」と。瑞諾して出づ。
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『智囊』通簡・劉舜卿・李允則元豊の間、劉舜卿は雄州に知たり。虜は夜にその関鎖を竊みて去る。吏は密かに以て聞す。舜卿は問わず、但だ其の門鍵を易えしめ、之を大にす。後数日、虜の諜は盗者を送り、並びに鎖を以て至る。舜卿曰く、「吾れ未だ嘗て鎖を亡わず」と。命じて門に加えしむるに、則ち大なること数分、並びに盗を還す。虜は大いに慙沮し、盗は反って罪を得たり。民に訴うる有り、契丹の民に毆傷せられて遁ぐと。李允則は治めず、但だ傷者に銭二千を与う。月を逾えて、幽州は其の事を以て来り請う。答えて曰く、「有ること無し」と。蓋し他の諜が毆人を以て質験と為さんと欲せしも、既に有ること無ければ、乃ち諜を殺す。
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『智囊』權奇・楊璡楊璡、丹徒の知県を授かる。会たま中使、浙に如き、至る所、守令を縛して舟中に置き、賂を得て始めて釈く。将に丹徒に至らんとす。璡、善く泅ぐ者二人を選び、耆老の衣冠を著せしめ、先に馳せて以て迎えしむ。中使、怒りて曰く、「令は安くにか在る。汝、敢えて来たりて我に謁するか」と。左右に令して之を執らしむ。二人、即ち江中に躍り入り、潜遁して去る。璡、徐に至り、紿きて曰く、「聞くならく、公、二人を江中に駆りて溺死せしむと。方今、聖明の世、法令は森厳なり。人命を如何せん」と。中使、懼れ、礼謝して去る。他所を歴ると雖も、亦た復た放恣せずと云う。
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