智囊 / 詰奸・某京師指揮
〔馮述評〕成化中,南郊事竣,撤器,失金瓶一。有庖人執事瓶所,捕之繫獄,不勝拷掠,竟誣服。詰其贓,謬曰:「在壇前某地。」如言覓之,不獲。又繫之,將斃焉。俄真盜以瓶係金絲鬻於市,市人疑之,聞於官,逮至,則衛士也。招云:「既竊瓶,急無可匿,遂瘞於壇前,只捩取係索耳。」發地,果得之,比庖人謬言之處相去才數寸,使前發者稍廣咫尺,則庖人死不白矣,豈必豢馬髯在側乃可疑哉?訊盜之難如此。
新字:〔馮述評〕成化中,南郊事竣,撤器,失金瓶一。有庖人執事瓶所,捕之繋獄,不勝拷掠,竟誣服。詰其贓,謬曰:「在壇前某地。」如言覓之,不獲。又繋之,将斃焉。俄真盗以瓶係金糸鬻於市,市人疑之,聞於官,逮至,則衛士也。招云:「既窃瓶,急無可匿,遂瘞於壇前,只捩取係索耳。」発地,果得之,比庖人謬言之処相去才数寸,使前発者稍広咫尺,則庖人死不白矣,豈必豢馬髯在側乃可疑哉?訊盗之難如此。
書き下し
〔馮述評〕成化中、南郊の事竣り、器を撤するとき、金瓶一つを失う。庖人の瓶の所に執事せる者有り、之を捕らえて獄に繋ぎ、拷掠に勝えず、竟に誣いて服す。其の贓を詰するに、謬りて曰く、「壇前の某地に在り」と。言の如くに之を覓むるも、獲ず。又之を繋ぎ、将に斃れんとす。俄かにして真盗、瓶の金絲を係けしものを以て市に鬻ぐ。市人之を疑い、官に聞す。逮えて至れば、則ち衛士なり。招して云う、「既に瓶を竊み、急にして匿す無く、遂に壇前に瘞め、只だ係索を捩ち取るのみ」と。地を発けば、果たして之を得たり。庖人の謬りて言う処に比ぶるに相去ること才かに数寸。使し前の発く者、稍や咫尺を広げなば、則ち庖人は死して白らかならざりしならん。豈に必ずしも馬を豢う髯の側に在るを待ちて乃ち疑うべけんや。獄を訊することの難きこと此の如し。
現代語訳
〔馮夢龍の評〕成化年間、南郊の祭祀が終わって器を片づけるとき、金の瓶が一つなくなった。料理人で瓶のそばで勤めていた者がいたので、捕らえて獄につなぎ、拷問に耐えきれず、ついに偽って罪に服した。盗品の所在を問いただすと、でたらめに「祭壇の前のどこそこにあります」と言った。その言うとおりに探したが、見つからなかった。さらに獄につなぎ、死にかけた。やがて真の盗賊が、瓶に付いていた金糸を市で売った。市の人が怪しみ、役所に知らせた。捕らえて連れて来ると、衛兵であった。自供して言った。「瓶を盗んだが、急いでいて隠す場所がなく、祭壇の前に埋め、ただ繋いでいた紐をねじ取っただけです」。地面を掘ると、はたして見つかった。料理人がでたらめに言った場所と、わずか数寸しか離れていなかった。もし以前に掘った者が、わずか一尺ほど範囲を広げていたら、料理人は死んでも無実が晴れなかったであろう。どうして馬飼いの髭の男が側にいるのを待って初めて疑うことがあろうか。獄を取り調べることの難しさはこのとおりである。
解説
この章句が説くこと
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『智囊』詰奸・某京師指揮京師に盗有り、一家を劫かし、一冊を遺す。旦に之を視れば、尽く富室の子弟の名なり。書に曰く、「某日、某甲、某地に会飲して事を議す」と。或いは「聚博して娼を挟む」云云と、凡そ二十条。以て官に白す。冊に按じて捕え至るに、皆な桚弛の少年なり。良に以て是なりと為す。各おの父母は諸児の素より不逞なるを謂い、亦た頗る自ら疑う。群少の飲博する諸事の悉く実なるに及び、蓋し盗は毎に偵して之を籍せしなり。少年は榜毒に勝えず、誣いて服す。賄の所在を訊すに、浪りに言う、「郊外の某処に埋む」と。之を発けば悉く獲たり。諸少相顧みて駭愕して云う、「天、我を亡ぼす」と。遂に案を結び決を伺う。一指揮、之を疑いて其の故を得ず。沈思すること良や久しくして曰く、「我が左右の中に一髯有り、職は馬を豢うのみ。何ぞ斯の獄を訊するたびに輒ち侍側するを得んや」と。因りて復た囚を引きて鞫すること数四、察するに髯は必ず至り、他は則ち否なり。猝かに呼びて問えば、髯は他無しと辞す。即ち炮烙の具を取らしむれば、髯は叩頭して左右を屏けんことを請い、乃ち曰く、「初め事の本末を知らず。唯だ盗、奴に賂し、斯の獄を治むる毎に、必ず公と囚との言を記して馳せ報ぜしめ、我に百金を酬ゆるを許せり」と。乃ち知る、発く所の贓は、皆な報を得て宵に瘞めしことを。髯、賊を擒えて自ら贖わんことを請う。指揮、数兵をして雑衣して与に往かしむ。僻境に至り、悉く之を擒え、諸少乃ち釈かるるを得たり。
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『智囊』得情・袁滋李汧公勉、鳳翔に鎮す。属邑の耕夫、馬蹄金一甕を得、県宰に送る。宰は公の蔵の守り厳ならざるを慮り、私室に置く。信宿して之を視るに、皆な土塊なるのみ。甕金の出土の際、郷社悉く来たりて観験し、遽に変更有れば、駭異せざる莫く、以て府に聞す。宰は自ら明らかにする能わず、遂に金を易えしを以て誣服す。詞款具に存すと雖も、隠用の所を窮むる莫し。案を以て上聞す。汧公覧て甚だ怒る。俄に筵宴有り、語は斯の事に及び、咸な共に驚異す。時に袁相国滋は幕中に在り、俯首して答うる無し。汧公之を詰す。袁曰く、「某、此の事に枉有るを疑うのみ」と。汧公曰く、「当に見る所有るべし。判官に非ざれば、情偽を探る莫し」と。袁曰く、「諾」と。獄を府中に移さしめ、甕間を閲するに、二百五十余塊を得たり。遂に列肆に金を索め、深く瀉して塊と相等しからしむるに、始めて其の半ばを称す。已に三百斤に及ぶ。其の負担の人力を詢うに、乃ち二農夫の竹を以て舁ぎて県に至れるなり。其の金数を計るに、二人の担いて挙ぐべき所に非ず。其の路に在りし時、金は已に化して土と為れるを明らかにす。是に於いて群情大いに豁し、宰は清雪を獲たり。
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『智囊』詰奸・錢藻銭藻、兵を密雲に備う。二京軍有り、人を通州に劫かす。之を獲たるも服せず、州以て藻に白す。二賊は京軍なるを恃み、出語無状なり。藻乃ち甲を大門の外に移し、独り乙を留めて鞫問すること数四、声色甚だ厲し。已にして筆を握りて百許字を作り、乙の口語を録するが若き状にして、遣り去らしむ。隨いて甲を以て入らしめ、之を紿きて曰く、「乙は已に実を吐けり。事は汝に由る。乙は当に生くべし。汝は当に死すべし」と。甲は其の紿くを意わず、忿然として曰く、「乙は本と首事なり。何ぞ我に委ねんや」と。乃ち尽く乙の首事の状を白す。藻、乙を出だして之に証し、遂に法の如くに論ず。
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『智囊』詰奸・向敏中向敏中、西京に在りしとき、僧の暮れに村を過ぎて寄宿を求むる有り。主人許さず。是に於いて権に主人の外の車廂に寄宿す。夜、盗の牆上より一婦人の囊衣を扶けて出づる有り。僧自ら念う、主人に納れられず、今、主人の家、其の婦人及び財を亡えば、明日必ず我を執えんと。因りて亡げ去り、誤りて眢井に墮つ。則ち婦人は已に盗の殺す所と為り、先に井中に在り。明日、主人、蹤跡して之を得、執えて県に詣る。僧、自ら誣いて服す。「誘いて与に俱に亡げ、追う者を懼れて、因りて之を殺して井中に投じ、暮夜に覚えず足を失い、亦た墜つ。贓は井の旁らに在りしが、何人の取り去りしかを知らず」と。獄成りて府に言う。府は皆な平允とするも、独り敏中のみ贓の獲られざるを以て疑いを致し、乃ち僧を引きて固く問い、其の実を対うるを得たり。敏中、密かに吏をして出でて訪ねしむ。吏、村店に食す。店の嫗、府中より来たるを聞き、問いて曰く、「僧の獄は何如」と。吏、之を紿きて曰く、「昨に已に笞死せり」と。嫗曰く、「今、賊を獲ば何如」と。曰く、「已に誤りて此の獄を決せり。賊を獲ると雖も亦た問わず」と。嫗曰く、「之を言うも傷つくる無し。婦人は乃ち村中の少年某甲の殺す所なり」と。其の舎を指示す。吏、舎に就きて掩捕して之を獲たり。案問して具に服し、並びに其の贓を得て、僧乃ち出づるを得たり。〔馮述評〕前代の明察の官、其の事を成すこと往往にして吏の力を得たり。吏は公挙に出ず、故に用うべきの才多し。今、銭を出して吏を納む。吏を以て市と為すのみ。令、獄を訪ぬれば、便ち獄を鬻ぐ。況んや官の心、猶お吏のごとくなれば、民安んぞ冤せられざるを得んや。
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『智囊』得情・鄭洛書・許進・姚公・張昺鄭洛書、上海県に知たり。嘗て履端に郡に謁し、帰りて海口に泊す。沈屍有り、圧すに石磨を以てするを、忽ち之を見て、歎じて曰く、「此れ必ず客死ならん。故に余の告ぐる莫きなり」と。人を遣わして之を偵わしむるに、近村の民家に石磨有り、其の牡を失えり。執え来たりて相吻合す。一訊して即ち伏す。果たして江西の売卜人にして、歳晏れて将に帰らんとするに、房主、其の財を利して殺せるなり。単県に田作する者有り、其の婦、之に餉す。食い畢わりて死す。翁、故に曰く、「婦の意なり」と。官に陳ぶ。箠楚に勝えず、遂に誣服す。是れより天久しく雨ふらず。許襄毅公、時に山東に官たり。曰く、「獄に其れ冤有らんか」と。乃ち親ら其の地を歴め、獄囚を出して遍く審す。餉婦に至り、乃ち曰く、「夫婦の相守るは、人の至願。鴆毒もて人を殺すは、計の至密なる者なり。焉んぞ自ら田に餉して之を鴆する者有らんや」と。遂に其の餽する所の飲食、経る所の道路を詢う。婦曰く、「魚湯と米飯にして、荊林より度り、他の異なる無きなり」と。公乃ち魚を買い飯を作り、荊花を其の中に投じて、之を狗彘に試むるに、死せざる無し。婦の冤乃ち白し、即日大雨注ぐが如し。蘇人、商に外に出づ。其の妻は雞数隻を蓄えて以て其の帰りを待つ。数年にして方に返り、雞を殺して之を食らえば、夫即ち死す。隣人は外奸有るかと疑い、之を太守姚公に首す。鞫するも他の故無し。意うに其の雞に毒有りと。人をして老雞を覓め、当に死すべき囚と遍く之を食わしむるに、果たして二人を殺す。獄遂に白し。蓋し雞は蜈蚣百虫を食えば、久しくして毒を蓄う。故に養生家は雞の老いたるを食わず、又た夏は雞を食わず。
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