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智囊 / 遠猶・王守仁

陽明公既擒逆濠,江彬等始至。遂流言誣公,公絕不為意。初謁見,彬輩皆設席於旁,令公坐。公佯為不知,竟坐上席,而轉旁席於下。彬輩遽出惡語,公以常行交際事體平氣諭之,復有為公解者,乃止。公非爭一坐也,恐一受節制,則事機皆將聽彼而不可為矣。

新字:陽明公既擒逆濠,江彬等始至。遂流言誣公,公絶不為意。初謁見,彬輩皆設席於旁,令公坐。公佯為不知,竟坐上席,而転旁席於下。彬輩遽出悪語,公以常行交際事体平気諭之,復有為公解者,乃止。公非争一坐也,恐一受節制,則事機皆将聴彼而不可為矣。

書き下し

陽明公、既に逆濠を擒にするや、江彬ら始めて至る。遂に流言して公を誣うるも、公は絶えて意と為さず。初めて謁見するに、彬輩は皆席を旁に設け、公をして坐せしむ。公は佯りて知らざるが為し、竟に上席に坐し、而して旁席を転じて下に置く。彬輩遽かに悪語を出す。公は常行の交際の事体を以て気を平らかにして之を諭す。復た公の為に解く者有りて、乃ち止む。公は一坐を争うに非ざるなり。恐るるは、一たび節制を受けば、則ち事機皆な彼に聴きて為すべからざらんことを。

現代語訳

王陽明は反逆者の宸濠を捕らえたあと、江彬たちがようやく到着した。彼らは根も葉もない噂を流して王陽明を陥れようとしたが、王陽明はまったく気にしなかった。初めて対面したとき、江彬たちは席を脇に設けて王陽明を座らせようとした。王陽明は知らないふりをして、そのまま上席に座り、脇の席を動かして下に置いた。江彬たちはたちまち悪口を言い出した。王陽明は、通常の交際の作法を挙げて、平静に彼らを諭した。さらに王陽明のために取りなす者がいて、騒ぎは収まった。王陽明は席次を争ったのではない。ひとたび相手の指図を受ければ、あらゆる事態の対処が相手の意向に従うことになり、思うようにできなくなることを恐れたのである。

解説

席順は些細な作法に見えますが、王陽明にとっては指揮権の所在を示す問題でした。江彬ら寵臣の下に置かれれば、以後の戦後処理が彼らの意向に縛られ、判断の自由を失います。そこで知らぬふりをして上席に座り、礼の常識を引いて穏やかに諭しました。現代の管理職にも、会議の席次、報告の順序、決裁の経路といった小さな形式で、実質的な主導権が決まる場面があります。形式にこだわって争うのではなく、最終的に自分が責任を果たせる立場を守るために、静かに線を引く姿勢が読み取れます。

この章句が説くこと

上席に坐す節制を受く事機主導権交渉立場

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