智囊 / 通簡・牛弘・明鎬
奇章公牛弘有弟弼,好酒而酗。嘗醉,射殺弘駕車牛。弘還宅,妻迎謂曰:「叔射殺牛。」弘直答曰:「可作脯。」〔馮述評〕冷然一語,掃卻婦人將來多少唇舌!睦倫者當以為法。明鎬為龍圖閣直學士,知并州時,邊任多紈絝子弟,鎬乃取尤不職者杖之,疲軟者皆自解去,遂奏擇習事者守堡砦。軍行,娼婦多從者,鎬欲驅逐,惡傷士卒心。會有忿爭殺娼婦者,吏執以白,鎬曰:「彼來軍中何邪?」縱去不治,娼聞皆走散。〔馮述評〕不傷士卒心,而令彼自散,以此馭眾,何施不可,寧獨一事乎?
新字:奇章公牛弘有弟弼,好酒而酗。嘗酔,射殺弘駕車牛。弘還宅,妻迎謂曰:「叔射殺牛。」弘直答曰:「可作脯。」〔馮述評〕冷然一語,掃却婦人将来多少唇舌!睦倫者当以為法。明鎬為竜図閣直学士,知并州時,辺任多紈絝子弟,鎬乃取尤不職者杖之,疲軟者皆自解去,遂奏択習事者守堡砦。軍行,娼婦多従者,鎬欲駆逐,悪傷士卒心。会有忿争殺娼婦者,吏執以白,鎬曰:「彼来軍中何邪?」縦去不治,娼聞皆走散。〔馮述評〕不傷士卒心,而令彼自散,以此馭衆,何施不可,寧独一事乎?
書き下し
奇章公牛弘に弟弼有り、酒を好みて酗す。嘗て酔い、弘の駕する車の牛を射殺す。弘、宅に還れば、妻迎えて謂いて曰く、「叔、牛を射殺せり」と。弘は直ちに答えて曰く、「脯と作す可し」と。〔馮述評〕冷然たる一語、婦人の将来の多少の唇舌を掃却す。倫を睦ぐ者は当に以て法と為すべし。明鎬は龍図閣直学士と為り、并州に知たりし時、辺任に紈絝の子弟多く、鎬は乃ち尤も不職なる者を取りて之を杖つ。疲軟なる者は皆自ら解き去り、遂に奏して事に習いし者を択びて堡寨を守らしむ。軍行くに、娼婦の従う者多く、鎬は駆逐せんと欲すれども、士卒の心を傷つくるを悪む。会ま忿争して娼婦を殺す者有り、吏執えて以て白す。鎬曰く、「彼、軍中に来たりて何ぞや」と。縦ちて去らしめ治めず、娼は聞きて皆走り散ず。〔馮述評〕士卒の心を傷つけずして、彼をして自ら散ぜしむ。此れを以て衆を馭せば、何れの施すとして可ならざらん。寧ぞ独り一事のみならんや。
現代語訳
奇章公の牛弘には弼という弟がおり、酒を好んで酒乱であった。ある時、酔って、牛弘が乗る車の牛を射殺してしまった。牛弘が家に帰ると、妻が迎えて言った。「叔父が牛を射殺しました」。牛弘はすぐに答えた。「干し肉にすればよい」。〔馮述評〕冷静な一言が、妻のこの先のあれこれの小言を払いのけた。兄弟の仲を保とうとする者は、これを手本とすべきである。明鎬は龍図閣直学士となり、并州を治めた時、辺境の任地には遊び暮らす貴族の子弟が多かったので、鎬は特にひどい者を杖で打った。気力のない者はみな自分から辞めて去り、そこで上奏して、実務に慣れた者を選んで砦を守らせた。軍が進むとき、娼婦が多くついて来たので、鎬は追い払おうとしたが、兵士の心を傷つけるのを嫌った。ちょうど喧嘩で娼婦を殺す者が出て、役人が捕らえて報告した。鎬は言った。「彼女たちは軍中に来て何をしていたのか」。罰せず放免すると、娼婦たちはそれを聞いてみな逃げ散った。〔馮述評〕兵士の心を傷つけずに、娼婦が自分から散るように仕向けた。この方法で大勢を御せば、何事でも通用しないことはなく、一つのことに限らない。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『智囊』見大・丙吉・郭進吉、相と為るや、馭吏に酒を嗜む者有り、吉に従いて出で、酔いて丞相の車上に嘔す。西曹の主吏は白して之を斥けんと欲す。吉曰く、醉飽の失を以て士を去らば、此の人をして復た何れに容れしめんや。西曹は第だ之を忍べ。此れ丞相の車茵を汚すに過ぎざるのみ、と。此の馭吏は辺郡の人にして、辺塞の奔命警備の事を習知す。嘗て出でて、適たま駅騎の赤白の囊を持ち、辺郡の奔命の書を発して馳せ至るを見る。馭吏は因りて駅騎に随いて公車に至り、刺取して、虜の雲中・代郡に入るを知り、遽に帰る。吉に見えて状を白し、因りて曰く、虜の入る所の辺郡は、二千石の長吏に老病にして兵馬に任えざる者有らん。宜しく豫め視るべし、と。吉は其の言を善とし、東曹を召して辺長吏を案じ、其の人を科条せしむ。未だ已まざるに、詔して丞相・御史を召し、入る所の郡吏を問う。吉は具に対う。御史大夫は卒遽にして詳らかに知る能わず、以て譴讓を得たり。而して吉は辺を憂い職を思うと謂われしは、馭吏の力なり。郭進は山西巡検に任ず。軍校の闕に詣りて進を訟うる者有り。上は召して訊い、其の誣なるを知り、即ち遣りて進に送り、之を殺さしむ。会たま并寇入る。進は其の人に謂いて曰く、汝は能く我を訟う、信に胆気有り。今、汝の罪を赦す。能く并寇を掩殺せば、即ち汝を朝に薦めん。如し敗れなば、即ち自ら河に役せよ。我が剣を汚す毋かれ、と。其の人は踴躍して赴き闘い、竟に大捷す。進は即ち薦めて之を擢く。〔馮述評〕小過を容るる者は、一長を以て酬いられ、大仇を釈す者は、死力を以て報いらる。唯だ酬報の情の中に迫れば、故に其の長は之に触れて必ず試み、其の力は之に激して必ず竭くす。彼の過ちを索め仇を尋ぬる者は、豈に大愚に非ずや。
-
『智囊』識斷・祝知府南昌の祝守、廉能を以て名あり。寧府に鶴有り、民の犬の為に咋み死せらる。府卒これを訟えて云う、「鶴に金牌有り、乃ち御賜に出づ」と。祝公判じて云う、「鶴は金牌を帯ぶるも、犬は字を識らず。禽獣相い傷つくは、豈に人事に干らんや」と。竟に其の人を縦つ。又た両家の牛闘い、一牛死す。判じて云う、「両牛相い争い、一は死し一は生く。死せる者は同に享け、生ける者は同に耕せ」と。
-
『智囊』知微・夏翁・尤翁〔馮述評〕呂文懿公が初めて相位を辞して、故里に帰ると、海内は仰ぐこと山斗の如くであった。郷人で酔ってこれを詈る者がいたが、公は僕者に較うことなかれと戒めた。年を逾えて、その人は死刑を犯して獄に入った。呂は始めて悔いて曰く、「もし当時、稍や計較して、公家に送って責め治めさせていれば、小懲を以て大戒とすることができた。吾はただ厚きを存しようと欲したが、悪を養成して、人を過ちの地に陥れるに至ろうとは思わなかった」と。議する者はこれを仁人の言とした。或いは疑うに、この事は夏・尤の二翁と相反する。子猶(馮夢龍)は曰く、不然である。酔って詈る者は悪習であり、理の有る所であるから、これを創して改めさせるべきである。理外の事のごときは、また理外を以て容れるべきである。智は活水の如く、どうして一轍に拘るべきであろうか。
-
『智囊』詰奸・包拯・秦檜・慕容彥超包孝粛、天長県に知たり。牛の舌を盗み割る者を訴うる有り。公は帰りて其の牛を屠りて鬻がしむ。既にして此の人の牛を盗み殺せしを告ぐる者有り。公曰く、「何為れぞ其の家の牛の舌を割きて、而も又之を告ぐるや」と。盗む者驚き伏す。秦檜は相と為り、都堂の左揆の前に石榴一株有り、実を著くる毎に、檜は黙して之を数う。,其の二を亡えども、檜は佯りて問わず。一日、馬を排せんとして、忽ち左右を顧みて斧を取りて樹を伐らしむ。親吏の旁に在る有り、倉卒に対えて曰く、「実は佳なること甚し、之を去るは惜しむべし」と。檜は反顧して曰く、「汝は吾が榴を盗み食らえり」と。吏は叩頭して服す。新櫻を慕容彦超に献ずる者有り。俄かにして給役の人に盗み食らわれ、主者之を白す。彦超は給役の人を呼び、偽りて之を慰めて曰く、「汝らは豈に敢て新物を盗まんや。蓋し主者の誣いて執るのみ。憂懼を懐くこと勿れ」と。各おの賜うに酒を以てし、潜かに左右をして「藜蘆散」を入れしむ。既に飲めば、立ちどころに皆嘔吐し、新櫻は在り。是に於て罪に伏す。
-
『智囊』通簡・文彥博文潞公は成都に知たり。嘗て大雪の日に客を会し、夜久しくして罷まず。従卒に誶語する者有り、共に井亭を拆ちて燒き以て寒を禦ぐ。軍校は之を白し、座客は股栗す。公は徐ろに曰く、「天は実に寒し、拆ちて之に与うべし」と。神色自若として、飲宴故の如し。卒の気は沮み、以て変を為す無し。明日、乃ち先に拆ちし者を究問し、杖して遣る。〔馮述評〕気は猶お火のごとし。之を挑せば則ち発し、其の薪を去れば則ち自ら熄む。以て乱を弭むべく、以て争を息むべし。蘇軾は密郡に通判たり。盗の発して未だ獲られざる有り。安撫使は三班使臣をして悍卒数十人を領して境に入りて之を捕らえしむ。卒は凶暴にして恣に行い、禁物を以て民を誣い、強いて其の家に入りて争闘し、人を殺すに至り、罪を畏れて驚き散ず。民は軾に訴うるも、軾は其の書を投じて視ず、曰く、「必ず此に至らず」と。悍卒は之を聞き、頗る用て自ら安んず。軾は徐ろに人をして招き出だして之を戮せしむ。事に遇いては須らく此の鎮定の力量有るべし。然れども識到らざれば、則ち力足らず。
-
『智囊』見大・楚莊王・袁盎胡酋の蘇慕恩は部落最も強し。種世衡は嘗て夜に与に飲み、侍姫を出して酒を佐けしむ。既にして世衡は起ちて内に入り、慕恩は竊かに姫と戯る。世衡は遽に出でて之を掩い、慕恩は慚愧して罪を請う。世衡は笑いて曰く、君は之を欲するか、と。即ち以て之に遺る。是に由りて諸部に二心有る者あれば、慕恩をして之を討たしむるに、克たざる無し。張説に門下生の其の寵婢を盗む者有り、之を法に置かんと欲す。此の生は呼びて曰く、相公は豈に緩急に人を用うる時無からんや。何ぞ一婢を惜しまん、と。説は其の言を奇とし、遂に以て賜いて遣る。後、杳として聞こえず。姚崇の構うるに遭い、禍は且に測られざらんとするに及び、此の生は夜に至り、夜明簾を以て九公主に献ぜんことを請い、為に玄宗に言いて、解くを得たり。金兀術は一小卒の妻を愛し、卒を殺して之を奪い、寵して専房せしむ。一日、昼寝より覚め、忽ち此の婦の利刃を持ちて向かわんとするを見る。驚き起ちて之を問う。曰く、夫の為に仇を報いんと欲するのみ、と。術は黙然として、麾きて去らしむ。即日、大いに将士に享し、此の婦を召し出して謂いて曰く、汝を殺さば則ち罪無し。汝を留めば則ち不可なり。汝に諸将の中より自ら従う所を択ぶに任ず、と。婦は一人を指し、術は即ち之を賜う。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る