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智囊 / 知微・王禹偁・何心隱

李臨川先生《見聞雜記》云,陸公樹聲在家日久,方出為大宗伯,不數月,引疾歸。沈太史一貫當晚攜弇報國寺訪之,訝公略無病意,問其亟歸之故。公曰:「我初入都,承江陵留我閣中具飯,甚盛意也。第飯間,江陵從者持鬃抿刷雙鬢者再,更換所穿衣服數四,此等舉動,必非端人正士。且一言不及政事,吾是以不久留也。」噫!陸公可謂「見幾而作」矣!

新字:李臨川先生《見聞雑記》云,陸公樹声在家日久,方出為大宗伯,不数月,引疾帰。沈太史一貫当晩攜弇報国寺訪之,訝公略無病意,問其亟帰之故。公曰:「我初入都,承江陵留我閣中具飯,甚盛意也。第飯間,江陵従者持鬃抿刷双鬢者再,更換所穿衣服数四,此等舉動,必非端人正士。且一言不及政事,吾是以不久留也。」噫!陸公可謂「見幾而作」矣!

書き下し

李臨川先生『見聞雑記』に云う、陸公樹声、家に在ること日久しく、方に出でて大宗伯と為る。数月ならずして、疾を引きて帰る。沈太史一貫、当晩弇を携えて報国寺に之を訪う。公の略ぼ病意無きを訝り、其の亟かに帰る故を問う。公曰く、「我初めて都に入るや、江陵、我を閣中に留めて飯を具え、甚だ盛意なり。第だ飯の間に、江陵の従者、鬃の抿刷を持ちて双鬢を刷ること再び、更に衣服を換えること数四。此等の挙動、必ず端人正士に非ず。且つ一言も政事に及ばず。吾是を以て久しく留まらざるなり。」噫、陸公は「幾を見て作つ」と謂うべし。

現代語訳

李臨川先生の『見聞雑記』にこうある。陸樹声公は長らく郷里にいたが、ようやく出仕して礼部尚書(大宗伯)となった。ところが数か月もたたないうちに、病気を理由に辞職して帰った。翰林の沈一貫はその晩、弇州の人を連れて報国寺に訪ね、陸公に病の様子がほとんどないのをいぶかしみ、急に帰る理由をたずねた。陸公は答えた。「私が初めて都に入ったとき、張居正(江陵)は私を内閣に留めて食事を用意し、まことに手厚いもてなしだった。ところが食事の間に、張居正の従者が、びんをなでつける櫛のようなものを持って、両びんを二度も梳き、さらに着替えまで四度もさせた。このような振る舞いは、決して端正で立派な人のものではない。しかも一言も政事に触れなかった。私はだからここに長くは留まらないのだ。」ああ、陸公は『易』にいう「兆しを見て立ち上がる」ことのできた人だといえよう。

解説

食事の席での些細な様子から相手を見切り、さっさと辞めた陸樹声の話です。見た目を気にして何度も着替え、身なりを整えさせる一方で、政治の話は一言もしない。そこに、自分を飾ることが関心の中心にあり、公務を語る気がない人物の姿を読みました。第一印象や接待の場には、その人の優先順位がにじみます。経営者や管理職も、取引先や上司、新しい職場の経営者の言動を観察し、価値観が自分と合うか早めに見極める目を持ちたいものです。違和感を感じたまま長居せず、見切るべき時には潔く去る判断も、一つの危機管理といえるでしょう。

この章句が説くこと

見幾而作一言不及政事鬃抿刷双鬢見切り引き際人物観察

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