智囊 / 詰奸・徽州富商
徽富商某,悅一小家婦,欲娶之,厚餌其夫。夫利其金以語婦,婦不從,強而後可。卜夜為具招之,故自匿,而令婦主觴。商來稍遲,入則婦先被殺,亡其首矣,驚走,不知其由。夫以為商也,訟於郡,商曰:「相悅有之,即不從,尚可緩圖,何至殺之?」一老人曰:「向時叫夜僧,於殺人次夜遂無聲,可疑也。」商募人察僧所在,果於傍郡識之,乃以一人著婦衣居林中,候僧過,作婦聲呼曰:「和尚還我頭。」僧驚曰:「頭在汝宅上三家鋪架上。」眾出縛僧,僧知語泄,曰:「伺其夜門啟,欲入盜,見婦盛裝泣牀側,欲淫不可得,殺而攜其頭出,掛在三家鋪架上。」拘上三家人至,曰:「有之,當時懼禍,移掛又上數家門首樹上。」拘又上數家人至,曰:「有之,當日即埋在園中。」遣吏往掘,果得一頭,乃有須男子,再掘而婦頭始出,問:「頭何從來?」乃十年前斬其仇頭,於是二人皆抵死。
新字:徽富商某,悦一小家婦,欲娶之,厚餌其夫。夫利其金以語婦,婦不従,強而後可。卜夜為具招之,故自匿,而令婦主觴。商来稍遅,入則婦先被殺,亡其首矣,驚走,不知其由。夫以為商也,訟於郡,商曰:「相悦有之,即不従,尚可緩図,何至殺之?」一老人曰:「向時叫夜僧,於殺人次夜遂無声,可疑也。」商募人察僧所在,果於傍郡識之,乃以一人著婦衣居林中,候僧過,作婦声呼曰:「和尚還我頭。」僧驚曰:「頭在汝宅上三家鋪架上。」衆出縛僧,僧知語泄,曰:「伺其夜門啓,欲入盗,見婦盛装泣牀側,欲淫不可得,殺而攜其頭出,掛在三家鋪架上。」拘上三家人至,曰:「有之,当時懼禍,移掛又上数家門首樹上。」拘又上数家人至,曰:「有之,当日即埋在園中。」遣吏往掘,果得一頭,乃有須男子,再掘而婦頭始出,問:「頭何従来?」乃十年前斬其仇頭,於是二人皆抵死。
書き下し
徽の富商某、一小家の婦を悦び、之を娶らんと欲し、厚く其の夫を餌す。夫は其の金を利とし、以て婦に語るも、婦従わず、強いて而る後に可とす。夜を卜して具を為して之を招き、故らに自ら匿れ、婦をして觴を主らしむ。商来たること稍や遅く、入れば則ち婦は先に殺され、其の首を亡う。驚き走りて、其の由を知らず。夫は商なりと以い、郡に訟う。商曰く、「相い悦ぶこと之有り。即い従わずとも、尚お緩やかに図るべし。何ぞ之を殺すに至らん」と。一老人曰く、「向時叫夜の僧、殺人の次夜に於て遂に声無し。疑う可きなり」と。商は人を募りて僧の所在を察せしめ、果たして傍郡に於て之を識る。乃ち一人をして婦の衣を著けて林中に居らしめ、僧の過ぐるを候ちて、婦の声を作して呼びて曰く、「和尚よ、我が頭を還せ」と。僧驚きて曰く、「頭は汝が宅の上三家の鋪架上に在り」と。衆出でて僧を縛る。僧は語の泄れしを知り、曰く、「其の夜の門の啓くを伺い、入りて盗まんと欲す。婦の盛装して牀側に泣くを見て、淫せんと欲するも得ず、殺して其の頭を攜え出で、三家の鋪架上に掛けたり」と。上の三家の人を拘え至らしむれば、曰く、「之有り。当時禍を懼れ、移して又上の数家の門首の樹上に掛けたり」と。又上の数家の人を拘え至らしむれば、曰く、「之有り。当日即ち園中に埋めたり」と。吏を遣わして往きて掘らしむれば、果たして一頭を得たり。乃ち須有る男子なり。再び掘れば婦の頭始めて出づ。問う、「頭は何れより来たるか」と。乃ち十年前に其の仇の頭を斬りしなり。是に於て二人皆な死に抵つ。
現代語訳
徽州の富商が、ある庶民の家の妻を気に入って妻にしようと思い、その夫に多額の金を与えて誘いました。夫は金に目がくらんで妻に話しましたが、妻は従わず、無理強いしてようやく承知させました。ある夜、宴席を設けて商人を招き、夫は身を隠し、妻に酒を勧めさせました。商人が少し遅れて入ると、妻は先に殺されていて、首がなくなっていました。商人は驚いて逃げ出しましたが、わけが分かりませんでした。夫は商人の仕業だと思い、郡に訴えました。商人は言いました。「好意を持っていたのは事実だが、たとえ従わなくても、ゆっくり図ればよい。なぜ殺すことがあろうか」。一人の老人が言いました。「以前、夜回りをしていた僧が、人の殺された次の夜から声が絶えました。疑わしいことです」。商人は人を募って僧の居場所を調べさせ、はたして近隣の郡で見つけました。そこで一人に女の衣を着せて林の中に潜ませ、僧が通りかかるのを待って、女の声色で「和尚さん、わたしの首を返して」と呼ばせました。僧は驚いて言いました。「首は、お前の家から三軒上の店の棚の上にある」。大勢が出てきて僧を縛りました。僧は秘密が漏れたと悟って言いました。「その夜、戸が開いているのを見て、盗みに入ろうとしました。すると女が盛装して寝台のそばで泣いているのを見て、手をつけようとしましたが叶わず、殺して首を持ち出し、三軒先の店の棚に掛けました」。三軒上の家の人を連れて来ると、「たしかにありました。そのときは災いを恐れて、さらに上の数軒の家の前の木に移しました」と言いました。さらに上の数軒の家の人を連れて来ると、「ありました。その日のうちに園に埋めました」と言いました。役人を遣わして掘らせると、はたして首が出ました。それはひげの生えた男の首でした。さらに掘ると女の首がようやく出ました。「この男の首はどこから来たのか」と問うと、十年前に仇の首を斬って埋めたものでした。そこで二人とも死刑になりました。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『智囊』詰奸・某郡從事人の他に適きて回るに因り、其の妻の家に殺され、但だ其の首を失うを見る有り。奔りて妻の族に告ぐ。妻の族は婿の女を殺せしを以て郡主に訟え、刑掠既に厳しく、遂に自ら誣いて服す。独り一従事のみ之を疑い、使君に謂いて曰く、「人命至って重し。須く緩くして之を窮むべし。且つ夫為る者、誰か妻を殺すに忍びん。縦い隙有りて之を害すとも、必ず禍を脱するの計を為し、或いは病殞に推し、或いは暴亡に托さん。今屍を存して首を棄つるは、其の理甚だ明らかなり。請う、為に更に讞せん」と。使君之を許す。従事は乃ち別室に遷し係ぎ、仍りて酒食を給す。然る後に遍く城に在る仵作行人を勘し、各おの近来人家の与に墳墓を安厝せし多少の文状を供せしむ。既にして一一面詰して曰く、「汝ら人家の与に事を挙ぐるに、還って疑う可き者有りや」と。中の一人曰く、「某は一豪家に於て事を挙ぐるに、共に言う、一奶子を殺却し、牆上より舁ぎ過ぐ。兇器の中は甚だ物無きに似たり。見在某坊にあり」と。之を発けば、果たして一婦人の首を得たり。訴者をして験認せしむれば、則ち「是に非ず」と云う。遂に豪家を収めて鞫すれば、豪家は款伏す。乃ち是れ婦と私に好し、一奶子を殺し、函して首を葬り、婦の衣を以て奶子の身屍に衣せしめ、婦に易えて以て帰り、私室に畜えしなり。其の獄遂に白らかなり。
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『智囊』詰奸・臨海令臨海県の新秀才を迎えて黌宮に適くに、女の窺い見て一生の韶美なるを悦ぶ有り。一賣婆の傍に在りて曰く、「此れは吾が鄰家の子なり。小娘子の為に執伐せば、成り、佳偶ならん」と。賣婆は女の意を以て生を誘うも、生は従わず。賣婆に子の無頼なる有り、因りて生に假りて夜に往く。女は弁ずること能わず。一日、其の家は客を舎す。夫婦は因りて女を移し、女の榻を以て之を寝ぬ。夜に人の其の双首を断ちて以て去る有り。明発して以て県に聞こゆ。令は其の家の之を殺せしかと以うも、橐装は損うこと無し。之を殺して何をか為さん。乃ち問う、「榻は向に誰氏を寝ぬか」と。曰く、「是れ其の女なり」と。令曰く、「之を知れり」と。立ちどころに其の女を逮え、威を作して之を震わせて曰く、「汝の姦夫は誰なるか」と。曰く、「某秀才なり」と。生を逮え至らしむれば、曰く、「賣婆の語は有り。何ぞ嘗て其の家に至らん」と。又女に問う、「秀才の身に何の記有るか」と。曰く、「臂に痣有り」と。之を視れば有ること無し。令は沈思して曰く、「賣婆に子有りや」と。其の子を逮えて、臂を視れば痣有り。曰く、「人を殺せし者は、汝なり」と。之を刑すれば、即ち自ら輸服す。蓋し其の夜に駢首を捫り得て、女に他の姦有りと以い、之を殺せしなり。生は是に由りて釈くを得たり。
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『宋名臣言行録』前集巻三・向敏中公西京に在り。僧有り、暮に村民の家を過ぎて寄止せんことを求む。主人許さず。僧、門外の車廂の中に寢せんことを求む。之を許す。夜、盗の其の家に入る有り。墻上より一婦人并びに嚢衣を扶けて出づ。僧適々寐ねず、之を見る。自ら念う、主人の納宿する所と為らず、今、主人其の婦及び財を亡う、明日必ず我を執えて縣官に詣らんと。因りて夜亡げ去り、荒草の中を走る。忽ち眢井に墮つ。則ち婦人已に盗の殺す所と為り、先に其の中に在り。明日、主人搜訪して之を井中に得たり。執えて以て縣に詣る。掠治す。僧自ら誣いて云う、子婦と姦し、誘いて與に俱に亡ぐ。人の得る所と為らんことを恐れ、因りて之を殺して井中に投ず。暮夜、覺えず足を失いて亦た其の中に墜つ。贓は井傍に在るも、亡失して何人の取る所かを知らずと。獄成りて府に言う。府皆な以て疑いと為さず。獨り公のみ贓の獲られざるを以て之を疑う。僧を引きて詰問すること數四。僧罪に服す。但だ言う、某、前生に當に此の人に負くべくして死すと。公固く之を問う。乃ち實を以て對う。公宻かに吏をして其の賊を訪ねしむ。吏、村店に食す。店嫗、其の府中より来たるを聞く。其の吏なるを知らざるなり。之に問いて曰く、僧の獄は何如と。吏之を紿きて曰く、昨日已に笞死せりと。嫗曰く、今、賊を獲らば何如と。吏曰く、已に誤りて此の獄を決せり。賊を獲ると雖も亦た問わざるなりと。嫗曰く、之を言うも傷む無し。婦人は乃ち此の村の少年某甲の殺す所なりと。吏曰く、其の人安くに在りと。嫗其の舍を指示す。吏、舍中に就きて掩捕して之を獲たり。案問すれば具に服す。并びに其の贓を得たり。一府咸な以て神と為す。
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『智囊』詰奸・向敏中向敏中、西京に在りしとき、僧の暮れに村を過ぎて寄宿を求むる有り。主人許さず。是に於いて権に主人の外の車廂に寄宿す。夜、盗の牆上より一婦人の囊衣を扶けて出づる有り。僧自ら念う、主人に納れられず、今、主人の家、其の婦人及び財を亡えば、明日必ず我を執えんと。因りて亡げ去り、誤りて眢井に墮つ。則ち婦人は已に盗の殺す所と為り、先に井中に在り。明日、主人、蹤跡して之を得、執えて県に詣る。僧、自ら誣いて服す。「誘いて与に俱に亡げ、追う者を懼れて、因りて之を殺して井中に投じ、暮夜に覚えず足を失い、亦た墜つ。贓は井の旁らに在りしが、何人の取り去りしかを知らず」と。獄成りて府に言う。府は皆な平允とするも、独り敏中のみ贓の獲られざるを以て疑いを致し、乃ち僧を引きて固く問い、其の実を対うるを得たり。敏中、密かに吏をして出でて訪ねしむ。吏、村店に食す。店の嫗、府中より来たるを聞き、問いて曰く、「僧の獄は何如」と。吏、之を紿きて曰く、「昨に已に笞死せり」と。嫗曰く、「今、賊を獲ば何如」と。曰く、「已に誤りて此の獄を決せり。賊を獲ると雖も亦た問わず」と。嫗曰く、「之を言うも傷つくる無し。婦人は乃ち村中の少年某甲の殺す所なり」と。其の舎を指示す。吏、舎に就きて掩捕して之を獲たり。案問して具に服し、並びに其の贓を得て、僧乃ち出づるを得たり。〔馮述評〕前代の明察の官、其の事を成すこと往往にして吏の力を得たり。吏は公挙に出ず、故に用うべきの才多し。今、銭を出して吏を納む。吏を以て市と為すのみ。令、獄を訪ぬれば、便ち獄を鬻ぐ。況んや官の心、猶お吏のごとくなれば、民安んぞ冤せられざるを得んや。
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『智囊』詰奸・元絳江寧の推官元絳、上元の令を摂す。甲と乙と酒を被りて相い毆つ。甲は帰りて臥し、夜に盗に足を断たる。妻は乙と称し、乙を執えて県に詣れば、甲は已に死せり。絳は其の妻に敕して曰く、「帰りて夫の喪を治めよ。乙は已に服せり」と。陰かに謹信なる吏を遣わして其の後を跡けしむれば、一僧の迎え笑い、切切として私語するを望む。絳は命じて取りて廡下に係がしめ、妻に奸の状を詰ぬれば、即ち実を吐く。人其の故を問うに、絳曰く、「吾れ妻の哭して哀しまず、且つ傷つけられし者と席を共にして襦に血の污れ無きを見る。是を以て之を知る」と。
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『智囊』靈變・布商吳生呉に書生有り、僧舎を仮借す。僧の出づる毎に、必ずその房に鎖すを見るに、甚だ謹めり。一夕、鎖すを忘る。生は歩を縦にして入る。房は甚だ曲折し、几上に小さな石磬有り。生は戯れにこれを撃つに、旁の小門が忽ち啓き、少婦出づる有り。生を見て驚きて去り、生も亦た倉惶として外に走る。僧は適々酒一壺を挈えて外より入り、門の未だ鑰さざるを見て愕然とし、生に適に何の見る所かを問う。答えて曰く、「無し」と。僧は怒り、刀を掣きて生に擬し、曰く、「就死すべし、吾が事をして敗れしめ他人の手に死するを令すべからず」と。生は泣きて曰く、「我の醉い後を容せ。公は吾が頭を断て、庶くは懵然として覚る無からん」と。僧はこれを許す。生は佯りて杯を挙げ、告げて曰く、「庖中の塩菜を一茎乞う」と。僧は乃ち刀を持ちて廚に入る。生は急ぎ布衫を脱ぎてその壺口に塞ぎ、酒泄れず、重さ十許斤、潜かに門背に立ち、僧の至るを伺い、連りにその首を撃つこと数十下、僧は悶絶して死す。少婦に問えば、乃ち其の夫を謀殺して奪い得たる者なり。僧の橐を分かちて、これを遣わせり。
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