智囊 / 詰奸・劉宗龜
劉宗龜鎮海南。有富商子少年泊舟江岸,見高門一妙姬,殊不避人。少年挑之曰:「黃昏當訪宅矣。」姬微哂,是夕。果啟扉候之,少年未至,有盜入欲行竊,姬不知,就之。盜謂見執,以刀刺之,遺刀而逸。少年後至,踐其血,仆地,捫之,見死者,急出,解維而去。明日,其家跡至江岸,岸上云:「夜有某客舡徑發。」官差人追到,拷掠備至,具實吐之,唯不招殺人。視其刀,乃屠家物,宗龜下令曰:「某日演武,大饗軍士,合境庖丁,集球場以俟。」烹宰既集,又下令曰:「今日已晚,可翼日至。」乃各留刀,陰以殺人刀雜其中,換下一口,明日各來請刀,唯一屠者後至,不肯持去,詰之,對曰:「此非某刀,乃某人之刀耳。」命擒之,則已竄矣。乃以他死囚代商子,侵夜斃於市。竄者知囚已斃,不一二夕果歸,遂擒伏法。商子擬以奸罪,杖背而已。
新字:劉宗亀鎮海南。有富商子少年泊舟江岸,見高門一妙姫,殊不避人。少年挑之曰:「黄昏当訪宅矣。」姫微哂,是夕。果啓扉候之,少年未至,有盗入欲行窃,姫不知,就之。盗謂見執,以刀刺之,遺刀而逸。少年後至,践其血,仆地,捫之,見死者,急出,解維而去。明日,其家跡至江岸,岸上云:「夜有某客舡径発。」官差人追到,拷掠備至,具実吐之,唯不招殺人。視其刀,乃屠家物,宗亀下令曰:「某日演武,大饗軍士,合境庖丁,集球場以俟。」烹宰既集,又下令曰:「今日已晩,可翼日至。」乃各留刀,陰以殺人刀雑其中,換下一口,明日各来請刀,唯一屠者後至,不肯持去,詰之,対曰:「此非某刀,乃某人之刀耳。」命擒之,則已竄矣。乃以他死囚代商子,侵夜斃於市。竄者知囚已斃,不一二夕果帰,遂擒伏法。商子擬以奸罪,杖背而已。
書き下し
劉宗亀、海南に鎮す。富商の子の少年、舟を江岸に泊め、高門に一妙姫の殊に人を避けざるを見る。少年之を挑みて曰く、「黄昏に当に宅を訪うべし」と。姫は微かに哂い、是の夕べ、果たして扉を啓きて之を候つ。少年未だ至らざるに、盗の入りて窃まんと欲する有り。姫は知らずして之に就く。盗は執えらるると謂い、刀を以て之を刺し、刀を遺して逸ぐ。少年後に至り、其の血を踐みて仆れ、之を捫るに死者を見、急ぎ出でて維を解きて去る。明日、其の家は跡して江岸に至る。岸上に云う、「夜に某客の舡の径ちに発する有り」と。官は人を差して追い到らしめ、拷掠備に至り、具に実を吐くも、唯だ人を殺せしは招かず。其の刀を視れば、乃ち屠家の物なり。宗亀は令を下して曰く、「某日に演武し、大いに軍士を饗す。合境の庖丁は、球場に集まりて以て俟て」と。烹宰既に集まれば、又令を下して曰く、「今日已に晩し、翼日に至るべし」と。乃ち各おの刀を留めしめ、陰かに殺人の刀を以て其の中に雑え、一口を換え下す。明日各おの来たりて刀を請うに、唯だ一屠者のみ後れて至り、持ち去るを肯ぜず。之を詰れば、対えて曰く、「此れ某の刀に非ず、乃ち某人の刀のみ」と。命じて之を擒えしむれば、則ち已に竄れり。乃ち他の死囚を以て商の子に代え、侵夜に市に斃す。竄れし者は囚の已に斃れしを知り、一二夕ならずして果たして帰る。遂に擒えて法に伏す。商の子は擬するに姦罪を以てし、背を杖つのみ。
現代語訳
劉宗亀が海南を治めていたときのことです。ある富商の息子の若者が舟を川岸に泊め、立派な門構えの家に美しい女がいて、人目を避けないのを見ました。若者は女をからかって言いました。「夕暮れにお宅を訪ねよう」。女は微かに笑い、その夕べ、本当に戸を開けて待っていました。若者がまだ来ないうちに、盗人が忍び込んで盗みをしようとしました。女は気づかず、盗人のほうへ寄っていきました。盗人は捕まると思い、刀で女を刺し、刀を残して逃げました。若者がそのあと来て、血を踏んで倒れ、手探りして死体に触れ、あわてて外に出て、舟のもやい綱を解いて去りました。翌日、女の家の者が足跡をたどって川岸に至りました。岸の人は「夜に、ある客の舟がすぐに出ていった」と言いました。役所は人を遣わして若者を追わせ、連れ戻して厳しく拷問しましたが、若者はすべて事実を述べながら、ただ人を殺したことだけは認めませんでした。凶器の刀を見ると、屠殺人の道具でした。劉宗亀は命令を出しました。「某日に武術の演習を行い、軍士に大いに酒食を振る舞う。領内の料理人はすべて球場に集まって待て」。料理人が集まると、また命令を出しました。「今日はもう遅いから、明日来い」。そこで各人に刀を預けさせ、ひそかに凶器の刀をその中に混ぜ、一本を入れ替えておきました。翌日、各人が来て刀を受け取るとき、一人の屠殺人だけが遅れて来て、持っていこうとしません。問いただすと、「これはわたしの刀ではなく、某の刀です」と答えました。命じて捕らえさせようとしたとき、本人はすでに逃げていました。そこで別の死刑囚を富商の息子の身代わりとして、夜に市場で処刑しました。逃げていた者は、囚人がすでに死んだと知り、一両日もたたずに帰ってきました。そこで捕らえて処罰しました。富商の息子は不義の罪にあたるとして、背中を杖で打たれただけでした。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『智囊』詰奸・臨海令臨海県の新秀才を迎えて黌宮に適くに、女の窺い見て一生の韶美なるを悦ぶ有り。一賣婆の傍に在りて曰く、「此れは吾が鄰家の子なり。小娘子の為に執伐せば、成り、佳偶ならん」と。賣婆は女の意を以て生を誘うも、生は従わず。賣婆に子の無頼なる有り、因りて生に假りて夜に往く。女は弁ずること能わず。一日、其の家は客を舎す。夫婦は因りて女を移し、女の榻を以て之を寝ぬ。夜に人の其の双首を断ちて以て去る有り。明発して以て県に聞こゆ。令は其の家の之を殺せしかと以うも、橐装は損うこと無し。之を殺して何をか為さん。乃ち問う、「榻は向に誰氏を寝ぬか」と。曰く、「是れ其の女なり」と。令曰く、「之を知れり」と。立ちどころに其の女を逮え、威を作して之を震わせて曰く、「汝の姦夫は誰なるか」と。曰く、「某秀才なり」と。生を逮え至らしむれば、曰く、「賣婆の語は有り。何ぞ嘗て其の家に至らん」と。又女に問う、「秀才の身に何の記有るか」と。曰く、「臂に痣有り」と。之を視れば有ること無し。令は沈思して曰く、「賣婆に子有りや」と。其の子を逮えて、臂を視れば痣有り。曰く、「人を殺せし者は、汝なり」と。之を刑すれば、即ち自ら輸服す。蓋し其の夜に駢首を捫り得て、女に他の姦有りと以い、之を殺せしなり。生は是に由りて釈くを得たり。
-
『智囊』詰奸・某京師指揮京師に盗有り、一家を劫かし、一冊を遺す。旦に之を視れば、尽く富室の子弟の名なり。書に曰く、「某日、某甲、某地に会飲して事を議す」と。或いは「聚博して娼を挟む」云云と、凡そ二十条。以て官に白す。冊に按じて捕え至るに、皆な桚弛の少年なり。良に以て是なりと為す。各おの父母は諸児の素より不逞なるを謂い、亦た頗る自ら疑う。群少の飲博する諸事の悉く実なるに及び、蓋し盗は毎に偵して之を籍せしなり。少年は榜毒に勝えず、誣いて服す。賄の所在を訊すに、浪りに言う、「郊外の某処に埋む」と。之を発けば悉く獲たり。諸少相顧みて駭愕して云う、「天、我を亡ぼす」と。遂に案を結び決を伺う。一指揮、之を疑いて其の故を得ず。沈思すること良や久しくして曰く、「我が左右の中に一髯有り、職は馬を豢うのみ。何ぞ斯の獄を訊するたびに輒ち侍側するを得んや」と。因りて復た囚を引きて鞫すること数四、察するに髯は必ず至り、他は則ち否なり。猝かに呼びて問えば、髯は他無しと辞す。即ち炮烙の具を取らしむれば、髯は叩頭して左右を屏けんことを請い、乃ち曰く、「初め事の本末を知らず。唯だ盗、奴に賂し、斯の獄を治むる毎に、必ず公と囚との言を記して馳せ報ぜしめ、我に百金を酬ゆるを許せり」と。乃ち知る、発く所の贓は、皆な報を得て宵に瘞めしことを。髯、賊を擒えて自ら贖わんことを請う。指揮、数兵をして雑衣して与に往かしむ。僻境に至り、悉く之を擒え、諸少乃ち釈かるるを得たり。
-
『智囊』詰奸・元絳江寧の推官元絳、上元の令を摂す。甲と乙と酒を被りて相い毆つ。甲は帰りて臥し、夜に盗に足を断たる。妻は乙と称し、乙を執えて県に詣れば、甲は已に死せり。絳は其の妻に敕して曰く、「帰りて夫の喪を治めよ。乙は已に服せり」と。陰かに謹信なる吏を遣わして其の後を跡けしむれば、一僧の迎え笑い、切切として私語するを望む。絳は命じて取りて廡下に係がしめ、妻に奸の状を詰ぬれば、即ち実を吐く。人其の故を問うに、絳曰く、「吾れ妻の哭して哀しまず、且つ傷つけられし者と席を共にして襦に血の污れ無きを見る。是を以て之を知る」と。
-
『智囊』詰奸・徽州富商徽の富商某、一小家の婦を悦び、之を娶らんと欲し、厚く其の夫を餌す。夫は其の金を利とし、以て婦に語るも、婦従わず、強いて而る後に可とす。夜を卜して具を為して之を招き、故らに自ら匿れ、婦をして觴を主らしむ。商来たること稍や遅く、入れば則ち婦は先に殺され、其の首を亡う。驚き走りて、其の由を知らず。夫は商なりと以い、郡に訟う。商曰く、「相い悦ぶこと之有り。即い従わずとも、尚お緩やかに図るべし。何ぞ之を殺すに至らん」と。一老人曰く、「向時叫夜の僧、殺人の次夜に於て遂に声無し。疑う可きなり」と。商は人を募りて僧の所在を察せしめ、果たして傍郡に於て之を識る。乃ち一人をして婦の衣を著けて林中に居らしめ、僧の過ぐるを候ちて、婦の声を作して呼びて曰く、「和尚よ、我が頭を還せ」と。僧驚きて曰く、「頭は汝が宅の上三家の鋪架上に在り」と。衆出でて僧を縛る。僧は語の泄れしを知り、曰く、「其の夜の門の啓くを伺い、入りて盗まんと欲す。婦の盛装して牀側に泣くを見て、淫せんと欲するも得ず、殺して其の頭を攜え出で、三家の鋪架上に掛けたり」と。上の三家の人を拘え至らしむれば、曰く、「之有り。当時禍を懼れ、移して又上の数家の門首の樹上に掛けたり」と。又上の数家の人を拘え至らしむれば、曰く、「之有り。当日即ち園中に埋めたり」と。吏を遣わして往きて掘らしむれば、果たして一頭を得たり。乃ち須有る男子なり。再び掘れば婦の頭始めて出づ。問う、「頭は何れより来たるか」と。乃ち十年前に其の仇の頭を斬りしなり。是に於て二人皆な死に抵つ。
-
『智囊』詰奸・范純仁参軍宋儋年、暴かに死す。范純仁は子弟をして喪を視しむるに、小斂するとき口鼻より血出づ。純仁は其の非命なるかと疑い、按じて其の妾の小吏と姦するを得たり。因りて会するに、毒を鱉肉中に置く。純仁問う、「肉を食らいしは第幾巡に在りしか」と。曰く、「豈に既に毒に中りて尚お能く席を終うる者有らんや」と。再び之を訊せば、則ち儋年は素より鱉を食らわず。其の曰く、「肉」とは、蓋し妾と吏と変獄の張本を為して以て死を逃れんと欲するのみ。実は儋年の酔いて帰るに、酒に毒して之を殺せしなり。遂に其の罪を正す。
-
『智囊』得情・鄭洛書・許進・姚公・張昺鄭洛書、上海県に知たり。嘗て履端に郡に謁し、帰りて海口に泊す。沈屍有り、圧すに石磨を以てするを、忽ち之を見て、歎じて曰く、「此れ必ず客死ならん。故に余の告ぐる莫きなり」と。人を遣わして之を偵わしむるに、近村の民家に石磨有り、其の牡を失えり。執え来たりて相吻合す。一訊して即ち伏す。果たして江西の売卜人にして、歳晏れて将に帰らんとするに、房主、其の財を利して殺せるなり。単県に田作する者有り、其の婦、之に餉す。食い畢わりて死す。翁、故に曰く、「婦の意なり」と。官に陳ぶ。箠楚に勝えず、遂に誣服す。是れより天久しく雨ふらず。許襄毅公、時に山東に官たり。曰く、「獄に其れ冤有らんか」と。乃ち親ら其の地を歴め、獄囚を出して遍く審す。餉婦に至り、乃ち曰く、「夫婦の相守るは、人の至願。鴆毒もて人を殺すは、計の至密なる者なり。焉んぞ自ら田に餉して之を鴆する者有らんや」と。遂に其の餽する所の飲食、経る所の道路を詢う。婦曰く、「魚湯と米飯にして、荊林より度り、他の異なる無きなり」と。公乃ち魚を買い飯を作り、荊花を其の中に投じて、之を狗彘に試むるに、死せざる無し。婦の冤乃ち白し、即日大雨注ぐが如し。蘇人、商に外に出づ。其の妻は雞数隻を蓄えて以て其の帰りを待つ。数年にして方に返り、雞を殺して之を食らえば、夫即ち死す。隣人は外奸有るかと疑い、之を太守姚公に首す。鞫するも他の故無し。意うに其の雞に毒有りと。人をして老雞を覓め、当に死すべき囚と遍く之を食わしむるに、果たして二人を殺す。獄遂に白し。蓋し雞は蜈蚣百虫を食えば、久しくして毒を蓄う。故に養生家は雞の老いたるを食わず、又た夏は雞を食わず。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る