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智囊 / 剖疑・蕭瑀・陸粲

唐蕭瑀不信佛法。有胡僧善咒瑀,能死生人。上試之,有驗。蕭瑀曰:「僧若有靈,宜令咒臣。」僧奉敕咒瑀,瑀無恙,而僧忽僕。陸貞山粲所居前有小廟,吳俗以禮「五通神」,謂之「五聖」,亦曰:「五王」。陸病甚,卜者謂五聖為祟,家人請祀之。陸怒曰:「天下有名為正神,爵稱侯王、而挈母妻就人家飲食者乎?且脅詐取人財,人道所禁,何況於神?此必山魈之類耳。今與神約,如能禍人,宜加某身。某三日不死,必毀其廟!」家人咸懼。至三日,病稍間,陸乃命僕撤廟焚其像。陸竟無恙。其家至今不祀「五聖」。〔馮述評〕子云「智者不惑」。其答問智,又曰:「敬鬼神而遠之。」然則易惑人者,無如鬼神,此巫家所以欺人而獲其志也。今夫人鬼共此世間,鬼不見人,猶人不見鬼,陰陽異道,各不相涉。方其旺也,兩不能傷。及其氣衰,亦互為制。惟夫惑而近之,自居於衰而授之以旺,故人不靈而鬼靈耳。西門豹以下,可謂偉丈夫矣。近世巫風盛行,瘟神儀從,侈於欽差;白蓮名牒,繁於學籍。將未來知所終也,識者何以挽之?

新字:唐蕭瑀不信仏法。有胡僧善咒瑀,能死生人。上試之,有験。蕭瑀曰:「僧若有霊,宜令咒臣。」僧奉勅咒瑀,瑀無恙,而僧忽僕。陸貞山粲所居前有小廟,呉俗以礼「五通神」,謂之「五聖」,亦曰:「五王」。陸病甚,卜者謂五聖為祟,家人請祀之。陸怒曰:「天下有名為正神,爵称侯王、而挈母妻就人家飲食者乎?且脅詐取人財,人道所禁,何況於神?此必山魈之類耳。今与神約,如能禍人,宜加某身。某三日不死,必毀其廟!」家人咸懼。至三日,病稍間,陸乃命僕撤廟焚其像。陸竟無恙。其家至今不祀「五聖」。〔馮述評〕子云「智者不惑」。其答問智,又曰:「敬鬼神而遠之。」然則易惑人者,無如鬼神,此巫家所以欺人而獲其志也。今夫人鬼共此世間,鬼不見人,猶人不見鬼,陰陽異道,各不相渉。方其旺也,両不能傷。及其気衰,亦互為制。惟夫惑而近之,自居於衰而授之以旺,故人不霊而鬼霊耳。西門豹以下,可謂偉丈夫矣。近世巫風盛行,瘟神儀従,侈於欽差;白蓮名牒,繁於学籍。将未来知所終也,識者何以挽之?

書き下し

唐の蕭瑀、仏法を信ぜず。胡僧の善く瑀を咒し、能く人を死生せしむる有り。上之を試すに、験有り。蕭瑀曰く、「僧若し霊有らば、宜しく臣を咒せしむべし」と。僧、敕を奉じて瑀を咒すも、瑀恙無く、僧忽ち僕る。陸貞山粲、居る所の前に小廟有り、呉の俗は五通神を以て礼し、之を五聖と謂い、亦た五王と曰う。陸、病甚だしく、卜者は五聖の祟りと為すと謂い、家人之を祀らんことを請う。陸怒りて曰く、「天下に名は正神為り、爵は侯王と称しながら、母妻を挈えて人家に就きて飲食する者有らんや。且つ脅詐して人の財を取るは、人道の禁ずる所、何ぞ況んや神をや。此れ必ず山魈の類のみ。今、神と約す、如し能く人に禍せば、宜しく某の身に加えよ。某三日死せずんば、必ず其の廟を毀たん」と。家人咸な懼る。三日に至りて、病稍く間え、陸乃ち僕に命じて廟を撤し其の像を焚かしむ。陸竟に恙無し。其の家は今に至るも五聖を祀らず。〔馮述評〕子云う「智者は惑わず」と。其の智を問うに答えて、又曰く、「鬼神を敬して之を遠ざく」と。然らば則ち人を惑わし易き者は、鬼神に如くは無し。此れ巫家の人を欺きて其の志を獲る所以なり。今夫れ人鬼は此の世間を共にし、鬼の人を見ざるは、猶お人の鬼を見ざるがごとし。陰陽道を異にし、各おの相い渉らず。其の旺んなるに方たりては、両つながら傷つくること能わず。其の気衰うるに及びては、亦た互いに制を為す。惟だ夫の惑いて之に近づき、自ら衰に居りて之に旺を授くれば、故に人は霊ならず、鬼は霊なるのみ。西門豹より以下は、偉丈夫と謂うべし。近世巫風盛んに行われ、瘟神の儀従は欽差より侈り、白蓮の名牒は学籍より繁し。将に未来の終わる所を知らんとす、識者何を以て之を挽せんや。

現代語訳

唐の蕭瑀は仏法を信じなかった。ある西域の僧が、呪いをかけて人を生かしたり殺したりできると称していた。皇帝が試させると、効き目があった。蕭瑀は言った。「僧に本当に霊力があるなら、私に呪いをかけさせてください」。僧は勅命を受けて蕭瑀を呪ったが、蕭瑀は何事もなく、僧のほうが突然倒れた。陸貞山こと陸粲の住まいの前に小さな廟があった。呉の風習では五通神を祭り、五聖とも五王とも呼んだ。陸が重い病にかかった時、占い師は五聖のたたりだと言い、家の者は祭ることを願った。陸は怒って言った。「天下に、名は正しい神であり、爵位は侯王を称しながら、母や妻を連れて人の家に飲み食いに行く者がいようか。しかもおどして人の財物を取るのは人の道が禁じることで、まして神がそんなことをするだろうか。これは必ず山の化け物の類だ。今、神と約束する。もし人に禍をなせるなら、私の身に加えよ。私が三日たっても死ななければ、必ずその廟を壊す」。家の者は皆恐れた。三日目になって、病は少し軽くなり、陸は召使に命じて廟を取り払い、神像を焼かせた。陸はついに無事で、その家は今も五聖を祭らない。〔馮述評〕孔子は「智者は惑わない」と言い、智について問われて「鬼神は敬うが遠ざける」とも答えた。思えば人を惑わしやすいものは鬼神に勝るものはなく、だから巫術を使う者は人を欺いて目的を果たすのだ。人と鬼は同じ世に住むが、鬼が人を見ないのは人が鬼を見ないのと同じで、陰と陽は道が違い、互いに関わらない。人が盛んな時は互いに傷つけられず、気が衰えた時は互いに制し合う。ただ惑ってこれに近づき、自分が衰えた状態で相手に勢いを授けるから、人が霊験を失い鬼が霊験を得るのだ。西門豹以下の者たちは、立派な男と言える。近ごろは巫術の風潮が盛んで、疫病神の行列は勅使より華やかであり、白蓮教の名簿は学校の学籍より多い。いずれ行く末がどうなるか、識者はどう挽回するのだろうか。

解説

蕭瑀は、霊力があるなら私に試せと迫り、陸粲は、神ならば自分に禍を下してみよと三日の期限を切りました。どちらも、信じてしまう側が相手を恐れて身を差し出すから力が生まれるという構造を、正面から試して崩しています。馮夢龍は、惑って近づき自ら衰えるから鬼が霊験を得ると述べます。現代でも、権威や不安をあおる言説に従う人が増えるほど、それが力を持ちます。不安な時ほど、検証できる形で相手に試させ、証拠で判断することが、組織を迷信から守ります。

この章句が説くこと

智者不惑敬鬼神而遠之約三日不死必毀其廟検証判断

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