導師導古典を学びたいすべての人に 法人向けワークシート法人向けワークシート

智囊 / 得情・黃霸・李崇

潁川有富室,兄弟同居,婦皆懷妊。長婦胎傷,弟婦生男,長婦遂盜取之。爭訟三年,州郡不能決。丞相黃霸令走卒抱兒,去兩婦各十步,叱令自取,長婦抱持甚急,兒大啼叫,弟婦恐致傷,因而放與,而心甚懷愴,霸曰:「此弟子。」責問乃伏。〔馮述評〕陳祥斷惠州爭子事類此。祥知惠州,郡民有二女嫁為比鄰者,姊素不孕,一日妹生子,而姊之妾適同時產女,詭言產子,夜燒妹傍舍,乘亂竊其兒以歸。妹覺之,往索,弗予,訟於府。無證,祥佯自語:「必殺此兒事即了耳。」乃置甕水堂下,引二婦出曰:「吾為汝溺此兒以解汝紛。」密諭一卒謹視兒,而叱左右詐為投兒狀,亟逐二婦使出,其妹失聲爭救不可得,顛仆堂下,而姊竟去不顧。祥即斷兒歸妹而杖姊、妾,一郡稱神。壽春縣人苟泰,有子三歲,遇賊亡失,數年不知所在。後見在同縣趙奉伯家,泰以狀告,各言己子,並有鄰證,郡縣不能斷。

新字:潁川有富室,兄弟同居,婦皆懐妊。長婦胎傷,弟婦生男,長婦遂盗取之。争訟三年,州郡不能決。丞相黄覇令走卒抱児,去両婦各十歩,叱令自取,長婦抱持甚急,児大啼叫,弟婦恐致傷,因而放与,而心甚懐愴,覇曰:「此弟子。」責問乃伏。〔馮述評〕陳祥断恵州争子事類此。祥知恵州,郡民有二女嫁為比鄰者,姊素不孕,一日妹生子,而姊之妾適同時産女,詭言産子,夜焼妹傍舎,乗乱窃其児以帰。妹覚之,往索,弗予,訟於府。無証,祥佯自語:「必殺此児事即了耳。」乃置甕水堂下,引二婦出曰:「吾為汝溺此児以解汝紛。」密諭一卒謹視児,而叱左右詐為投児状,亟逐二婦使出,其妹失声争救不可得,顛仆堂下,而姊竟去不顧。祥即断児帰妹而杖姊、妾,一郡称神。寿春県人苟泰,有子三歳,遇賊亡失,数年不知所在。後見在同県趙奉伯家,泰以状告,各言己子,並有鄰証,郡県不能断。

書き下し

潁川に富室有り。兄弟同居し、婦は皆懐妊す。長婦は胎傷ち、弟の婦は男を生む。長婦遂に之を盗み取る。争訟すること三年、州郡決する能わず。丞相黄霸、走卒をして児を抱かしめ、両婦を去ること各おの十歩にして、叱して自ら取らしむ。長婦は抱持すること甚だ急にして、児大いに啼叫す。弟の婦は傷を致さんことを恐れ、因りて放ち与え、而して心甚だ愴みを懐く。霸曰く、「此れは弟の子なり」と。責め問えば乃ち伏す。〔馮述評〕陳祥の恵州の争子を断ずる事、此れに類す。祥、恵州に知たり。郡民に二女の嫁ぎて比鄰たる者有り。姉は素より孕まず、一日、妹子を生み、而して姉の妾も適たま同時に女を産むも、詭りて子を産むと言う。夜、妹の傍舎を焼き、乱に乗じて其の児を窃みて以て帰る。妹之を覚り、往きて索むるも予えず、府に訴う。証無し。祥、佯りて自ら語りて曰く、「必ず此の児を殺さば事即ち了わらんのみ」と。乃ち甕水を堂下に置き、二婦を引き出して曰く、「吾、汝が為に此の児を溺れしめて以て汝が紛を解かん」と。密かに一卒に諭して謹みて児を視しめ、而して左右を叱して児を投ずる状を詐らしめ、亟かに二婦を逐いて出ださしむ。其の妹は失声して争い救わんとするも得ず、堂下に顛仆す。而して姉は竟に去りて顧みず。祥即ち児を断じて妹に帰し、姉・妾を杖つ。一郡称して神とす。寿春県の人苟泰に、子三歳なる有り。賊に遇いて亡失し、数年、所在を知らず。後に同県の趙奉伯の家に在るを見る。泰、状を以て告ぐ。各おの己が子と言い、並びに鄰の証有りて、郡県断ずる能わず。

現代語訳

潁川に富裕な家があった。兄弟が同居し、二人の妻はどちらも身ごもった。兄の妻は流産し、弟の妻は男の子を産んだ。兄の妻はその子を盗み取った。訴訟は三年にわたり、州郡も決められなかった。丞相の黄霸は下役に子を抱かせ、二人の妻から十歩ずつ離れた所に立たせて、叱りつけて自分で取らせた。兄の妻は子をひどくきつく抱きしめ、子は大声で泣き叫んだ。弟の妻は子を傷つけるのを恐れて手を放したが、心はひどく悲しみに沈んでいた。黄霸は「これは弟の妻の子だ」と言い、責めて問うと兄の妻は白状した。〔馮夢龍の評〕陳祥が恵州で子の取り合いを裁いた件も、これに似ている。陳祥が恵州の長官だったとき、隣り合って嫁いだ二人の姉妹がいた。姉はもともと子ができず、ある日、妹が男の子を産み、姉の妾もちょうど同じ時に女の子を産んだのに、偽って男の子を産んだと言った。夜、妹の隣の部屋に火をつけ、混乱に乗じてその子を盗んで帰った。妹は気づいて取り返しに行ったが渡されず、府に訴えた。証拠はなかった。陳祥は偽ってひとりごとのように言った。「この子を殺せば事は片づくだろう」。そこで甕に水を入れて堂の下に置き、二人の婦人を連れ出して言った。「おまえたちのために、この子を溺れさせて争いを解決しよう」。ひそかに一人の兵に子をよく見守るよう言いつけ、左右の者を叱って子を投げ込む様子を装わせ、すぐに二人の婦人を追い出させた。妹は声を上げて争い救おうとしたが及ばず、堂の下に倒れ込んだ。姉はそのまま立ち去って振り返りもしなかった。陳祥はただちに子を妹に返すと裁き、姉と妾を杖で打った。一郡の人々は神のようだと称えた。寿春県の人、苟泰には三歳の子がいたが、賊に出会って行方知れずになり、数年、居所がわからなかった。後に同じ県の趙奉伯の家にいるのを見つけた。苟泰が訴え出ると、双方が自分の子だと言い、それぞれ隣人の証言もあって、郡県は決めることができなかった。

解説

本物の母親は子を傷つけまいとして手を放し、偽の母親は奪うことに必死でした。黄霸は、愛情が行動の違いとして現れる場面を作り、言葉の争いを超えて真実を見せました。馮夢龍が添えた陳祥の例も、子を殺すふりをして本心を引き出す点で同じ型です。管理職の場面にも通じます。利害が絡む対立では、どちらの主張が正しいかを議論するより、本心が隠せない状況を設計して反応を観察するほうが確かな判断材料を得られます。ただし後半の苟泰の件は次の話に続いており、原文はここで途切れます。

この章句が説くこと

十歩自ら取らしむ胎傷ち愛情本心の見抜き方判断

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る