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智囊 / 詰奸・楊武

僉都御史楊北山公名武,關中康德涵之姊丈也,為淄川令,善用奇。邑有盜市人稷米者,求之不得。公攝其鄰居者數十人,跪之於庭,而漫理他事不問。已忽厲聲曰:「吾得盜米者矣!」其一人色動良久。復厲聲言之,其人愈益色動。公指之曰:「第幾行第幾人是盜米者。」其人遂服。又有盜田園瓜瓠者,是夜大風雨,根蔓俱盡。公疑其仇家也,乃令印取夜盜者足跡,布灰於庭,攝村中之丁壯者,令履其上,而曰:「合其跡者即盜也!」其最後一人輾轉有難色,且氣促甚。公執而訊之,果仇家而盜者也,瓜瓠宛然在焉。又一行路者,於路旁枕石睡熟,囊中千錢人盜去。公令舁其石於庭,鞭之數十,而許人縱觀不禁。乃潛使人於門外候之,有窺覘不入者即擒之。果得一人,盜錢者也。聞鞭石事甚奇,不能不來,入則又不敢。求其錢,費十文爾,餘以還枕石者。

新字:僉都御史楊北山公名武,関中康徳涵之姊丈也,為淄川令,善用奇。邑有盗市人稷米者,求之不得。公摂其鄰居者数十人,跪之於庭,而漫理他事不問。已忽厲声曰:「吾得盗米者矣!」其一人色動良久。復厲声言之,其人愈益色動。公指之曰:「第幾行第幾人是盗米者。」其人遂服。又有盗田園瓜瓠者,是夜大風雨,根蔓倶尽。公疑其仇家也,乃令印取夜盗者足跡,布灰於庭,摂村中之丁壮者,令履其上,而曰:「合其跡者即盗也!」其最後一人輾転有難色,且気促甚。公執而訊之,果仇家而盗者也,瓜瓠宛然在焉。又一行路者,於路旁枕石睡熟,嚢中千銭人盗去。公令舁其石於庭,鞭之数十,而許人縦観不禁。乃潜使人於門外候之,有窺覘不入者即擒之。果得一人,盗銭者也。聞鞭石事甚奇,不能不来,入則又不敢。求其銭,費十文爾,余以還枕石者。

書き下し

僉都御史楊北山公、名は武、関中の康徳涵の姉丈なり。淄川の令と為り、善く奇を用う。邑に市人の稷米を盗む者有るも、之を求むれども得ず。公は其の隣居する者数十人を摂え、之を庭に跪かしめ、漫に他事を理めて問わず。已にして忽ち厲声して曰く、「吾れ米を盗みし者を得たり」と。其の一人の色動くこと良や久し。復た厲声して之を言えば、其の人愈いよ益ます色動く。公之を指して曰く、「第幾行第幾人、是れ米を盗みし者なり」と。其の人遂に服す。又田園の瓜瓠を盗む者有り、是の夜大風雨にして、根蔓俱に尽く。公は其の仇家かと疑い、乃ち夜盗む者の足跡を印取せしめ、灰を庭に布き、村中の丁壮の者を摂えて、其の上を履ましめて曰く、「其の跡に合う者は即ち盗なり」と。其の最後の一人、輾転として難色有り、且つ気促ること甚し。公は執えて之を訊すに、果たして仇家にして盗みし者なり、瓜瓠宛然として在り。又一行路の者、路傍に於て石を枕にして睡熟し、嚢中の千銭を人に盗み去らる。公は其の石を庭に舁がしめ、之を鞭うつこと数十、而して人の縦観するを許して禁ぜず。乃ち潜かに人をして門外に候せしめ、窺覘して入らざる者有らば即ち之を擒えしむ。果たして一人を得たり、銭を盗みし者なり。石を鞭うつ事の甚だ奇なるを聞き、来たらざること能わず、入れば則ち又敢えてせず。其の銭を求むれば、費やすこと十文のみ、余は以て石を枕にせし者に還す。

現代語訳

僉都御史の楊北山公、名は武は、関中の康徳涵の姉の夫にあたり、淄川の県令となって、奇策をよく用いました。町で稷(きび)の米を盗まれた者がありましたが、探しても見つかりません。公は隣近所の者数十人を捕らえて庭にひざまずかせ、ほかの用事ばかりを片づけて何も尋ねませんでした。しばらくして、不意に厳しい声で「わたしは米を盗んだ者を見つけたぞ」と言いました。すると、ある一人の顔色がしばらく変わりました。もう一度同じことを厳しく言うと、その男の顔色はいっそう変わりました。公は指さして「何列目の何番目、あれが米を盗んだ者だ」と言い、その男はついに罪を認めました。また、田畑の瓜を盗む者がありました。その夜は大風雨で、根も蔓もすべて持ち去られました。公は恨みを持つ者の仕業ではないかと疑い、盗人の足跡を型に取らせ、庭に灰をまいて、村の壮丁たちを集めてその上を歩かせ、「足跡に合う者が盗人だ」と言いました。最後の一人が、ためらって嫌な顔をし、息づかいも荒くなっていました。公は捕らえて問いただし、結局は恨みを持つ家の者で、盗んだ瓜もそのまま見つかりました。さらに、旅人が道ばたで石を枕にして熟睡し、袋の中の千銭を盗まれた事件がありました。公はその石を庭に運ばせ、数十回むち打ち、しかも人々が見物するのを禁じませんでした。そして密かに人を門の外に待たせ、のぞき込んで中に入らない者がいたら捕らえるよう命じました。すると一人が見つかり、それが銭を盗んだ者でした。石をむち打つという奇妙な話を聞いて来ずにはいられなかったが、中に入るとなると怖くて入れなかったのです。盗まれた銭を調べると、使われたのはわずか十文で、残りは石を枕にしていた旅人に返されました。

解説

三つの話はすべて、人の心理の弱さを突く仕掛けです。名指しを予告する声に動揺した顔、足跡と照合されると聞いて渋る態度、不可解な噂に引き寄せられて近づく好奇心と恐れ。どれも、後ろめたさのある人は無意識にこうした反応を示す、という観察に基づいています。物証が乏しい場面でも、反応を観察できる条件を作れば真相に近づけるわけです。現代の管理職も、問題の当事者が分からないとき、全員を責めるのではなく、関係者の自然な反応が出る場面を丁寧に設計するほうが、組織全体の信頼を損ねずに済みます。ただし心理的な圧力に頼りすぎると誤りも生むので、最後は裏づけを取る慎重さが要ります。

この章句が説くこと

色動足跡鞭石心理の弱点好奇心と恐れ観察眼

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