智囊 / 詰奸・胡汲仲
胡汲仲在寧海日,有群嫗聚佛庵誦經,一嫗失其衣。適汲仲出行,訟於前,汲仲以牟麥置群嫗掌中,令合掌繞佛誦經如故。汲仲閉目端坐,且曰:「吾令神督之,盜衣者行數周,麥當芽。」中一嫗屢開視其掌,遂命縛之,果竊衣者。
新字:胡汲仲在寧海日,有群嫗聚仏庵誦経,一嫗失其衣。適汲仲出行,訟於前,汲仲以牟麦置群嫗掌中,令合掌繞仏誦経如故。汲仲閉目端坐,且曰:「吾令神督之,盗衣者行数周,麦当芽。」中一嫗屡開視其掌,遂命縛之,果窃衣者。
書き下し
胡汲仲、寧海に在りし日、群嫗の仏庵に聚まりて経を誦する有り。一嫗其の衣を失う。適たま汲仲の出行するに、前に訟う。汲仲は牟麦を以て群嫗の掌中に置き、合掌して仏を繞りて経を誦すること故の如くならしむ。汲仲は目を閉じ端坐し、且つ曰く、「吾れ神をして之を督せしむ。衣を盗む者、行くこと数周なれば、麦当に芽ぐむべし」と。中の一嫗屢しば開きて其の掌を視る。遂に命じて之を縛らしむれば、果たして衣を窃みし者なり。
現代語訳
胡汲仲が寧海にいたころのことです。大勢の老女たちが仏堂に集まってお経を唱えていたとき、一人の老女が着物を盗まれました。ちょうど汲仲が通りかかったので、その前に訴え出ました。汲仲は大麦の粒を老女たちの手のひらに置き、手を合わせて仏像のまわりを回りながら、これまでどおり経を唱えさせました。汲仲は自分は目を閉じてきちんと座り、こう言いました。「わたしは神に命じて見張らせている。着物を盗んだ者の麦は、数周するうちに芽を出すはずだ」。すると老女の一人が何度も手のひらを開いて麦を見ました。そこでその者を縛らせたところ、やはり着物を盗んだ本人でした。
解説
芽が出るはずだという超自然の脅しを置くことで、犯人だけが自分の手を気にして覗き込みます。疑われていない人は何も気にしませんが、後ろめたい人は落ち着かず、その仕草が決定的な手がかりになります。汲仲自身は目を閉じており、観察する自分が見られる側から外れているところも巧みです。現代の職場に置き換えれば、関係者全員に同じ条件で同じ作業をさせ、その反応の違いを静かに見る、という調べ方にあたります。大げさな追及や叱責を使わず、一人だけ不自然に動く人を見分けるやり方は、人間関係の傷を最小限に抑える点でも参考になります。
この章句が説くこと
牟麦置掌麦当芽目を閉じる反応の違い静かな観察詰奸
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