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武士訓 / 卷三・第10段

士は。分限より身をひきさげて。諸事無造作に。かたちをつくろはず。身をかざらず。つねに着する衣服は。やぶれざればたれり。出仕のときといふとも。美服無用たるべし。外見をかざり。人形のやうに。つくろひたるは見苦し。むかし醍醐天皇儉約のおきてを萬人にしめさんとおぼしめし。時平大臣にはからせたまひ。有とき大臣との外にうるはしき裝束して。殿上に出仕せられしを。帝小じとみのかげより御覽じ。はなはだ御氣色をかゑられ。時平を御勘當まし〳〵。ひさしく出仕をゆるされざりしかば。これより人みな大におそれつゝしみて。かたく儉約を守けるとなり。

新字:士は。分限より身をひきさげて。諸事無造作に。かたちをつくろはず。身をかざらず。つねに着する衣服は。やぶれざればたれり。出仕のときといふとも。美服無用たるべし。外見をかざり。人形のやうに。つくろひたるは見苦し。むかし醍醐天皇倹約のおきてを万人にしめさんとおぼしめし。時平大臣にはからせたまひ。有とき大臣との外にうるはしき装束して。殿上に出仕せられしを。帝小じとみのかげより御覧じ。はなはだ御気色をかゑられ。時平を御勘当まし〳〵。ひさしく出仕をゆるされざりしかば。これより人みな大におそれつゝしみて。かたく倹約を守けるとなり。

書き下し

士は。分限より身をひきさげて。諸事無造作に。かたちをつくろはず。身をかざらず。つねに着する衣服は。やぶれざればたれり。出仕のときといふとも。美服無用たるべし。外見をかざり。人形のやうに。つくろひたるは見苦し。むかし醍醐天皇儉約のおきてを萬人にしめさんとおぼしめし。時平大臣にはからせたまひ。有とき大臣との外にうるはしき裝束して。殿上に出仕せられしを。帝小じとみのかげより御覽じ。はなはだ御氣色をかゑられ。時平を御勘當まし〳〵。ひさしく出仕をゆるされざりしかば。これより人みな大におそれつゝしみて。かたく儉約を守けるとなり。

現代語訳

士は身分よりも身を引き下げ、何事も飾り気なく、見かけをつくろわず、身を飾らないことです。ふだん着る衣服は、破れていなければ足ります。出仕のときであっても、美しい服は無用です。外見を飾り、人形のようにつくろうのは見苦しいものです。昔、醍醐天皇は倹約の掟を万人に示そうと思われ、時平大臣に取り計らわせました。あるとき時平が華やかな装束で殿上に出仕すると、帝は小蔀の陰からご覧になり、たいそうご機嫌を損ねて時平を勘当し、長く出仕をお許しになりませんでした。これより人はみな大いに恐れ慎み、固く倹約を守ったということです。

解説

この段は、士はふだんから飾らず、衣服は破れていなければ足りる、と説きます。出仕の日でさえ美服は無用で、人形のようにつくろうのは見苦しいとまで言い切ります。引かれる醍醐天皇の話では、倹約を掲げる側の時平が華やかな装束で出てきたため、勘当を受けています。人々が恐れ慎んだのは、掟を示す立場の者こそ、その掟を守らねばならなかったからでしょう。ここは身分の高い者に向けた当時の価値観の語りですが、いまの職場にも通じます。上に立つ人が経費や身なりで例外を作れば、どれほど節約を呼びかけても現場には届きません。まず自分が範を示せるかが、組織の空気を決めます。

この章句が説くこと

倹約身なり範を示す醍醐天皇時平武士訓

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